その、2.5 彼女たちの憂鬱
「それにしてもあっさりと承諾していただけましたね。てっきり津田様からご結婚は無効だと仰られるかと思いましたのに」
唯は津田の部屋から離れて廊下でホッと一息ついた。
「津田様はご興味ないのよ、私にも、貴方にも。だから見逃していただけただけ。元々人間にはご興味が薄いようですし」
加奈は困ったように津田の部屋を振り返った。
「それは……良いことなのでしょうか?」
「どうでしょうね?
恐らく津田様の中では我が子ともいうべきダンジョンが一番で次に葉月様か…育てている茶畑か……そのほかは必要に迫られなければ気にも留めないのでしょう。眷属の方々は気にかけておられるようですが……。
ダンジョンの管理に関わる坂本補佐、茶事の主催である赤井殿、そして各種手配を担当している安倍氏、……後は宮司くらいでしょうか、あの方の視界に留まるのは。
それ以外は害がなければよい。私達のことにしても補佐が言い出したから聞いただけ、という可能性もありますわ」
補佐が言うから結婚も承諾したのだろうか。唯は少し不安になったが、思い返せば自発的に声をかけられた覚えもなく基本的には邪魔にならなければ良いと放置だった。
「そう、そうですわね。私達が恋人になったと聞かれた時も別れるかと尋ねられましたが、お叱りも取り返そうともなさらなかった。取り返すほどの価値も情も感じていらっしゃらない、お叱りすらもないほどに気にされなかった」
「ええ、だから気を付けなくては。私たちの存在は坂本補佐と葉月様によって簡単にあの方の目の前から抹消されてしまう、忘れられてしまうのだから」
「ご家族に対してはいかがでしょう?」
家族との交流は訊いたことがないけれど気をかけているのなら、そちらからの攻略も出来るかもしれない。
「津田様は仲が悪いとは仰らなかったけれど、疎遠だと。あちらから連絡が来るか用事があるかでしか交流はないようですから親密な関係ではないわ。
きっと私と結婚してもただの女避け程度、それで距離感が劇的に縮むことはないでしょう。それでも、少しづつでも近付くつもりよ。あの方には忘れられずに関係を繋ぐことが大事だと思うの」
浄化と治癒の能力、浄化はまだ習得しやすい能力だが治癒は滅多にない能力だ。それゆえ2人の実家では一族に血を取り込んで囲い込むか、又はそれに関連する神器を賜りたいと虎視眈々と狙っている。だが囲い込みは天司が許さないし、他の人間が近づくことも許さないだろう。だからこそ自分たちが何としても確実に成果を上げなければならないのだ。
「私も、気を配りながら友人程度には思っていただけるように頑張りますね。勿論葉月様には気を付けながら」
「そうですわ、近付き過ぎて葉月様に排除されないよう気を付けなければ」
それぞれの家の思惑を背負った女2人の前途は多難なようだ。