1-1 バイト帰りに
まばらな街灯が歩道を照らしている。冷たい夜風に、轍夜は身を震わせた。
(あー、ションベンしてー)
バイト先からの帰り道である。近くにコンビニもスーパーも無く、家までもちそうにない。
(どっか立ちション出来る所ねーかな)
そんなことを思いながら足早に歩いていると、闇が視界をよぎった。
明かりの無い、真っ暗な空間。
(ここって、確か……)
神社だ。小さな、神主のいない、寂れた神社。
(……よし、ここなら誰にも見られねーよな!)
轍夜は闇の奥へ、吸い込まれるように入っていった。用を足し、満足そうに息を吐く。
右も左も分からない暗闇だが、出口は分かる。わずかに届く街灯の明かりが、場所を教えてくれる。
轍夜は、そのぼんやりとした明かりに向かって歩き出した。
『不届き者め』
突如響いた奇妙な声に、轍夜は足を止める。
(……げ、まさか見られた?)
辺りを見渡すも、この暗さだ。誰かがいても分からない。
見られたはずが無い。
そんな考えを見透かしたかのように、声は
『見ていたぞ』
と怒り混じりに言ってきた。
「誰だよ!」
轍夜は声に向かって——空を見上げて言った。すると、声は鷹揚に告げる。
『神だ』
「は⁉」
『お前を異世界転移させてやる』
「どゆこと⁉」
訳が分からず混乱する轍夜に、神は嘆息した。
『分かるだろう、異世界転移くらい。有名なアレだ。異世界転生の方が有名か?』
「ああ、なるほど、チートもらって無双するアレ。……え、それをオレが?」
『無双できるかどうかは分からぬがな。与えるチートは蘇生能力だ』
「何度でも生き返れる的な?」
『違う。死者を生き返らせる力だ』
「……オレが死んだら?」
『それっきり』
「何の役に立つんだよ、そんな力。全然チートじゃねーよ」
轍夜は不満げに言う。
「だったらオレ、別に異世界行かなくて良いや。生きてく自信ねーし」
『お前に拒否権は無い』
「何で⁉」
『これは、罰だからな』
「は……⁉」
目を丸くした轍夜は、一瞬後、その場から消えた。神は満足そうに溜息を吐き、
『バチを当てるなら何をしても良いからな。異世界転移させる力、試させてもらったぞ』
とひとりごちた。