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蘇生チートは都合が良い  作者: 秋鷺 照
2章 旅行
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2-3 獣人の国

 レンガで舗装された道を、轍夜とリィラは歩いていた。船から降りてしばらく歩き、関所を通って獣人の国に入ったところである。

 一口に獣人と言っても、国によって見た目が異なる。二足歩行をしている以外は狼のようだったり、普段は動物の姿だが人間姿に変化できたり。この国の獣人は、狐のような耳としっぽが生えている以外は人間と似た外見をしている。

 レンガ造りの家や店が建ち並び、通りは活気にあふれていた。


 轍夜はふと、右を見た。高い建物に日が遮られ、暗く淀んだ細い路地。その向こうから、声が聞こえる。「出せ」「いや、やめて」と。気になって、その路地に入った。

「え、テツヤ? 待ってください、ちょっと……」

 リィラが呼び止めるのを無視して歩いて行く。

 そこでは、1人の獣人男が小さな獣人少女を脅していた。

「良いだろ、なあ? こんな高そうなもん着けてる方が悪いんだ」

「いや、いやぁ……」

 獣人男は獣人少女の着けているペンダントを握り、強く引っ張っているのだ。獣人少女は涙目で、ペンダントを取られまいと抵抗している。

「おいやめろ!」

 獣人男の手首をぱしりと掴み、轍夜は言った。

「ああ⁉」

 獣人男は後ろに跳躍。戦いの構えをとり、ドスをきかせる。

「やんのかこらぁ!」

「上等だ!」

 轍夜は剣に手をかけ――


「待ってくださいと、言っているでしょう⁉」


 言葉と共に魔法が飛んできた。2人の間の地面が爆ぜて、レンガのかけらが飛散する。

 2人は驚いて距離を取り、声の主を見た。

 リィラが嘆息しながら歩いてくる。

「放っておけないのは分かります。わたくしも対処しようと思っていました。ですが、獣人を傷つけてはいけません。下手をすると戦争になります」

「まじ?」

 それはよくない。轍夜は剣から手を離した。

 獣人男は不愉快そうにリィラを睨む。

「横やり入れるたぁ、覚悟できてんだろうな?」

「少し眠っていてください」

「あぁ? 何を言っ、て……」

 獣人男はばたんと倒れ、ぐうすかといびきをかき始めた。

「な、何をしたんですか……?」

 獣人少女が怯えた声で尋ねる。リィラは微笑み、

「獣を眠らせる魔法を使いました。獣人にも少しは効果がありますので」

 と答えた。

 轍夜は屈み、獣人少女と目線を合わせる。

「ケガはねーか?」

「ふぇっ……う、うん」

「そりゃ良かった」

 轍夜の屈託のない笑みを見て、獣人少女はほっとした表情を浮かべた。

「えと、ありがと、人間のお兄さん」

 その時。

「姫様ー!」

 路地を通って獣人女が駆けてきた。獣人少女がビクリと身をこわばらせる。

 リィラは怪訝そうな顔をした。

「姫様……? まさか、あなたは……」

 言いかけたリィラを遮るように、獣人女は声を荒らげる。

「人間め、姫様に何をした⁉ いや、何をしていようとタダでは済まさないよ!」

「何もしていませんよ」

「嘘っ! 姫様はこんなに怯えているじゃない!」

 獣人少女が怯えているのは獣人女の剣幕に対してなのだが、獣人女は気付かない。

「何もしてねーって。落ち着けよ、おばさん」

「おばっ……⁉ そんな歳じゃないよ!」

 轍夜が余計なことを言ったせいで、獣人女はますます怒り狂った。

 リィラは頭を抱えた。収拾がつかない。

 その様子を見ていた獣人少女は、すうっと息を吸い込んだ。

 そして。

「ーーーーーー!」

 吠えた。キィンッと耳鳴りを起こすようなその声は、その場の言い争いを止めるのに充分な威力を発揮する。路地奥が静まり返った。

「ひ、姫様……? いかがなさいました?」

 獣人女は困惑した表情で獣人少女、否、獣人姫を見た。

「うぅ……人間たちは、この人から助けてくれたの」

 獣人姫は、寝ている獣人男を指しながら言った。



 獣人姫は勝手に城を抜け出して、街を歩いていたらしい。忍んでいても服装の高価さは隠せず、悪漢に狙われてしまったのだ。

 誤解が解け、轍夜とリィラは城に招待された。

 レンガ造りのその城は、他の家と大差ない構造をしていた。大きな家と言われても納得できそうなほどだ。

「うちの侍女が失礼した。娘を助けて頂き感謝する」

 獣人王が頭を下げて言った。

「礼をしたいが、人間の望む物はよく分からない。何か欲しいものはあるか?」

「では、情報を」

 リィラは微笑み、要望を述べる。

「呪いを使える魔術師の行方を追っているのです。情報があれば教えてください」

 それを聞き、獣人王は残念そうに頭を振る。

「全く知らない。他にないか?」

「いえ、知らないというのも情報です。ありがたく受け取りました」

「そうか……しかし、それだけというのも……良ければ今夜、ここで食べて泊まっていってほしい」

「それは助かります。お言葉に甘えさせてもらいますね」

 轍夜が口を挟む間も無く話がまとまった。



「うめー!」

 轍夜は驚嘆した。振舞われた夕食が、あまりに美味しかったからだ。特に肉。塩胡椒で焼いた鶏肉のような味と食感の肉だ。自国で味わえないのが残念でならない。

 獣人王、獣人姫、轍夜、リィラの4人が食卓を囲っている。獣人王の妻と他の子は別室で食べているそうだ。人間と共に食事をするのに抵抗があるらしい。

「本当に美味しいですね。何の肉でしょうか」

 リィラの呟きに、獣人王が反応する。

「ポルポラ鳥の肉だ」

「なるほど……」

 リィラは納得した。ポルポラ鳥はこの島だけに生息する巨大な鳥だ。奇抜な色の羽は抜け落ちると透明になるといわれており、装飾品として取引されることがある。

 獣人王は、リィラをじっと見つめて口を開いた。

「聞いても良いだろうか。高貴な身分のように見受けるが、どこから来たのか」

「妖精の島にある人間の国です」

「なんと……では、あなたが噂の強き王妃か」

 驚いた様子の獣人王を見て、リィラは困惑した。

「噂……? どういうことでしょうか」

「この辺りの島の王族では有名になっている。平民と結婚し、その平民を王に据えた型破りな元王女だと。妖精の島にあったもう一つの人間の国の王と一騎打ちをし、勝ったと」

「伝わっているのですか……」

 リィラは溜息を吐いた。

「その通りです」

「それでは、その男が王なのか」

「はい。身分を隠して新婚旅行中です」

 それを聞き、獣人姫はきょとんとした。

「……えと、お兄さん、王様なの?」

「おう」

「全然、そんな風に見えないね」

「そりゃそうだ」

「ちょっと待ってて」

 言うや否や、獣人姫は食事を放り出して自室へ行ってしまう。

「こら、食事中に……」

 獣人王が注意しようとするが、間に合わない。

 少しして、獣人姫が狐耳としっぽをピョコピョコさせながら戻って来た。手に靴を持っている。

「これ、あげる」

 ぐい、と轍夜に靴を押し付け、獣人姫は席に戻った。

「? ありがとな」

 どうして靴をくれたのか分からなかったが、轍夜は一応礼を言った。

「おお、良い案だな」

 獣人王は破顔して言う。

「その靴は浮遊靴という呪具だ。空中を、地上と同じように歩いたり跳んだりできるようになる」

「おぉ……すげー楽しそう」

「良いのですか?」

 リィラは驚いて尋ねた。

「なに、昔この国で粗相をした人間から奪ったものだが、我らはそんな呪具がなくても浮遊できる。あなたがたの役に立つなら何よりだ」

 獣人王は嬉しそうに言った。





 翌朝。朝食もごちそうになった後、轍夜とリィラは獣人たちと軽く挨拶を済ませ、別れた。

 2人は城を出て歩き、船着き場に到着。船が来るまでにはまだ時間があるようだ。

 靴を持ったままの轍夜を見て、リィラは言う。

「その靴、履いてみては?」

「履こうと思ったけど、小さくて入らねーんだ」

「貸してください」

 リィラは浮遊靴に微量の魔力を込め、轍夜に合う大きさにする。

「どうぞ」

 轍夜は促されるまま浮遊靴を履いた。

「おー、さっすが!」

 丁度良い大きさだ。試しに跳んでみようと思い、地面を蹴る。

 ビュンッ

「うわ⁉」

 めちゃくちゃ高いところに行ってしまった。地上に戻ろうと足を動かすが、更に高く跳んでしまう。

「動かないでください、引き寄せますから!」

 リィラは魔法を使い、轍夜を地上に下ろした。

「全然思い通りにならねー……」

「練習が必要なのだと思います」

「練習かー」

「嫌ですか?」

「いや、練習するぜ。帰ったら暇だし」

 轍夜はきっぱりと言った。体を動かすのは好きだ。

 そんな話をしていると、西に船影が見えた。

「次はドワーフの島にある人間の国に行きます」

「ドワーフの国じゃなくて?」

「はい。ドワーフの国は観光客を受け入れていないのです」

 船着き場に船が到着する。2人はその船に乗り込んだ。




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