表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蘇生チートは都合が良い  作者: 秋鷺 照
3章 呪術師対策
18/39

3-6 竜

 邪竜との戦いに敗れ墜ちた、1体の竜がいた。酷い手傷を負い、命尽きようとしている竜が。

 その竜の眼前に、2人の人間——轍夜とリィラ、そしてケットシーが現れた。

 全くの偶然であった。2人と1匹が入っていた洞窟の出入口に、その竜は堕ちてきたのである。

 人間の姿を認めた竜は、鷹揚に口を開いた。

「我はじきに死ぬ。好きにするが良い」

 竜は知っていた。自らの鱗が人間にとって価値あるものだと。自らの血肉が人間にとって高級な食材であると。また、竜の首をとった人間は尊敬や崇拝の念を集めると。

「では、好きにさせていただきます」

 リィラは微笑み、轍夜にひそひそと指示を出した。

「ほーい」

 轍夜は剣を抜き、

「うりゃ!」

 竜の首めがけて思い切り振り下ろした。刃の長さよりも太い竜の首が、軽い手応えとともにすっぱり斬れる。

 絶命した竜に、轍夜は蘇生能力を使った。

「凄いにゃー」

 ケットシーは感心して呟く。普通の剣では傷一つ付けること能わない竜の鱗を、こうもあっさり斬り裂くとは。

「……?」

 竜は、何が起こったか分からないという顔で、2人と1匹を見つめる。

「剣の切れ味を試させていただきました。あまり試す機会が無かったものですから」

 リィラは竜に伝えた。しかし、竜が聞きたいのはそんな話ではない。

「我は何故生きている?」

「それはにゃー。テツヤの蘇生能力のおかげにゃー」

 しっぽをふわりと揺らし、ケットシーは竜に近付いて言う。

「ここは妖精の島にゃー。その中の人間の国の王と王妃がこの2人にゃー。竜の鱗も首も、不要な身分なのにゃー」

「そうか……いやしかし、死を覆す力を持つ者など、存在し得るのか?」

 人間はもちろん、どの種族も持たない力。呪具にすら、そんな力を持つ物は無い。

「異世界の神が与えた力らしいにゃー」

 ケットシーが答えた時、雷鳴が轟いた。

 邪竜が訪れたのである。竜がまだ生きていると察知して。

 竜は空を見上げた。暗雲がたちこめ、濁流のようにとぐろを巻いている。その中から、邪竜がこちらに迫って来る気配を感じた。

「ええい、仕方あるまい。乗れ!」

 通常、竜が人間を背に乗せることは無い。誇りが許さないからだ。

 だが、この状況を見過ごせるはずが無い。誇りが許さないからだ。

 命を救われておいて、邪竜の襲撃を受ける2人と1匹を見捨てることなど、出来るわけがない。

「乗るにゃー!」

 ケットシーは、困惑する2人に声をかけながら、真っ先に竜に乗る。2人も慌てて乗った。

 竜が空高く飛び上がる。その瞬間、さきほどまでいた場所に、紫電が降り注いだ。防ぎようのない轟雷が、洞窟ごと一帯を破砕する。

「助かりました……」

 これにはリィラも肝を冷やした。あのままあそこにいれば、命は無かった。

「くっ」

 邪竜が竜へと牙をむく。竜は高度を落として躱し、火炎を吐いて牽制。しかし邪竜は炎の中を、お構いなしに突っ切った。

 竜はひたすら飛び回り、邪竜を翻弄する。しかし、少しづつ距離を詰められていた。追いつかれるのも時間の問題だ。

「あれは何なのにゃー⁉」

 ケットシーは邪竜を見て悲鳴のような声を上げた。

 邪竜は闇を竜の形に凝縮して固めたような姿だ。目だけが赤く爛々と光っている。

「邪竜だ」

 竜が答えた。

「邪竜……たしか、力を暴走させた竜のなれの果てですね」

「そうだ。あやつは友であった。だからこそ、我が倒さねばならぬのだ。だというのに……」

 竜は口惜し気に呟く。

 敵わなかった。かすり傷くらいしか付けられなかった。万全の状態でもだ。人間を乗せた状態では、まともに戦うことすら出来ない。どこか安全なところに降ろしたいが、邪竜はそんな隙を与えてくれない。

 リィラは、自分たちが足手まといになっていると分かっていた。転移魔法を使おうとしているのだが、発動する前に霧散してしまう。

「魔法は使えないにゃー?」

「そのようです。竜が2体も近くにいると……」

 竜の力が強すぎて、魔力の流れが乱される。そのせいで、上手く魔法を使えない。

「あれを倒せば良いんだろ?」

 轍夜は竜に言った。確認だ。

 雑に強くなる呪具が、「さすがに竜族は倒せないぞ」と警告する。言葉を発したわけではないが、そんな思考を轍夜に抱かせた。

「うるせー! 倒さねーとどうにもならねーだろーが!」

「にゃー? テツヤ、誰に向かって言っているにゃー?」

「いや、呪具が、倒せねーって……あれ? 言ってなかった?」

 轍夜は呪具を見つめ、首を傾げる。

「てか、全然、雑に強くなってねーじゃん。もっとこう、ちげーだろ。何? つけて間もないから馴染んでない? まだそこまで強くなれない? 何だそれー!」

「テツヤ? さきほどから、何をぶつぶつ言っているのです……?」

 若干引き気味に、リィラは尋ねた。

「え? あー……」

 轍夜は答えようとしたが、呪具によってもたらされた新たな思考に妨害される。

「まじで? よし、じゃあそれで!」

 はたから見れば、笑顔でひとり言を言っている変な人であった。

「にゃー⁉ テツヤ、何してるにゃー!」

 轍夜は竜の背から飛び降りる。浮遊靴で宙を駆け、邪竜の前へと躍り出た。

 邪竜の咆哮が大気を揺るがせ、荒れ狂う力の奔流が轍夜を襲う。しかし、それが轍夜に届くことは無かった。

 竜もまた、咆哮を轟かせ、邪竜の力を打ち消したのだ。

 織り込み済みだと言わんばかりに、雑に強くなる呪具が轍夜と他の呪具を動かす。

 邪竜の下へ滑り込み、黒き刃を突き立てる。暴れる邪竜の爪と尾を、躱し、払い、斬り飛ばした。

 まとわりつく虫を消そうとするような仕草で、邪竜は轍夜へ攻撃を浴びせる。そのことごとくが、当たらない。竜力による攻撃は、竜が全て防いでいるのだ。

「む……?」

 竜は不思議そうな声をもらした。自らの力が引き上げられているのを感じて。

 雑に強くなる呪具の力であった。条件次第ではあるが、味方の力も増強できる。

 轍夜と邪竜の攻防は、終始轍夜の優勢だった。呪具の効果もさることながら、剣の威力が邪竜にとって、純然たる脅威となった。竜族は防御が疎かだ。普通は傷つけられないから。傷つけてくる存在は、近付く前に消し飛ばすから。しかし邪竜は、竜にひたすら妨害されて、轍夜を消し飛ばすどころか遠ざけることすら出来なかった。

 邪竜の動きが鈍くなり、無防備な首をさらす。そこに一閃。

 斬り落とされた邪竜の首が、眼下の海で飛沫を上げた。遅れて体も墜ちていき、海の底へと沈みゆく。

「な、分かっただろ? 雑に強くなってただろ?」

 轍夜が嬉しそうに言いながら、竜の背へ戻って来た。リィラは少し考え、

「思いが力になる類のものでしょうか」

 と尋ねる。

「なるほどにゃー。邪竜を倒したいって思いがテツヤと竜で共通していたから、竜の力も上がったのにゃー」

 ケットシーが推論を述べた。轍夜はきょとんとしている。

「え? そーゆーやつなの?」

 雑に強くなる呪具が、「まあ、そんな感じ」と答えた。

「そんな感じだって」

「……あのひとり言は、呪具と話していたのですか?」

「うん。え、違う? 話しているんじゃないって? ややこしいなあ! わけ分かんねー! んなこと、直接リィラに言えよー」

 轍夜は不満そうに、雑に強くなる呪具の言葉をリィラに伝える。

「なんか、リィラが浮遊靴とこの剣使って邪竜と1対1で戦っても勝てたってさ」

「そうかもしれませんね。近くの竜が1体ならば、魔法も使えますから」

「我に乗っていることを忘れておらぬか?」

 竜が嘆息して言った。

「そう簡単に人間に勝たれては、竜としてはたまったものではないのだが」

「少なくとも、テツヤが勝てたのはあなたの助力あってこそですよ。それに、あの剣はわたくしには使えないようにしています。雑に強くなる呪具の出した仮定は無意味ですね」

 リィラは竜に感謝を示しながら、ついでのように頼む。

「すみませんが、妖精の島まで送ってもらえませんか? 転移しようにも、現在地が分からないので出来ないのです」

 距離感も方向感覚もマヒしてしまった。

 竜は苦笑した。

「もとは我の戦いであった。邪竜を倒してくれたこと、礼を言うぞ」

 竜は目的地を定めて飛んでいる。妖精の島ではない。

「飛んでいる時に遺跡を見つけてな。人間を阻む結界の張られた小さな無人島だ。乗せて行ってやろう。そういう場所には良い物が眠っていると相場が決まっておるからな。妖精の島へはその後帰してやるぞ」

「うおー! すげーテンション上がる!」

 轍夜は興奮して言った。

「良いのですか?」

「そういうのは人間に教えちゃ駄目なやつにゃー」

 リィラとケットシーの言葉に、竜はきっぱりと答える。

「恩人に対し、筋は通さねばなるまい」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ