その、6 ご実家訪問
その日、加奈さんの家には家族全員が集っていた。霊課の前で加奈さんと合流して共に訪問する。
「最終確認だよ。本当にいいの? 俺、夫にも父親にも向かない性格だよ? 妻も子どもも放置で気が向いた時にしか接触しないと思うのに」
「大丈夫ですわよ。いざとなったら夫・父親の役は唯が引き受けてくれます」
「ああ……」
「気遣ってくださっているのはわかりますが、もう後には引けません」
「はい」
案内された家は流石の門構えと入り口で分かる広さに若干恐怖を覚えながらも呼び鈴を鳴らした。
「おお良くいらっしゃいましたな」
「先日はお世話になりました」
東の御方自ら出迎えてくれてちょっと気圧されてしまった。
「まあまあ中へどうぞ」
加奈さんの母上だろうか? 面差しの似た柔和な女性が声をかけると一同室内へと入る。
「これ、みなさんでどうぞ」
味の詰め合わせのおせんべいを母上(?)に渡す。
「あらあら、ありがとうございます」
広い和室に案内され下座につく。上座を勧められたが流石に今回は遠慮させてもらった。それぞれの自己紹介と少しダンジョンの感想など仕事の話をしながら落ち着いた所で
「加奈さんと結婚しようと思いますが、お許しいただけますでしょうか」
と切り出した。
「おお! ようやくか、良かった良かった」
「娘のこと、よろしくお願い申し上げます」
東の御方は喜び加奈さんの父上は静かに頭を下げた。襖の向こうから
「あー、もう無理かと思っていたよ」
「噂だとゆっくりした人らしいから……」
「姉さんちゃんと結婚できるんだ」
「まとまって良かった」
「連城のあの人のことバレたって聞いてもうダメかと思った」
「普通はお断りよね」
「霊課との関係で断れなかったのかも」
と多分弟さん妹さん達の小さな声が聞こえた。うん、神力が付いて地獄耳になったんだ。普通の人なら聞こえない小さな声でもはっきり聞こえているよ。遅くなって悪かった…ね?
「ありがとうございます」
きっと幸せにしますよ……唯さんが。とは言わなかったが、微妙な間に何かを感じ取ったようで
「寛容な対応に感謝します。こちらこそありがとうございます」
と、加奈さんのご両親はともに頭を下げられた。ここで三次元の人間に興味がないとか逆に対人関係で盾が出来たとか言ったら怒られるだろうな。
「他に女を作るなど、孫が申し訳ない」
東の御方も渋い顔で頭を下げている。どういうことだ、唯さんの件は家族全員知っているのか。天司君が教えてくれるまで気付かなかったのに、どうやって知ったんだろうなぁ? 単に俺が鈍いだけなのか?
「まあ、お気になさらず」
それ以外に何と言えというのだ。
「本当に申し訳ない」
永遠に謝罪が続きそうな気配なので話題を変えることで切り上げる。と言ってもどうせダンジョンか茶会の話しかないのだが。
「では失礼いたします」
一通り薬草の件と霊薬の作成方法で盛り上がってから加奈さんの家を辞した。
「津田様、お疲れさまでした」
「加奈さんは大丈夫?」
「はい」
綺麗な笑顔を作っているが若干お疲れのようだ。
「あと、何をしないといけないんだ? …………えーっと…婚約指輪を探しに行くとか? ……きっと今日は多いから今度にしよう」
暇を持て余した銀が探して来た資料に注文してから受け取るまで2・3か月とか、男が用意するより一緒に見に行って方が良いとか、なんかそんなことを書いてあった気がする。だが土曜日の午後なので混雑しているだろう。
「ええ、平日の良い日にお店に予約をしてから行った方がゆっくり見られると思います。それよりせっかくですからデートしませんか? 美味しい紅茶のお店がありますのよ」
征也は珈琲より断然紅茶派だ。それを知ってのお誘いだろう。唯さんは珈琲党だが加奈さんはたっぷりミルクと砂糖を入れないと飲めないため、紅茶か日本茶派だと言っていた。
「そう、行こうか」
「はい」
いつも職場で結婚が決まったと言うのにデートの一つもしたことのない、初めて2人だけでの外出だった。だからと言って何があった訳でもなく、ただ美味しくお茶を飲んで帰っただけだったのだが。
「安倍さん、……どうなんでしょうかね?」
あまりにもあちらのお家が気にしているので、そんなにわかりやすかったのかと安倍さんに尋ねてみた。
「恐れながら…津田様が全く彼女たちをきにかけていないという事ではないでしょうか?」
「……そんなにわかりやすかったですか?」
「随分とあからさまでしたので。彼女たちもどの程度なら叱責を受けないかと関係を計っていて、あまりにも何も言われないことでエスカレートして歯止めがかからなくなったようでした」
そこまでか。
「征様、いいじゃないですか。きっと天の采配ですよ」
背中から銀が抱き着いて来た。小学生なので15時前に帰って来ることもある。そんな時は職場のある黒書院に来てお茶を出したり積み上げていた本を戻したりと手伝ってくれる。小学生に仕事のお手伝いをさせているのはどうかと思ったが、眷属で付喪神に近い性質なので使われる方が好きなのだとか。
「ええ~。どういう意味で?」
「お相手様がむやみに構ってほしいと征様のご負担にならないように、ですよ」
「それはもちろん俺以外を見ないようにでしょう」
銀の回答に重ねるようにして天司君まで帰って来た。
「それ、都合よく解釈してるだけじゃない? 日本の神様としてどうよ」
「日本の神様だからですよ。戦国武将から神様に祭り上げられた方など、妻子があっても男相手に浮気の弁明だとか恋文だとかが文書で現代まで残っていて博物館や資料館に保存されていますしね。そういう方々が普通に神様業務を行っていますので全く問題ありません」
酷いプライバシーの侵害を見た。昔の偉い人なら恋文も博物館に展示されているのだろうか?
「……そう」
「明治に入って西洋文化が入ってくるまでは男色多かったようですからね」
「そう」
日本って寛容なのか寛容じゃないのか分からん感じだな。戦国時代当時の価値観を持って来られても……いや、今もそのままの価値観で生活しているのだろうか?
「天司君って自分が好かれるって疑ってない所が……自信過剰なのか経験則なのか……」
見た目も良いし頭も良いし術者としての実力も高ければ、そりゃあ女の子も寄って来るだろう。だが征也は全く恋愛系に興味がないのだ。そもそも恋愛感情自体がよくわからない、結婚にしても生活の協力者のようにしか考えていなかった。
「征さんは俺、嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど……そういう意味で好きでもない」
「そうでしょうね」
「そうでしょうねって……じゃあやめようよ」
「好きも嫌いも興味がないのでしょう? ならば興味を持ってもらう所から始めてもらいます」
「無視ですか」
「友人・同僚・親しい者としては嫌いではないでしょう? 少しだけ方向性を変えて見ればいいだけです。ちょっと関係が追加されるだけですよ、または新しい家族位に考えてもらえれば」
「ああ……家族、家族ね……。関係性からすると双子みたいなものらしいから、家族と言えば家族かなぁ。そのうち異界の江戸城っぽいところに一緒に住むんだろうし……」
その程度なら文句はない。不快にならない距離を保ちながら細く長く付き合っていくために関係性のすり合わせは必要かもしれない。今はマンションに帰っているが先日結婚という区切りに補佐やウカノミタマ様から異界への移住を勧められている。
「情熱的な感情を持っていただければ嬉しいですがそこまで贅沢は言いません。ただ征さんの一番大切な人になりたいと思っています。今一番大事だと思う人は誰ですか?」
「……う~~ん……誰だろうね」
声も表情も穏やかな割に何かが怖い。これは答えていい質問なのか?
「そうですね、答えない方がいいですよ」
「嫉妬で無意識に念を飛ばされでもしたら大変です」
「賢明な判断です」
安倍さんが小声で教えてくれ銀も同意する。念を飛ばすって何? そんなことできるの? 怖ぁ~。
「まぁ、彼女たちに関しては心配しなくても大丈夫ですよ。何かあれば私どもが対応しますから」
と安倍が全面的に請け負ってくれた。