一年経った回想
俺、津田征也が偶然で神になって1年が経った。
現在の仕事は警察の捜査霊課に勤めるアルバイト神。
専門は生命と浄化。
一緒に神になった相棒神の葉月天司君は勝利の神だ。学生だがバイト先の先輩でもあり結構仲が良い。
現在は津田神社の一宮に祀られ、二宮に天司君が、眷属たちは摂社に祀られている。
神になった頃に人間の負の感情が迷惑だから何とかして浄化しろと命じられ、うっかり先輩神の前でダンジョン作ってそこで地上に迷惑が掛からないように処理したらどうかと口を滑らせてしまったがために現在はダンジョンを作っている。
ダンジョンでは気脈から邪気を分離して集め、その邪気によって生まれた魔物を倒すことで霊珠を得ている。霊珠は術者さん達の霊符や術式などに使われ、最近では電力会社にも電力の元として売り出され始めた。
石造りの第一ダンジョンは術者さんに公開されて捜査霊課によって運営されている。そこからダメ出しを喰らって作り始めた第二ダンジョンは洞窟エリアとデパート地下鉄エリア、そして世界中の薬草のとれるよう配置した洋館エリアが公開になっている。
現在は4月の例大祭にて公開された日本庭園春エリアを閉じての微調整、そして秋エリアに新しく取り掛かっている。
浄化の他に生命の神でもある。
生命の神として行っている事は2つ。
1つ目は神社の絵馬に書かれている願いを3枚持ってきて夢渡りで治療する。主に肩こりや腰痛、ニキビなどだ。
2つ目は課に委託してあるが、神気をふんだんに注ぎ込んだ茶木を育てその茶葉を使って茶会を行うことで病や怪我が治るようにすることだ。お茶会は課を引退して茶道教室を開いている赤井志津さんにほとんどお願いしている。
眷属はこちらよりの力、当時着ていたシャツから銀、神徳は子どもの守護神だ。ズボンから春仁、良縁を結び悪縁を切る縁の神。それから両方の靴から左近と右近、足腰の神と交通の神になって貰っている。
日々、始業時間から茶畑を回り、気脈から邪気を引いているダンジョンの配管が詰まっていないかを確認。
それから通常業務としてダンジョンの拡大を考える。まあ、新しい場所の配置や構造を考えて検討し、上司から合格を貰えたら作成に入るのだが。
一応終業時間は17時までだが、絵馬から縁を辿っての夢渡りするのは夜22~24時くらいだ。
普通にバイト生活でなんとなくのんびりと生きてきた俺にここは結構ツライ。
事務所で決められたことを短時間に、とか決められた時間にみんなで働く姿がそばにあるとかなら自分も頑張ろうと思う。だが、自分一人しかいない部屋で自分を律して一人で時間を管理して地道に進めるのは元が怠け者の俺にはキツイ。
報酬は完全歩合制でダンジョンは諸経費を除いた純利益の4分の1、茶会は雑費込みの総利益の2分の1となっている。
プライベート(?)に関しては複雑なことになっている。
職場の上司が持って来たお見合いで出会った女性が2人、今の所は婚約者となっているがあちらの家とこちらの上司たちの話し合いと神々の関係でこの現代日本なのに正室と側室を置けというトンデモ事態に陥っているのだ。価値観が違うと悩んでも押し切られてしまっている。しかも相手している時間があまりとれなかったせいか女性同士で仲良くなって恋人関係になってしまったのだとか。
正室と側室が恋人同士で旦那は無関係とか、あんまりだ……。
「これで一段落、怒涛の1年だったし7月までは落ち着けそうだ」
例大祭の後の週末まで公開されていた春エリアを午前0時に閉じる。7月にあるダンジョン1周年までは少し余裕がありそうだ。
「ええ、俺はあまり変わりませんでしたが征さんにとっては変化の年でしたでしょう?」
「そうだね」
ライトアップされていた春エリアを閉じたために辺りは真っ暗で晴れた空を見上げて、たった1年で色々あったなぁと振り返る。
「征さん」
「何?」
「好きですよ」
「? ……ありがとう?」
「今年は征さんと恋人になる事を目標にしておきます。大丈夫ですよ、東山も連城もあちらは楽しくやっていることですからね」
東山加奈さんと連城唯さん、征也の婚約者とされている女性の名だ。
「は?」
「征さんに恋愛している余裕が心理的にないようでしたのでこれまでは伝えなかったのですが、色々と立ち上げが一段落して通常業務が固定化されているようなので。
征さん、好きです。付き合ってください」
「」
「返事は後でも構いません。しかし、婚約者がいるから、結婚するからという理由で断らないでくださいね。あちらも恋人はいるのですから」
「……む、無理……価値観が全然違う、と、思うし、お断りします」
何とか声を絞り出して渋い顔をした征也に天司が苦笑いになる。
「征さんは一般家庭でしたね。
こちら側では高い霊力の子を持つためにビジネスとして愛人契約も性行為の契約もありますから気にしないでいいと思いますよ。それに俺のことはあちらも織り込み済みですからね」
「織り込み済みっていつから……」
「最初からですよ。そもそも双子神は相手に執着することが多いのですから、あちらは人間の女性との婚姻の承諾をされただけでもありがたいと思ってもらいたいですね」
超が付く上から目線だ。あの、お相手さんは業界の重鎮の世話だって知ってるよね?
「つまり、俺の知らない業界の通例とか暗黙の了解が?」
「そう思っていただいて結構です」
「…………男色の気はありません」
「それに関してもまた話しましょうか。余計な情報を与えられても混乱して、肝心な所から意識が逸れるでしょう?
何にせよ今は俺が好きだってことを押さえてもらえれば」
「……」
征也が頭を抱えた状態で2人は帰って行った。