表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蘇生チートは都合が良い  作者: 秋鷺 照
2章 旅行
9/39

2-2 船

 海流に乗って安全に航海できる海路がある。定期的に船が通っており、それに乗って他の島や大陸に行くことができるのだ。

 吹き付ける潮風を浴びながら、轍夜とリィラは海を眺めていた。船の上である。

 この船は、西の大陸から東の大陸に向かって、途中の島に停泊しながら運航している。

 陽光を反射しキラキラと輝く海面からは、時折何かが顔をのぞかせる。海に住む種族だ。

「ねえ、あなた魔術師?」

 唐突に声がかけられた。振り向くと、30歳前後の女が立っている。

「はい。魔術師のリィラです」

「私はコロンノ。魔術師よ」

 握手を交わす2人を見ながら、轍夜は言った。

「あんたは杖持ってねーんだな」

 コロンノは驚いて轍夜を見た。

「何あなた。どういう意味?」

「へ?」

 険悪な空気を出すコロンノ。言われたことの意味を理解できない轍夜。

 リィラは少し考え、轍夜に尋ねる。

「もしかして、魔術師は杖で魔法を使うと思っているのですか?」

「え、ちげーの?」

「違います。普通は呪文を唱えて使うものなのです。この杖は呪具だと話したでしょう?」

「どーゆー呪具かは聞いてねーし」

 轍夜はすねたように反論した。

「この杖の能力は、主に2つ。詠唱不要と魔力貯蔵です」

 リィラの説明を聞き、コロンノは目を丸くした。

「魔力貯蔵は予想がついたけど、そのうえ詠唱不要? とんでもない呪具ね」

 コロンノがリィラに話しかけたのは、杖に宿った膨大な魔力に興味をひかれたからである。

「しまっておいた方が良いんじゃない? 目立つわよ」

「念のためです。いざという時、すぐに対処できるように」

「それは分かるけどね。盗られても知らないわよ?」

 溜息を吐きながら、コロンノは言う。

「凄腕の呪具泥棒がいるらしいのよ。私はそれを追ってるの。お気に入りの呪具を盗られたから、取り返したくてね」

「呪具泥棒……」

 リィラは呟き、はっとする。

「まさか、例の魔術師が……」

「心当たりがあるの⁉」

 コロンノは勢い込んで尋ねた。

「実は、わたくしは呪いを使える魔術師を追っています。その者は、ある国の王から呪具を盗んで逃げたそうなのです」

「呪術師か……同一人物だと厄介ね」

「呪術師? 魔術師じゃねーの?」

 割って入って尋ねた轍夜に、リィラが説明する。

「呪いを使える魔術師は希少な存在なので、畏怖をこめて呪術師と呼ばれることがあるのです」

 因みに、回復魔法を使える魔術師も希少である。そちらは治癒師とも呼ばれる。

「あなたは呪術師とは呼ばないのね」

 コロンノは不思議そうに言った。リィラは頷く。

「恐れているみたいで嫌なのです」

「はははっ、面白いこと言うわね。呪術師を恐れてないみたいじゃない」

「はい。全く恐ろしくありません」

「……まあ、そうよね。そんな凄い呪具があったら、普通の魔術師だろうと呪術師だろうと関係無く、あなたにとっては雑魚よね」

 コロンノは嘆息した。リィラは心外そうな顔をする。

「雑魚だなんて思っていません。わたくしが使える魔法は、あまり多くありませんので」

 杖の真価を発揮できていないのだ。それでも充分便利な代物である。

 話を聞いていた轍夜は、よく分からないながらも疑問を呈した。

「呪いが使えるってだけで、そんなに恐ろしいもんなのか?」

「……あなた、何も知らないのね」

 コロンノは呆れたように言った。

「何でリィラはこんな馬鹿そうな子と一緒にいるの?」

「それは、わたくしがこの人の妻だからです」

「嘘……信じられないわ」

 コロンノが目を丸くした。それを面白く思いながら、リィラは言う。

「本当ですよ。新婚旅行中なのです」

「あら、そうだったの……邪魔しちゃったかしら」

「構いませんよ。ね、テツヤ」

「おう」

 気持ちの良い即答だった。人好きのする笑みを浮かべている。コロンノは、轍夜を馬鹿にしたことに謎の罪悪感を覚えてしまった。

「さきほどの質問の答えですが、呪いそのものが恐れられているのではありません。呪いというのは、適性の他に、莫大な魔力と膨大な魔法の知識を要します。その魔力量と知識量が恐れられているのです」

「へー。じゃあ、すげーやつなんだな」

「ところで、聞いて良い? その杖、どうやって手に入れたの?」

 コロンノは話題を杖に戻す。

「この杖は師匠から譲り受けたものなのです」

「師匠がいたの? 珍しいわね。どんな人?」

「優しい老婦人でした。己の死期を悟り、杖の継承者を探していたそうです」

「で、リィラが選ばれたって訳ね? ちょっと羨ましいわ」

 そんな話をしているうちに、目的の島に着いた。

「わたくしたちはここで降ります」

「私は東の大陸まで行くから、ここでお別れね。話せて楽しかったわ」

「わたくしも、楽しかったです」

「オレも!」

 3人は笑顔で手を振りあった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ