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蘇生チートは都合が良い  作者: 秋鷺 照
2章 旅行
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2-4 酒場

「なあ、リィラ」

「何ですか?」

「新婚旅行って言ってるけど、実は呪術師捜しの旅なんだろ?」

 轍夜は切り込んで尋ねた。

 ドワーフの島にある人間の国に着いた2人は、酒場に来ていた。木造の小屋のような建物だ。響く喧噪は心地よさすら感じる。

「いいえ、新婚旅行です」

 リィラは言い切った。思いのほか強い口調だったことに、轍夜は目を瞬かせる。

「でもさー。観光地とか全然行ってなくね?」

「観光地を巡るのは国内旅行です。広大な領土を持つ国で行われるような。わたくしたちのような小さな国の者は、島めぐりをするもの。外国の風土を楽しむものです」

 熱を帯びた口調だった。新婚旅行であることは疑いようもない事実であると説得するように。

 しかし、その実、轍夜の言は的を射ていた。新婚旅行という名目で島を巡り、呪術師を捜しているのだ。

 轍夜は首を傾げる。

「じゃあさ、何でここ来て真っ先に酒場に入って皆に呪術師のこと聞いたんだ?」

「どうしてスルーしてくれないのですか……⁉」

 リィラは頭を抱えた。普段なら「ふーん」などと流してくれるのに、今日は何故か納得してくれない。

「いや、だって。呪術師捜してるんだったら、ここに長居するより別の酒場に行った方が良いだろ?」

 轍夜は当然のように言った。いや、轍夜にとっては当然のことである。RPGでもやっている気分で言ったのだ。ここでは誰も知らなかったのだから、別の場所で尋ねるべきだと。

 リィラは面食らった。

「……わたくしを攻めないのですか?」

「へ? 何で?」

「嫌なものでしょう? 新婚旅行の最中に別の用事に気を取られているなど……」

「全然。オレはリィラと一緒にいれるだけで嬉しいからな! 何してようと気にしねーってゆーか、何してても大好きだぜ!」

「またそういうことを……」

 リィラは赤くなった顔を手で覆った。



 そういうわけで、何も注文せず先ほどの酒場から出た2人は、別の酒場に入った。

 リィラは気を取り直し、先ほどと同様に尋ねる。

「どなたか、呪いを使える魔術師の居場所を知りませんか?」

「呪術師? この間来たぞ」

 店主が言った。50歳くらいの男だ。

「本当ですか⁉ 詳しく教えてください!」

「まあ座りな」

 促され、2人はカウンター席に座る。

 木のコップに注がれた水を、轍夜は飲もうとした。それをリィラは制止する。

「飲んでは駄目です」

「え?」

「飲むとお腹を下しますよ」

「おいおい、失礼だな。そんな変な水を出すわけ無いだろ」

 店主が心外そうに言った。

「……失礼しました。しかし、わたくしたちは妖精の島から来たのです」

「妖精の? そうか、それなら確かにここの水は合わんだろうな」

 リィラの言葉で店主は納得した。妖精の島は、妖精の力で水が浄化されている。他の島や大陸とは比べ物にならないくらい水が綺麗なのだ。そんな場所の水ばかり飲んでいたのでは、お腹が弱いだろう。

「で、何を飲む? っつっても、果実酒しか置いてないけどな」

「それで構いません」

 リィラが答えると、店主はすぐに小さな木樽をカウンターに置いた。

「おまちどう」

「樽ごと飲めということですか?」

「コップが欲しいか?」

「もちろんです。意地が悪いですね」

「よく言われるさ」

 店主は笑いながら木のコップを2つ差し出した。


 果実酒をコップに注ぎながら、轍夜は思った。

(そういやオレ、酒はビールしか飲んだことねーな)

 高校を退学になった原因の1つが、校舎内でビールを飲んでいたのがバレたことだった。

 果実酒を1口飲んでみる。口に甘い味が広がった。これはまるで。

「ぶどうジュース?」


 怪訝そうに呟いた轍夜を見て、リィラも果実酒を飲む。

「……アルコールが弱すぎますね。もう少し強いものはありませんか?」

「お、飲みなれてる感じか?」

 店主はからかうように言った。

「幼少の頃からたしなんでいます」

 リィラは平然と答える。

「それより、そろそろ教えてもらえませんか?」

「呪術師のことか? もうちょっと飲んでからにしろよ」

「わたくし、強いですよ? 酔わせようと思っているのでしたら、この店の酒では不足かもしれません」

 琥珀色の瞳が鋭い光を帯びる。店主はごくりと喉を鳴らした。

「悪かった。いや、何でこんな頼り無さそうな男と2人だけで旅をしているのかと思ったら……」

 普通なら格好の獲物だ。しかし、危機を全て振り払える強さがリィラにはある。店主はようやくそれが分かったのだ。

「オレ、そんなに頼り無さそう?」

 轍夜は不満げに言った。それを無視して店主はリィラに話しかける。

「お嬢さんも、なかなか意地が悪い」

「わたくしは酒に強いと言っただけですよ?」

 リィラはいたずらっぽく笑う。店主は苦い顔をした。

「いや、長年酒場に居ると、強者の気配にも敏感になるもんさ。それを隠してるんだからたまげたよ」

「魔術師ですから。それで、呪いを使える魔術師について教えてくれますね?」

「分かったよ。5日くらい前にな、とんでもない量の魔力持った男が来たんだ。意識しなくても分かるくらいの量だったもんで、驚いてな。何者だって尋ねたんだ。そしたら、呪術師だ恐れ戦け、とか言ってきたから殴りたくなった」

 店主は思い出しながら語る。「呪術師だ恐れ戦け」の部分は大仰なジェスチャーとともに、尊大な口調で言った。呪術師の真似だ。

 その様子を見て、轍夜は

「すげームカつくやつだな」

 と呟いた。殴りたくなる気持ちが凄くよく分かる。

「だろ? まあ、一応客だからこらえたけど」

 店主は話を続ける。

「呪術師は、丁度そこの席に座った。酔った勢いで色々話していったよ。好みの呪具を集めてるとか、翼人の島に向かってるとか」

「やはり、その魔術師が呪具泥棒なのですね……他には何か言っていませんでしたか?」

「よく分からんことをゴチャゴチャ言ってたが、忘れちまった」

「そうですか」


 リィラは溜息を吐いた。果実酒の入っていたコップはとっくに空になっている。

(5日前……翼人……)

 この島から翼人の島までは割と近い。店主の言うように、呪術師がそれほどとてつもない魔力量の持ち主なら、転移魔法で行けるだろう。

 翼人が妖精の国に攻めて来たのも5日前だ。

(例の魔術師の差し金でしょうか……)

 理由は分からない。だが、妖精王女を呪ったことといい、妖精の国に恨みでもあるのかもしれない。或いは、足止めのつもりだったのか。

「テツヤ、次は翼人の島に向かいましょう」

 既に呪術師はどこかへ去っているだろう。だが、他に手がかりも無い。


「それだと、翼人の島にある人間の国に寄った後、妖精の島に帰るのか?」

 店主は尋ねた。航路を考えながら。

 翼人の島はこの島の北西にある。西行きの航路だと、翼人の島の次に停まるのは妖精の島のはずだ。

「そうなりますね」

 リィラは答えた。一方、轍夜は不思議そうに言う。

「大陸とか行かねーの?」

「あまり長期間、留守にするわけにもいきませんから。そろそろ帰路につくべきかと思っていたところです」

 それを聞いた店主は、困惑の表情を浮かべた。

「お嬢さんは旅の魔術師じゃなかったのか?」

 魔術師には大きく分けて2種類いる。旅をして、現地で依頼を受けて稼ぐ「旅の魔術師」。特定の個人または国に仕えたり、自国の兵として戦う「定住魔術師」。

 旅の魔術師なら、時折故郷に帰ることはあれど、留守を気にはしない。

「定住ですよ。これは新婚旅行なのです」

「その男と? ……の割には随分、呪術師に執着しているようだが」

「テツヤはわたくしのわがままを許してくれたのです」

「ふーん」

 店主はにやにやしながら轍夜を見る。

「何でもかんでも許してたら浮気されるぞ?」

「しませんよ」

 口を挟んだリィラの隣で、轍夜は大きく頷き、不愉快そうに店主を見た。

「リィラに失礼だ」

「そりゃ失敬」

 店主は苦笑して言った。



 酒場を出た2人は船着き場へと歩く。日はすっかり暮れており、月明かりが頼りだ。

 道は土がむき出しで、あちこちに雑草が生えている。

 船着き場に着くと、丁度船が来たところだった。船内はランプが灯ってほんのり明るい。

 轍夜は大あくびをした。酒を飲んだせいか眠い。

「寝ていて良いですよ。着いたら起こしますから」

「リィラは?」

「わたくしは、あまり寝なくても平気なので」

「そっか。じゃあ寝る」

 船内に置かれた椅子の1つに座り、轍夜は目を閉じた。




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