第4話
『片目片耳のワーウルフを退治せし者には、今は亡き伝説の鍛冶師ザッハルトが鍛えた一品【白銀の封魔剣】を進呈する!』
その噂は住まいを持たぬ貧しき者から富める豪族、果ては権力者である諸侯達にまで広がっていた。
むしろ手配書が張り出されていた城下町や周辺の村々に留まらず、領土を超え隣接する他国にまで及んでいたのだ。
それもそのはず……。
そもそも、この白銀という名の金属。光が一切当たらぬ暗闇の中でも、薄っすらと白い輝きを放っていた事から、その名がつけられたという。
その特徴から鑑賞品として高額でやり取りされていたが、とある王族が白金を使った王冠やティアラを欲し臣下達に命じた。依頼を受け彫金師達が白金に手を加えようとした時、今まで誰も気づかなかった新たな特性が発見される。
それは、白金に衝撃や圧力を与えると、その強弱に応じて振動を起こすという、解明し難い謎の特性をだった。
この圧力に応じて振動という特性が、彫金師達を苦しめた。
形を整えようと槌を振るえば、その衝撃で白金が震えだすのである。しかも押さえつければ押さえつけるほど圧力がかかり、より震えて暴れるからたまったもんじゃない。
結局王族御用達の彫金師達では歯が立たず、より金属加工に詳しい者にと白金の加工を依頼されたのが、若き天才鍛冶師『ロベルト・ザッハルト』……ヴィーラントの父親だったのである。
だが天才と呼ばれるザッハルトでも、衝撃を与える度に振動を起こす謎の金属に手を焼いた。それでも僅か三ヶ月程で白金の王冠とティアラを完成させたのだった。
その素晴らしい出来栄えに感銘を受けた王は、ザッハルトに褒賞をと望む物を尋ねると、「ぜひ白銀を使って、武器を作ってみたい」っと願ったのだ。
一欠片の白銀で、一個小隊の武具が揃えれる程の希少価値。絶対に有り得ぬと憤慨する臣下達を制し、王はロベルトの申し出を快諾。ザッハルトにと甲冑すら作れる量の白金を与えたのだ。
王の施しに報いようとロベルトは、持てる知識と技を駆使し、この世に存在していなかった武器を作りあげる。
それが刃も砲弾も効かぬ、不死者すらも滅する『白金の封魔武器』なのだ。
その後封魔武器の製造方法を無償公開したザッハルトの元に、各国の鍛冶師達がこぞって教えを乞いにやってきた。嫌な顔ひとつせず受け入れる彼を揶揄する者も居たが、封魔武器の生みの親として職人の誇りとして、亡くなった今でも多くの鍛冶師達がザッハルトを師と仰ぎ尊敬し続けている。
そんなロベルト・ザッハルトが鍛えた剣なれば、その価値は計り知れない。
彼が生前に製造した封魔武器は、現存する物で百本満たないとされ、その全てが国宝指定されている。仮に売るとするならば欲する者は数知れず、金額も田舎ならば城下町を丸ごと買える程の値がつくだろう。
そんなかつて類を見ない手配書の前は、いつも多くの者達が集まり噂話を弾ませていた。
とある町の広場では……
「見たかい? あの張り紙。白銀の封魔剣だってよ!」
「見た見た! けどワーウルフかぁ……。俺たちにゃ無縁な話だなぁ……」
「そもそも、本当に封魔の武器なんざ貰えるのか? 嘘くさい話だぜ」
「いやぁ……それが町の鍛冶師達が言うには、生前ザッハルトが隠居して小さな工房を構えたらしいんだが、それが手配書に記載されてる村らしいんだよ」
「それアタシも聞いたよ。なんでも一人息子が後を継いで、今も武器を作ってるって話さ」
「なんだなんだ? 白銀の封魔剣? その話詳しく聞かせてくれよ!」
などと盛り上がり、また別の酒場では……
「おい、聞いたか? 手配書の報酬を求めて、町一番の武器屋が討伐隊員を募集しているって話」
「おお! それだったら街道で暴れている盗賊達が、盗みヤメて手配書のワーウルフを夜毎探してまわっているらしいぜ?」
「すげぇ騒ぎになってるよなぁ。でも片目片耳のワーウルフって言ったって、そんなの倒した後に目と耳を潰せば、いくらでも誤魔化せそうだよな?」
「いやそれが、但し書きにあるウエスト・ボートブリッジって街を襲ったヤツには、片目片耳以外にもう一つ大きな特徴があるらしく、偽物を持っていってもすぐに気づかれちまうって話だ」
「なんだよそれ。じゃあ同じ風貌のワーウルフを狩っても、違うヤツだったら働き損じゃねぇか! まさかこれから倒そうってヤツに、『ウエスト・ボートブリッジを襲ったか?』って聞けって言うのかよ⁉」
「だから報酬が白金の封魔剣なんだろな……。普通の報酬だったら見向きもされないが、ワーウルフを数千匹倒しても、封魔武器なら釣りがくる」
その男の言葉に、皆大きく頷いて理解をしめすと、また酒を口にしては手配書の話で盛り上がるのだ。
こうして噂はどんどんと広まっていき、小さな村から大きな街の人々まで手配書のワーウルフを探し求め、その数は国が抱える兵数をも軽く超えていたのだ。
そしてやがて噂が噂を呼び、人里遠く離れたヴィーラント達が暮らす村に噂の真偽を確かめんと、他国の騎士を名乗る三人組が現れた。
「片目片耳のワーウルフを退治した者に、白銀の封魔剣を進呈するという話を聞いたのだが、それはお主が出した手配書で間違いないか?」
三人の騎士は立ち寄った町で噂を聞き、手配書に書かれた発布者を手がかりに、ヴィーラント達の元へとやって来たと言う。
「ああ、その通りだが……倒してきたと言うのなら、ヤツの首を見せてもらおう」
「──いや、そうではない。我々は、なぜ白銀の封魔剣のような貴重な品を出してまで、特定のワーウルフの討伐を願っているのか、それを知りたくてここまで来たんだ」
これまた面妖な事を尋ねに来たもんだと訝しんだが、三人の労を思ってか小さく頷くエマを見たヴィーラント。自分と彼女に降り掛かった許されざる悲劇の経緯を、掻い摘んで話し始めた。
自身の妻と娘を殺された話、エマも同じく母を殺された話、無念のまま終わらせる事はできない話……
あまり口にしたくないヴィーラントであったが、情報のためである。
包み隠さず三人組に話をした。
「そうか……。それはさぞや悔しかったろう。なるほど、理由はわかった。最後にひとつ良いだろうか」
「なんだ?」
「報酬にある白銀の封魔剣だが、それが本物の封魔剣なのかを、確かめさせてはもらえないだろうか?」
当然と言えば当然の疑問であろう。だが、見せる訳にはいかない。白銀の封魔剣とうたっているが、実際はエマが持っていた父親の形見。ヴィーラントが打ち直した、ただの白銀の剣……偽物なのだ。
本物の封魔武器の成り立ちを知っている者ならば、魔力の石が無い事でまがい物と気づいてしまう。
だが対抗策は、この件の発案者であるカミラから授けられていた。
「すまないが、それには応じられない」
「ほう……。なぜだ?」
「この工房には車椅子に乗った中年と、年端もいかない彼女しかいない。もしかしたら手配書を見た盗賊やならず者が、力ずくで封魔剣を強奪しに来るかもしれないだろ? だから報酬の封魔剣は信頼する者を通じ、それとは知らぬ別の者が価値のない品物として預かってくれている。俺達はそこが何処だかも聞いていないし、誰が預かってくれているのかも分からない。だから見せる事も教える事もできないんだ。すまないな」
そう説明されたものの、今少し納得がいかない様子の三人組。
さらに畳み掛けるように、カミラから授けられた文言をヴィーラントは口にする。
「俺達は仇である片目片耳のワーウルフを許さないし、ましてや車椅子の俺は逃げも隠れもしない。それでも疑うと言うなら手配書など無視すれば良い。だが本物の首を持ってきたならば、俺はザッハルトの名にかけ白金の封魔剣を差し上げよう!」
再度言うが、ヴィーラントは白金の封魔剣を所持していない。
ここにあるのはエマの持つ、父親の形見である白金の剣だけだ。
ヴィーラントを真っ直ぐ見つめてくる騎士の眼差しに、嘘が見破られない事を祈りつつ平静を装う。
しばしの沈黙………………騎士は小さくため息を溢すと数回頷きを繰り返す!
「なるほど……確かにお主の言う通りだな。それならば仕方あるまい」
「……わかってくれて、感謝する」
「また来る……」
そう言い残すと三人組は、ヴィーラントに見送られ鍛冶屋をあとにした。
蹄の音が離れて行くのを確認すると、ヴィーラントとエマはその場に項垂れ、二人して大きなため息を吐き出す。
よほど緊張していたのか、額からは滝のような汗が吹き出していた。
「いやぁ……ただならぬ気配の持ち主だったなぁ?」
そう呟くヴィーラントにエマも「はい、ちょっと怖かったです」と言葉を溢す。
すると気が緩んだのか、空腹を訴えるハラの虫が…………。
顔を見合わせ吹き出すとヴィーラントは、
「遅くなったが飯にしよう!」
そう言ってエマの頭をひと撫でし、台所へと向かったのだった。
そしてその日の夕方……
「ヴィーラント! あの三人組の騎士は、ついさっき町へと帰っていったよ」
「そうか……」
「でもねぇ、すぐに帰っていくのかと思ったら奴ら、村のあちこちを見て回り、やたらとアタシら住人に話かけてきてねぇ……。もしかしたら、封魔剣を隠し持っている者でも探っていたのか、なんなのか」
「ふむ……」
「それだけさ。伝えたからね。それじゃあまあ、そういうコトだから。私はうちに帰って夕飯の準備でも始めるとするよ。さて今日はあのジジイに、どんなものを食わせてやろうかねぇ……」
毒でも煎じる魔女の如く、ニヤニヤ笑いを浮かべながら去っていく彼女。
だがエマも慣れたもので、何くわぬ顔でカミラを見送る。
そして数日後。
それはそれは……畏怖を覚えるほど美しい満月の夜。
普段なら風情感じる虫達の歌う声も、擦れ合う木々のざわめきも一切無く、ただただ静まり返っていた。
そんな静寂を打ち砕る、ナニモノかの遠吠えが数回……闇深い山間にこだまする。
ヴィーラント達が暮らす村へと続く道。
月明かりに照らされ現れたのは、およそ五十近い数の人ならざる者達の姿。
鋭い爪と牙を持つ彼らを従え、先頭に立つ一際大きな影。
彼は月を見て目を細めると、誰よりも遠くに響く声で吠えあげる。
月の光を受け輝きを放つのは、左耳のリングと鋭く美しい漆黒の瞳。だが照らし出された右側の顔には、目と耳を削り取った醜悪な傷跡が大きく刻まれていた。
「クソ虫が如き人間風情が、誇り高き種である俺達ワーウルフをマトにかけるとはな……。二度と刃向かう気が起こらぬよう、目を覆う程の惨劇をお見せしてやろうじゃねぇか」
そう言って顔の傷に触れるこの者こそ、ヴィーラントとエマを悲劇のドン底に突き落とした、許されざる宿敵。あの、片目片耳のワーウルフだったのだ!
次回「伝説の鍛冶師」第5話は、5/9に更新予定です!
ブログには更新の際に4コマも載せているのでよかったらそちらも併せて見てみてください!
ブログはユーザーページにリンクを貼ってあります!
また、5/5(日)には「灰かぶり姫に憧れて……」の更新もします!
お楽しみに!




