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もしかしたらの扉

作者: 高菜わさび

「竹製じゃないのか‥」

つい、その言葉を口に出してしまった。

「す、すいません」

耳かきに力を入れてますマークがあったお店だったので、「カット・シャンプー・シェービング・耳かき」付に、さらに耳かき延長をつけたのだが‥

しかし、そんな俺の言葉に店長はにやりと笑った。

「お客さん、これもなかなかいい耳かきなんですよ」

それはポリカーボネートで作られた耳かきであった。

「でも自分で試しにやってみたことあるけども、そこまで気持ちのいいものではなかったんだよね」

やっぱり竹製が、あのメーカーのが一番いいなって。

「それはですね、竹の耳かきと同じ使い方をしているからじゃないですかね?」

「えっ?違うの?」

「お客さんは金属の耳かきは使います?」

「あれも気持ちいいんですよね、ただ油断するとやり過ぎてしまうというか、痛くなる、竹の方はカリカリやっても、ちょうどよく余計な力を流してくれるから、あの耳かきは本当に衝撃的でしたよ」

ああ、店長もユーザーですか。

俺もヘビーユーザーです。

「お試しください、これにはこれの良さがある」

そういわれると、期待だけでゾクゾクしました。

その目、最高です。

「そこまでいうなら」

「ではまず、先に髪の方を切り揃えますか」

何センチ切ってとかではなく、眉と耳にどのぐらいにしてとか、そこから軽くさっぱり目にしてほしいなどをいうと

「かしこまりました」

そういってブラッシングが始まった、幅の広いタイプのブラシ、クッションブラシだったかな、そういう名前のやつ。

「ブラッシングも大事なんですよ」

「したとしても、寝癖を急いで直す時ぐらいですね」

丁寧にブラシをかけられると、それだけでリラックスしてしまい、睡魔が、あっやばい、もう来ちゃったか‥

ガタン

そこで椅子が下がりハッ!とする。

されるがまま、これが理容室の良さである。

「このぐらいで」それ以外は自由、お任せであるが。

店長は上手い、自分の髪でしか判断してないが、頭の形と髪の生え方、いつもこのぐらいでと頼むと、上手い人は丸く仕上げるのである。

そうではない人は角が出るというか、丸さがない。

歴代で一位が、自分の髪は丸く仕上げた方がいいということを教えてくれた理容師さんだが、出会ったばかりだし、店長はこの段階で四位かな。

プシュ

髪を濡らされ、ハサミが入ると、髪は松葉のようにはらりはらりと落ちていく。

秋だ。

(なんでだよ)

一人でボケて、突っ込んでいる。

こういう状態だからこそ、今日からしばらくは体労りに走ることを決めたのである。

まず髪を切ろう、さてどこで?その時にこの店の、「耳かきに力を入れてます」マークを見つけた。

このマークは「耳かきにこだわってます」マークと共に、耳かき優良店を探す目安になっている。

自分の厄を落としてもらうために、髪を切ってさっぱりしよう、そして今日は思いきって耳かき延長もつけちゃうぞ!とのことで、その気持ちだったために、さきほど店長に大変失礼なことをいってしまったのである。


耳かきは好きだ。

あまりにも好きすぎて、親がしてくれた後、物足りなくてこっそり隠れてしていたのだが、大人になってからは縁遠くなっていた。

しかし、耳かきは人々を忘れていなかった。

そう老若男女、耳かき好きもそうでない人も耳かきに熱中させたというか、落としたヒット商品が登場したのである。

最初、俺も。

「はっはっはっ、そんなバカなことがあるものか、そこまでの耳かきに力があるはずがない」

試してみようじゃないか?俺は耳かきにうるさいぞ。

?!

耳の中に入れた瞬間、世界が変わってしまったのである。

(これはヤバイ、やめなければならないのに、でも手が止まらない)

こうして、自分の中の耳かき熱は復活した。

そのためいくつか行動が変わったのだ、髪を切る時は耳かきがあるところにしようと。

そうして髪を切るというか、耳かきを楽しみにしていくようになる。

ほほう、この耳かきはなかなかですな。

ああん、惜しい、もっと深く。

そうそう、そこ!、そんな感じで。

だからこそ、店長のあの言葉、あそこまでいうなら、期待させてもらおうかというわけである。

フワッ

髪を切り終わった後に、髭を剃るための蒸らしタオル。

「それでは失礼します」

泡をたっぷりと立て、それを肌に伸ばしていく。

シュル

鋭い刃を持つカミソリを巧みに操る。

(このお店、たぶんシェービングだけにお客さん来るところだわ)

実はシェービングは苦手である。

特に首、なんかわからないが怖さを持っていたりするのだが、上手すぎてふわふわとした気分のままである。

さっぱりした後に、蒸しタオルで拭き取られスッキリする。

それでは本日のメインイベントです(ドラムロール)

ポリカーボネート製の耳かきの可能性を見せてもらおうじゃないか。耳かきはサジのついている日本型とスクリュータイプの欧米型のようだ。

それでは始め!

カリカリカリカリ

耳の外側をそのサジはこれでもか!といった具合にかくが、痛くはない。

(あっ、そうか、ここまでこのタイプの耳かきでかきこまないわ)

「気がつきましたか?これがこの素材の特徴なんですよ」

ポリカーボネートは竹と同じように使ってはいけない。

「形としては棒に溝があるようなサジですから、その棒のサイズだと、縁とか撫でるように掃除ができるんですよ」

なるほど竹では出せない細さと耐久性と辺りのよさか。

「欧米型は耳の外柄はできませんから、サジでマッサージするように探すんですよ」

「探すって何を?」

そこで耳かきが耳の中に入ってきた。

「‥あ」

ゾクッときた。

「これ、すごいですね」

「でしょ?」

そして、一度サジではなく、欧米型のスクリューに変えられる。

サリサリサリ

カリカリカリカリとかけられたところに、サリサリサリと削りがやって来る。

これは‥やばい。

「うちだと左右で一本づつですね、スパイラルって一回一回トントン紙に落とすことが難しいですから」

終わった後洗ってきれいにもできるが、まずとれたものをウエットティッシュで拭き取って見せてくれた。

乾燥したタイプの耳垢名のだが、濡れたために一層汚くみえるではないか。

「‥いい」

そう感想をもらすと、再び耳掃除は始まった。

ガッ!

大物に当たる音。

「やっぱりこの耳かきのいいところは、探れるところだと思うんですよ」

耳の中の形が自分にもはっきりとわかる。

大体この辺にある、それがはっきりとわかると。

ゴッ

大きな塊をはずしに、そしてそのまま耳の中から引きずりだした。

「いいです、いいです、最高です」

固まりは白く、薄くはあるがたくさんの毛を巻き込んでいる。

まだ耳かきは続く。

ポリカーボネートの耳かきは、あちこちと動き回りると音を立てるので、その音の主を探しているようである。

「はぁ~」

腹から息を吐き出した。

「それでは次は左を」

左は汚かったらしい。耳の穴の上部をひたすらやられた、これははじめての感覚である。

もうこれは、ここだけの、ここだけしか味わえない感覚‥

「おや?」

「えっ?なんですか?」

「いえ」

すごい気になる。

その意味がわかるのは、自宅でポリカーボネートの耳かきに挑戦したときであった。

カリカリカリカリ

(なるほど、これは竹の耳かきより力を入れてはいけないよな)

そうして今まで手をつけてない部分まできれいにできることがわかる。

(なんかいつもより耳かきがピタッと来る感じがするんだよな)

これはこれでありである、今まで俺はこの良さに気がつかなかったのである。

そして欧米型の耳かきに持ち変えたとき。

?!

自分の中の気持ちいいポイントが今あった。

あれ?でも、いや気のせいかもしれない。

?!

まさか‥と確認するように、やっぱりそうだった、悶絶しそうなほどに気持ちのいい快楽がそこにはあった。この間店長はもしかしたらの扉を見つけ、俺は今日それを開けてしまったのだ。

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