第1話
精霊が住まう山脈と呼ばれる山間部に、小さな村があった。
年老いた住人ばかりの三十世帯程が暮らすその村のはずれ。そこには崖っぺりで農具や鍋などの修理を営む車椅子の鍛冶師がいた。
「ヴィーラントはいるか?」
まだ日が昇り始めたばかりの頃、一人の老婆が鍛冶師、ヴィーラントの元へ訪ねていた。
中からはカァン! カァン! という金属音の音が聞こえてくる。
すでに仕事を始めているようだった。ヴィーラントは聞き慣れた声を聞き、扉を開けた。
「カミラのばあさんか。何の用だ」
「包丁が欠けてしまってねぇ……。修理してもらいたいんだ……」
ここは村で唯一の鍛冶屋。村人は当然ここを利用する。ヴィーラントは包丁を受け取り、状態の確認を始めた。見たところ先の方が少し欠けていることと、あとは少し刃こぼれをしているだけのようだった。
「代わりと言っちゃなんだけど、スープを持ってきたんだ。これで治してくれやしないかねぇ……」
カミラのばあさんが作るスープと言えば、村一番の美味しさと言われるものだった。当然、ヴィーラントにとっても好物のものだ。はじめから対価を要求するつもりはなかったが、せっかく用意してきてもらったもの。さらに好物ときた。ヴィーラントは素直に提案を受け入れることにした。
「少し待ってろ。すぐに終わらせる」
元から大したことない修理。ヴィーラントは必要な道具を出し、すぐに作業に取り掛かった。
そしてそれは修理を始め、ほんの少し経った頃のことだった。
カミラと話をしていると突然、ギィという音を立ててドアが開いた。
「誰だ?」
ヴィーラントがドアの方を見ると……
そこには一人の少女がいた。
見たことのない顔だったのでよそから来たことはすぐにわかった。よく見るとその少女の身なりは悲惨なもので、服はボロボロに、体のいたるところには傷が、そして立っているのもやっとという状態のようだった。
そして、その少女は作業場を見渡すと、少しホッとしたような顔を見せ、最後にヴィーラントの方を見ると……
「かじ……し…………」
彼女はそう言葉をこぼすと、突然その場へ倒れ込んだのだった。




