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蘇生チートは都合が良い  作者: 秋鷺 照
4章 子供たち
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4-4 影Ⅱ

 リムネロエは、目の前の獣人に思いのたけをぶつけた。

「ぼくは、本当は魔術師になりたいんだ! 魔術院の近くに住みたいんだ! でも、ぼくは次の王だから……無理なんだ。ヒュレアクラだって、同じ思いのくせに、ぼくに気を遣って諦めた。お姉さまは自由なのに、ぼくたちをうらやましがってばかりいる!」

 荒く息を吐き、苛立ちを抑えようと努める。しかし、感情が荒波のように頭を支配していく。

(何か、おかしい……ヒュレアクラ、助けて……)

 言葉を出せば出すほど、感情が制御できなくなる。口をつぐもうとしても、自然と言葉が溢れ出る。

 獣人は言う。

「苦労しているな」

「そうだ! お姉さまがもっとしっかりしていれば、ヒュレアクラだけでも魔術院に行けたかもしれないのに!」

「本当に?」

「だって、そうだろう! ぼくは……!」

 言葉が途切れた。

(何を言おうとしているんだ?)

 そもそも、支離滅裂なことを言っていたのではないか。姉がどうであろうと、ヒュレアクラの決断は変わらないだろうに。

 頭がかき回されるようだ。ぐちゃぐちゃと湧き出ては、狂ったように暴れる感情で。

 ふと、獣人の背後に人影が見えた。目を閉じ倒れている。

(お姉さま!)

 どうして、いることに気付かなかったのだろう。考えようとしたが、うまくいかない。

 獣人が呆れたように言葉を発する。

「歳の割に抵抗が強い。あまり美味しくない。けど、妥協範囲内」

「何、を……!」

 強い力で押さえつけられたように体が動かない。獣人を影が覆っていく。

(やっぱり、獣人じゃないよな、これ……)

 だが、何なのかは分からないままだ。影が広がり視界が黒く染められていく。それに伴って、意識が薄らいでいった。




「リムネロエが連れ去られた!」

 駆けてきたヒュレアクラは、開口一番そう言った。

 この双子は互いの居場所が分かる。念話も可能だ。

「……想定済みです。そのために、別行動を取らせたのですから」

 不安を抑えこみ、リィラは冷静な声音で告げる。

「どこに連れ去られたのですか?」

 その問いに対し、ヒュレアクラは地面を指さした。

「下、深いところ」

「……? 海でしょうか?」

「海……まさかにゃー……」

 何かに気付いたように、ケットシーが声を上げた。轍夜はケットシーを頭の上から引きはがし、腕に抱える。

「言え、ケットシー」

 轍夜は気が気ではなかった。そのため、気が立っていた。

 いつになく怖い顔でケットシーを睨みつけ、催促する。

「……海底遺跡にゃー。妖精の島の下にあると聞いたことがあるにゃー。結界が張ってあって、地上と同じように過ごせるそうにゃー」

「そんなものが……?」

 リィラは驚いてケットシーを見つめる。初耳だ。城にある資料には、そんな記述は無かった。

「古代のものだから、人間には知られていないにゃー」

「正確な場所を教えてください」

 転移魔法で行こうと思い、リィラはケットシーに言った。しかし、ケットシーはすまなさそうな顔をする。

「分からないにゃー……」

「分かる」

 キッと顔を上げ、ヒュレアクラはリィラの目を見た。

「ぼくなら、分かる」

 そう言って、ヒュレアクラは地面に手を付き目を閉じる。より正確に、リムネロエの居場所を確かめるために。

 しばらくそうしていたヒュレアクラは、目を開けて立ち上がり、座標を告げた。

 リィラは頷き魔法を発動。言われた位置に転移する。

 一瞬後、3人と1匹は海底遺跡に来ていた。

「……少し弾かれましたね」

 リィラは言った。目の前にそびえる、神殿のような建物を見ながら。

 座標は神殿内部だった。しかし、直接転移することが出来なかったのだ。結界の作用か、そこにいる何かの種族の影響か。

 ケットシーは轍夜の腕から抜け出て、地面に降りる。そして神殿へ駆けだした。

「にゃー!」

 神殿の入り口、左右に立つ柱から、ケットシーに向けて茨が伸びる。ケットシーは軽々躱し、茨を跳び越え神殿内部へ入った。しかし、バチリと音がして、ケットシーの体が舞う。外へ放り出された体が、力なく落ちようとしていた。

「何をしているのです⁉」

 リィラは慌ててケットシーを浮かせ、引き寄せた。ケットシーはぐったりとしていたが、薄く目を開け言葉を紡いだ。

「みーは、ここを知ってるにゃー……昔、ここにいたにゃー……早く、中へ、神殿の中へ入らないと、神殿の中へ……早く……早く……」

 力の入らぬ四肢を動かそうともがき、神殿に行こうとしている。

 3人は唖然としてケットシーの様子を見ていた。真っ先に我に返ったリィラは、

「急いだほうが良いのは確かだと思います。行きましょう」

 と言って神殿へ歩き出した。



「落ち着きましたか?」

 リィラはケットシーに声をかけた。

 神殿には難なく入ることが出来た。入り口には侵入者を攻撃する結界が張られていたが、轍夜に剣を借りたリィラが壊したのだ。竜に連れられて行った遺跡の結界を解いた時と同じ要領で。

「ごめんにゃー。先走ってしまったにゃー。あんなことをするつもりじゃなかったにゃー」

 ケットシーは、自らの行動を不思議に思った。あの瞬間、例えようのない不安が押し寄せ、いてもたってもいられなくなったのだ。神殿に入ってしまえば、そんなものは消え失せて、一体何だったのかという疑問だけが残った。体はまだ上手く動かない。今はヒュレアクラに抱えられている。

「昔ここにいたって、どういうこと?」

 ヒュレアクラはケットシーに尋ねた。

「……分からないにゃー。分からないけど、そう思ったにゃー」

「記憶が封じられているのでしょうか」

 リィラは呟いた。いくつめか分からないトラップを破壊しながら。

 早く先に進みたいのに、トラップの数が多く手間取っている。楽しんでいられる状況ではない。邪魔なだけだった。

 リィラ、ヒュレアクラ、轍夜の順に1列に並んで歩いている。道は細く迷路のように入り組み、リムネロエの居る場所になかなかたどり着けない。

「あー! 何とかしろよ、雑な呪具!」

 轍夜は苛立ちを抑えきれず、呪具を怒鳴りつけた。呪具は「無理」と不機嫌そうに答える。「古代の海底神殿なんて、どうにもできない」と。

 ヒュレアクラはちらりと轍夜の方を見た。

「お父さま、落ち着いて。リムネロエは大丈夫。お姉さまもその場にいるみたい。他にも何人も子供がいる。皆、得体の知れない種族に連れ去られたんだ」

「にゃー? 得体の知れない種族ってどんなのにゃー?」

「獣人に偽装する影、みたいな」

 念話で伝えられた情報を、ヒュレアクラは話した。それを聞いたケットシーは、毛を逆立てる。

「にゃー! 絶滅した種族に、そういうのがいたにゃー! まさか、生き残りがいたのかにゃー⁉」

「どういう種族なのです?」

 リィラが尋ねる。ケットシーはためらうように話し始めた。

「変なものを食べる種族にゃー。同じ種族でも、食の好みが違っているけど、大抵は感情を食べるにゃー」

「感情⁉ え、それ喰われたらやべーやつだろ⁉」

「テツヤが想像したのとは違うと思うにゃー。感情を無理やり増幅させて、湧き出た言葉を食べるのにゃー。食べられても何ともないにゃー。……でも、もしその種族なら、子供を連れ去る意味が分からないにゃー。一度食べたら、同じ人からは食べないのにゃー」

 ケットシーは怪訝そうな顔をする。

「似て非なる種族かもしれないにゃー。もしくは、何か、みーの知らない特性があるのかもしれないにゃー」

「何でそんなに詳しいの? ケットシーって、すごく長生き?」

 ヒュレアクラはケットシーをなでながら聞いた。

「みーは長生きにゃー。それこそ、古代から生きているにゃー。実は不死身なのにゃー」

「おかしいですね。ケットシーは長寿と聞きますが、古代から生きているほどではないはずです。それに、不死身でもありません。……一体、何者です?」

 リィラは魔法で眼前の茨を焼き払いながら、ケットシーに尋ねた。

「にゃー……ケットシーの始祖たる種族にゃー。広義ではケットシーだからケットシーで間違いないにゃー」

 ケットシーは答えながら、ヒュレアクラの腕を抜け出した。ふわりと浮いて轍夜の頭に乗る。もう体調は万全だ。

 リィラは納得したように頷き、前を見据える。そこには、動きに反応して針を連射してくるトラップがある。いくつも、長距離に渡って。

「……これは壊すより避けた方が良さそうです。いけますか」

 それはヒュレアクラへの確認だった。轍夜は呪具で何とか出来る。

「いける」

 ヒュレアクラは毅然と答えた。





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