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蘇生チートは都合が良い  作者: 秋鷺 照
6章 呪術師と暗殺者
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6-1 接触

 北の大陸、某所。2人の男が対峙していた。

 1人は呪術師だ。黒いローブを身にまとい、フードを目深に被っている。

「久しぶりだな、暗殺者。いや、今は傭兵か」

「暗殺者で良い。相変わらず動きにくそうな格好だな、呪術師」

 2人は互いに名乗る気が無い。呪術師は「呪術師」と呼ばれることを好んでいるし、暗殺者は自分の名前が嫌いで「暗殺者」と呼ばれる方が心地よいのだ。

「また手を組まないか」

 呪術師が言った。何年も会っていなかったというのに、最近もよく会っていたような気軽さで。

「仕事なら請け負おう」

「ちょっとした遊びも計画に入れたいんだが」

「構わない」

 暗殺者は即答した。

「そう来なくては、オマエを捜した甲斐がない」

 呪術師は面白そうに言って、懐から1つの呪具を取り出した。見た目は小さな石ころだ。

「これは、空間を繋げる呪具。まず、これを使って……」

 呪術師は計画を話した。

 全て話し終えた時、暗殺者の顔には笑みが浮かんでいた。

「面白いな、流石は呪術師」

「そうだろう、そうだろう」

 呪術師は満足そうに頷く。それから、ふと残念そうな表情を浮かべた。

「本当はもう1つ使いたい呪具があったんだがな。盗られた」

「呪具泥棒のくせに?」

 暗殺者は大笑いした。藤色の髪が愉快そうに揺れる。

「そんなに笑うようなことか」

 呪術師は不愉快そうな声を上げ、計画の準備に取り掛かった。





 ある日の昼過ぎ、ミューレは街を散歩していた。日中の外出なら、短時間で戻ることを条件に許可してもらえたのだ。

 勝手に抜け出されるよりも良いから、というのが理由であった。

 暖かな日差しを浴びながら、露店を見て回る。お金は持たされていないので、見るだけだ。

 衣服や生活道具、食べ物など、様々な店を眺めるが、特に欲しい物も無い。強いて言えば、武器だろうか。

 ただ、父や弟たちの持つ剣を見慣れていては、店に並ぶどんな武器もガラクタに見える。

(短剣ならヒュレアクラに複製してもらえるけど、わたしの好みじゃないのよね)

 使うなら長い武器が良い。そんなことを思っていた時、ふと声が聞こえた。声変わりのしていない少年の声。

 気になって声のする方へ歩を進めた。たどり着いたのは路地である。3人が1人を取り囲み、蹴ったり罵声を浴びせたりしている。どの少年も、ミューレと同じくらいの歳だ。

「何してるの⁉」

 咎めるように言い放つと、囲んでいた3人の少年が振り返った。怪訝そうな、不愉快そうな表情で。


「なんだよ、女。邪魔すんな」

 その少年たちは、ミューレが王女だと知らない。

「何してるのって聞いているんだけど?」

 ミューレは改めて尋ねた。いじめているように見えたが、思い違いだったらいけない。

 しかし、3人は答えなかった。答えの代わりに拳を振りぬく。相手が女でも容赦無し。

 ミューレが大人しく殴られるわけもない。軽々避けて、ひじでみぞおちを狙う。少年たちは跳び退り、ますます不愉快そうな顔になった。

「関係無いだろ」

「関係あるわ」

 ミューレはきっぱりと答えた。そう、関係あるのだ。いじめられていた少年は、城の使用人の息子である。ミューレにとって、数少ない話し相手であった。

 3人のいじめっ子は、呆れたような顔でナイフを取り出した。そのままミューレに斬りかかる。

「わたしは丸腰なのに⁉」

 非難の声を上げながらも、ミューレはナイフをひょいと躱してのける。


 路地の前の道を通る大人たちは、騒ぎに気付いてちらりと見るが、そのまま立ち去る。子供の喧嘩に過ぎないからだ。この国の人なら、誰もが一度や二度は経験したことである。ナイフは子供の喧嘩道具の定番であった。「けがはするかもしれないが、死ぬほどではないだろう。だから放っておいて良い」という認識なのだ。


 ミューレは攻めあぐねていた。相手は3人、ナイフ持ち。避けるのは容易いが、それは相手も同じこと。

「……そっちがその気なら、わたしも本気でいくからね」

 言いながら、髪飾りを外して右手に持つ。弟が作ってくれた髪飾りだ。これに付いた青い宝石について、話は聞いている。まだ使ったことは無いが、この際だ。使ってみよう。

 しゅるりと茨が路地を這う。

「は⁉」

 少年たちは、突然現れた茨に戸惑った。茨がナイフに絡みつこうと伸び上がる。たちまち2本のナイフが茨の餌食となった。もう1本は、茨が到達する前に、少年の手から離れていた。

 ナイフの切っ先がミューレの眼前に迫る。勢いよく投げられたナイフの刃が。

 ミューレは身を屈め、かろうじで躱す。切られた藤色の髪がひと房散った。

「やぁっ」

 屈んだ体勢から、ナイフを投げた少年へ一気に肉薄。みぞおちへ拳を叩きこんだ。

「ぐへっ」

 少年は痛みに呻き、座り込んで動きを止める。他2人は、茨で動きを封じられていた。緩く巻き付けてあるだけだが、棘が鋭く、少し動くだけで刺さって血が流れる。

「みぞおちばっかり狙いやがって!」

 茨を巻かれている少年の1人が、涙目で言った。

「そう習ったのよ」

 ミューレはしれっと言いつつ、少年たちを茨から解放してやる。充分懲らしめたと思ったからだ。

 3人の少年は、ほうほうの体で逃げ去った。路地に残ったのは、ミューレと使用人の息子。

 使用人の息子は、ぼーっとミューレを見ていたが、ミューレと目が合うや否や

「おれを婿にしてください」

 と言っていた。思わず言ってしまった。

「あっ、その、ごめん忘れて」

「……わたしのこと、好きなの?」

「ずっと好きだったし、さっき一層好きになった。……あ」

 本音がダダ洩れである。

「わたしと結婚するってことは、将来、王になるってことよ?」

「う……死後の世界で苦しむのは嫌だ……」

「レスカーダになるって手もあるわよ。そういえば、話してなかったわね」

 ミューレは、きょとんとしている使用人の息子に、レスカーダ化の力について説明した。

「……そういう訳だから、その……」

 そこで言い淀むミューレに、使用人の息子は答える。

「一度死ねば良いんだね! ミューレ様と結婚できて、死後の苦しみも無いなら、他は何でも良いし何でもする!」

「……そっか。じゃあ、あなたは今日から、わたしの婚約者ね」

「え、良いの⁉」

 目を丸くするその少年に、ミューレは笑いかけた。

「もちろん。すごく嬉しいわ、ありがとう」




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