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クレマン アフターストーリー

閲覧いただき、ありがとうございます。本編から一年経った頃のクレマンルートのお話です。

私は工房で働くクレマンの姿を見つめていた。


あれから一年。

クリストファーと婚約破棄されて、納得いかなかった私はアニエスとして、文通を始めて、クレマンに協力をして、気づけばクレマンの婚約者になっていた。


しかし、クレマンとの交際自体は順調だが、周りの反応は芳しくなかった。


特に私の両親だ。

私の家よりも身分の低いアンジェ家。

アングラード家は代々政略結婚やお見合いが多かった為、身分違いの恋愛結婚など認めてもらえるはずがなかった。


今日も両親と衝突し、ディアモン国のアンジェ家に逃げてきたのだ。

そんな私をクレマンは苦笑いして、迎えてくれた。


作業を終えたクレマンは、私にレモネードを淹れてくれた。


ありがとう、と私がレモネードを受け取ると、クレマンは私の向かいに座った。


「今日はどうしたんだ?何かあったのか?」


薄々気づいているのだろう。

クレマンは困ったような表情で私に尋ねてくる。


「その、両親と喧嘩して…つい感情的になって、しばらく出かけるって書き置きして、出てきちゃった」


「つまり、家出か」


ストレートに言われ、私はぐっと詰まる。

感情的に行動を起こすなんて、子供っぽいことは分かっている。でも、毎日のようにクレマンと婚約する考えを改めろと言われると流石に堪えるのだ。


そして、こうやってクレマンのところに逃げても、クレマンを困らせるだけ。

分かっているのに、私はここに来てしまった。こんなことをしても何も変わらないのに。


レモネードをちびちびと飲んでいると、不意にクレマンが立ち上がり、作業台に向かう。


「それ飲み終わったら、グルナ国に帰れ。御両親が心配するだろう」


私はクレマンの言葉に、えっ、と短い声をあげた。


クレマンは作業台で何かを探しながら、話を続ける。


「こんな風に逃げていても悪化するだけなのは、レティシアも分かっているだろう?周りの反応は芳しくないけれど、逆に伸びしろがあるってことさ。俺たちが如何に運命の相手なのかって証明するには今後の俺達の行動にかかっているってことだ」


正論に私は何も言えなくなる。

レモネードの水面に映る私は、まるで迷子のような頼りない表情をしていた。


不意に、レモネードの水面に影が映る。

上を向くと、クレマンが優しい表情で私を見ていた。


じっとしていて、と言われ、私は咄嗟に身体を強張らせた。

髪に何かを留められる。暫くすると、クレマンは私から離れて、近くにあった鏡を渡した。


鏡に映る私の髪には、菫色のドライフラワーで作られたヘッドドレスが付けられていた。


「綺麗…クレマンが作ってくれたの?」


綺麗な物や可愛らしい物をつけて、心が高揚するのは、乙女心だろう。

少し興奮したように尋ねると、クレマンは得意げに応えた。


「ああ、この色とデザイン、レティシアに似合うと思ってな。気に入ってもらえて何よりだ」


「私の好みだわ。流石、クレマン。私のことよく分かっているわ…」


私はそう言って、髪を崩さないように、髪飾りに触れた。

すると、クレマンは、そんな私の手を取り、キスをした。


「俺ほど君に似合うコーディネートを考えられる人はいないと思うよ。これは俺からの勇気のおまじない。今はまだ皆に認めてもらえないけれど、2人で乗り越えよう」


本当にクレマンは大人だし、優しい。

私はクレマンに甘えてしまっている。

それが少し申し訳なく思いながらも、私はクレマンの言葉に頷いた。


「クレマン、聞いてくれよ…って、悪い、邪魔したか?」


クレマンの同僚らしき男が、作業場に新聞を掲げて、入ってきた。

そういえば、ここは作業場だった。


私はそんなことも御構い無しに二人の世界に入っていた自分が恥ずかしくなり、顔を紅潮させた。


遠慮して、戻ろうとした男をクレマンは引き止める。


「構わない。何かあったのか?」


クレマンが話を促すと、男はしどろもどろに答えた。


「い、いや。大したことじゃないんだ。グルナ国の王太子様に婚約者が出来たらしい」


「えっ…」


私は男の言葉に思わず硬直する。

まさか、クリストファーに婚約者が?


何故かショックを受けている自分にショックを受けている。私はもうクリストファーと何の関係もないのに。


不意に視線を感じ、ハッとしてクレマンの方を見ると、一瞬、クレマンは寂しげな表情を浮かべた。


しかし、クレマンはすぐに私が自分を見ていることに気がつき、頭を撫でた。


…また、気を遣わせてしまった。

私は自責の念に駆られながらも、男の話を聞く。


「第一王子のリシャール様に婚約者が出来たそうだと、新聞に載ってたんだよ。しかも相手は男爵令嬢!身分差の恋ってやつだよ」


クレマン達と一緒だな、とその男は無邪気に笑う。

クレマンは、男の冗談に苦笑いで返した。


肝心の私は、男爵令嬢という言葉に固まってしまった。


ヒロインも確か、男爵令嬢だったはず。

まさか、ヒロインはリシャールを攻略したのか…?


反射的に動揺してしまったが、私はもう乙女ゲームの世界から完全に離れたのだ。

私には関係のないこと、そう言い聞かせた。


「ここには詳細は書かれてないが、きっと魅力的な女性なんだろうなあ」


男は見ず知らずの他国の婚約者に想いを馳せる。私は男の話を聞く余裕はもうなかった。


何故だろう、不安が拭えない。

なんだか、どこまでも乙女ゲームの要素が悪役令嬢である私を追いかけている気がして。


ふと、私達は、店の方が騒めいていることに気づいた。


「何だ?店の方が騒がしいが…」


男は不審そうに首を傾げる。

クレマンは私のそばを離れて、店に続く扉に向かう。


「様子を見てくる。レティシア達はここで待っていてくれ」


男と私は頷いた。

数分経っても、騒ぎは収まらない。

どうやら、騒ぎは外にまで広がっているようだ。


「レティシアお嬢様、気になりませんか?」


そわそわした様子で男は、店に続く扉の方を指差し、尋ねる。

その表情は小さい子が悪戯を思いついたような無邪気なものだった。


「でも、クレマンにここで待っているように言われましたし…」


「ちょっと覗きましょうよ!クレマンにもバレないように、ちょっとだけ…」


男の好奇心はどうやら鳴りを潜めることが出来ないようだ。私は半ば強引に覗きに付き合うことになった。


扉を少し開け、隙間から覗き見て、私はまた硬直した。


そこには、グルナ国第一王子のリシャール・ウィルソンとゲームのヒロインであるフローラ・ローレンスがいた。


やっぱり、ヒロインは第一王子と結ばれたんだ…!


しかし、何故ディアモン国に2人がいるのだろうか。

とりあえず、落ち着け。

動揺をしていたら、覗いていることも気づかれてしまうかもしれない。


「責任者のクレマンです。遠い所から良くいらしてくださりました。本日は何をご所望で?」


クレマンは和かな笑顔を浮かべて、2人を出迎えた。

そんなクレマンにフローラは笑顔で応える。


「私、レティシア様の大ファンなんです。レティシア様がこちらのブランドを復興したと聞いて、興味があって、旅行先はディアモン国にしたんです。噂によると、貴方はレティシア様の婚約者みたいですし…」


フローラが私のファン?

それに、クレマンと私が婚約者だということをどこで知ったのだろうか?リシャールの家族である、カミーユやセシリア、クリストファーから聞いたのだろうか?


フローラの発言に困惑しつつも、私は男と盗み聞きを続ける。


「興味を持って頂けて光栄です。ここはディアモン国の中でも観光地として有名なだけではなく、刺繍、宝石やコーヒー、紅茶など沢山の特産品がありますので、是非色んなところを巡ってくださいね」


興奮しているフローラとは裏腹にクレマンは淡々としている。

さりげなく、ディアモン国を宣伝しているところを見ると、流石商人の血筋を引く人だ。


「確かにディアモン国の物はどれも質が良いな」


リシャールはストールを手に取り、質感を確かめながら、感心したように言う。

そんなリシャールに、クレマンはありがとうございます、とビジネススマイルを浮かべた。


「クレマン様とレティシア様はいつから恋愛関係に?クリストファー様から略奪したんでしょう?」


キラキラとフローラは、私達の関係を掘り下げようとする。

すると、クレマンは少し声のトーンを落として応えた。


「申し訳ありません。完全なプライベートのお話は応えることが出来ません。私にとって、ここは、プロの真面目な職場なので」


そうクレマンが告げると、フローラは少し動揺したように謝る。

リシャールは、そんなフローラを背後に隠し、クレマンに話し始める。


「連れが気分を害したようですまない。私達はここへ冷やかしに来た訳ではない。貴方の腕を見込んで、注文をしに来たんだ」


「いえ…御注文ですか。どんな物をいつまでにご所望ですか?」


すぐにいつものクレマンに戻り、私はホッとする。


「1ヶ月後に成約パーティで彼女の御披露目会がある。その時に私と彼女が着る服を作って欲しいんだ」


「1ヶ月後に、タキシードとドレスですか…」


クレマンは、パラパラとスケジュール帳を確認し、少し考えた後、承諾した。


「分かりました。本日はお時間ありますか?簡単に採寸をさせていただきたいと思います。そして、3週間後に一度そちらにお伺いして、最終確認をしていただこうと思います。宜しいでしょうか?」


「ああ、構わない」


最近、新作を出して、生産量も増やして、忙しいはずなのに、オーダーメイドの注文なんて受け持って大丈夫なのだろうか。


ふと、男の方を見ると、男も不安そうな表情をしている。やはり、普段アンジェ・テイラーで働いている人からしても、オーバーワークになるのだろう。


そんな私達の心配をよそに、クレマンは作業場に続く扉に向かった。


「では早速、採寸させていただきます。狭いところで申し訳ありませんが、こちらの作業場で採寸させていただきます」


しまった、こちらに来る。

私と男は慌てて、扉の前から離れようとしたが、一足遅かった。


扉を開けたクレマンと私は目が合ってしまう。

少し驚いた後、クレマンは優しい表情をして、小声で囁いた。


「悪い、あっちの休憩室で待っててくれ」


そう言った後、クレマンは男に目で合図をし、私を案内するよう促した。

男は頷き、私を急ぎ足で休憩室に案内しようとした。


「レティシア様?」


振り向くとそこには花が咲いたように満面な笑みを浮かべたフローラが立っていた。


私が固まっているうちに、フローラはどんどん私との距離を縮めていく。


「私、レティシア様にずっとお会いしたかったんです…」


フローラは白魚のような華奢な手で、私の手を掴む。あまりの急展開に、手汗が伝わらないといいな、なんてどうでもいいことを考えてしまう。


「初めまして、レティシア・アングラードです。お褒めに預かり、光栄ですわ…お名前をお伺いしても?」


まあ、私は名前を知っているのだが。

フローラは慌てて自己紹介をした。


「ご紹介遅れました。フローラ・ローレンスです。そうだわ、是非レティシア様に採寸してもらいたいですわ」


何て無茶振りをするんだ、このヒロインは。

前世の学生時代に、家庭科でワンピースを作ったくらいしかないぞ、私。

私は、ヒロインの手を離して、眉を下げて、申し訳なさそうに告げる。


「はい…と言いたいところですが、私はあくまでアンジェ・テイラーの経営に関わっているだけであって、恥ずかしながら技術的な面は全然です。私の勝手な行動でアンジェ・テイラーの評価を落とすわけにはいきませんので、それはお受けすることができません…」


そう告げるとフローラは残念そうに、そうですか、と呟いた。


「では、デザイン案を考えていただけませんか?私に似合う服を見定めてほしいんです」


フローラはどれだけドレス制作に、私を携わらせたいのだろう。

返答に迷うと、クレマンが助け舟を出した。


「そうしましたら、デザイン案を作成する際、彼女の意見も取り入れることにします。レティシア様もそれで宜しいでしょうか?」


不意に話題を振られ、私は咄嗟に頷いた。

クレマンは心なしか申し訳なさそうにする。


「フローラ、あまり皆さんを困らせるな。ただでさえ急なお願いを受けていただいたんだ」


リシャールがフローラを諌めると、フローラはハッとした表情をして、申し訳なさそうにした。


「ワガママを言ってごめんなさい。憧れのブランドにオーダーメイドでドレスを作ってもらえることに興奮してしまって…」


そう言うフローラに、クレマンはカーテンで区切られた試着室に促す。


「そう言っていただけて、私達としても作り甲斐があります。只今、女性スタッフを呼んできますので、こちらの試着室でお待ちください」


休憩室で待っていると、少し疲れた様子のクレマンが顔を出した。


「クレマン、大丈夫?」


私がそう尋ねると、クレマンは頷く。


「俺は大丈夫だ。レティシア、迎えがきた。バタバタして、ちゃんと見送りが出来なくてすまない」


いつの間にクレマンは迎えを呼んだのだろうか。両親と喧嘩している状態で、すぐに帰るのも気まずかったが、ここで駄々をこねてもクレマンの迷惑になるだけだ。私は頷いた。


すると、クレマンは私の頭を撫でた。


「リシャール様とフローラ様の服は、ある程度工程が終わったら、グルナ国にいる知り合いの工房で行う。レティシアからも、意見を是非聞かせてくれ」


「ええ、勿論。私で良ければいつでも手伝うわ」


「ありがとう。もし、この注文が成功すれば、ブランドの名前も大きく広まるだろう。レティシアの御両親も俺との結婚を考えてくれるかもしれない」


そこまで、私のことを考えてくれるクレマンに感動しながら、私は無理しないでね、と言い残し、クレマンと別れた。


1週間後。

私はクレマンが滞在するグルナ国のとある工房に向かった。


最初はクレマンが私の家に来てくれると言ったのだが、両親と揉めたら、作業の邪魔になるかもしれない、と思った私は、申し出を断り、クレマンのところに向かうことにしたのだ。


クレマンの知人に案内され、作業場を覗くと、そこには、いつも以上に作業に集中しているクレマンがいた。


…プロの顔だ。

私は思わず、立ち止まってしまう。

なんだか、どんどん成長していくクレマンと未だに変わらない私の距離がどんどん離れているような気がして、私は少し怖くなった。


いや、違う。

クレマンは、この注文が私の両親に認めてもらえるかもしれない、と言っていた。

仕事も一生懸命で、私のことも大切にしてくれるクレマンになんて事を考えているんだ、私は。


今日は、少しでもクレマンの役に立てるように頑張らなければ。

私は気合を引き締め、邪魔にならないようにこっそりと作業場に入り、机に置いてあったデッサン案に目を通した。


これは、フローラ用のドレスか。

デザイン案の殆どは、赤を基調としたドレスが多かった。グルナ国のナショナルカラーだからだろう。


でも、この赤だとフローラの肌に合わないのではないだろうか。ナショナルカラーとは、少し違ってしまうが、もう少しピンクがかった物もいいかもしれない。


私はそんなことを考えながら、隣のデザイン案にも目を通した。

こちらは、リシャール用か。


黒のタキシードに、ガーネットの石が嵌め込まれたカフス。赤いハンカチーフと合っていてとても良い。リシャールは、よく黒いジャケットを着ているからイメージにも合う。

でも、今回は特別な日に着るものだ。

白だと結婚式みたいになってしまうから、グレーなど新鮮で良いかもしれない。

もし、ドレスをピンクがかった物にするなら、そちらの方が釣り合いが取れるだろう。


釣り合いといえば、グルナ国の国花である薔薇を遇らうのも良いかもしれない。


デザイン案を見ながら、熟考していると、不意に後ろから抱き締められた。クレマンだ。

すっかり集中しきっていた私は思わず情けない声を上げてしまった。


「流石、俺の見初めた人だ。デザイン案見て考えてくれてたんだ。どう?俺の案」


私はドキドキしながら、先程考えていた案をクレマンに告げる。


クレマンは私の案を聞くと、少し考えた後、慣れた手つきで、デザイン案を描く。


数分後、クレマンが見せたデザイン案は、私のイメージそのものだった。


「よし、これで行ってみよう」


クレマンはデザイン案に近い色の布を取り、製作を再開する。


「私のアイデアで良いの?」


そう告げると、クレマンは自信満々に頷く。


「良くないと思えば、良くないって言うよ。この案はプロの目から見ても、良いと思ったから採用したんだ」


ありがとうな、と告げるクレマンの笑顔に思わずドキッとしてしまう。

本当にこの人には敵わない。


ふと、作業に集中しているクレマンの側に、無造作に置かれたドライフルーツの存在に気がついた。


まさか、それしか食べてないのだろうか。

手持ち無沙汰だった私は、クレマンのために、軽食を作ることにした。


工房の人に許可をもらい、私はキッチンに入り、冷蔵庫を覗き、考えた。


大事な服を作る場だ。

中身の溢れにくいカルツォーネにして、具もトマトベースではなく、バジルとハム、チーズにしよう。油を切って、服につかないように工夫して…


メニューを決めた私は、調理に取り掛かった。


料理を作るのは前世ぶりだ。

よく、餃子の皮を使って、カルツォーネ風とか言って、幼馴染と一緒に酒を飲むときに、つまみとして作ったな。


…あれ、そういえば私には幼馴染が居たんだ。


不意に懐かしい思い出が蘇りそうになり、首を振る。今は料理に集中しよう。


15年以上ぶりの料理なのだ。

腕が鈍ってないといいのだけれど。

クレマンに美味しいと言ってもらえるようなクオリティにしたい。


そして、2時間後。

無事、カルツォーネは完成した。

オーブンで焼いて、ちゃんと加熱したし、味も良かったから、クレマンに、ちゃんと出せれるクオリティだ。


包み紙に来るんで、私はトレイに載せて作業場に戻る。


「クレマン、ある程度目処が立ったら、これ食べて」


私がそう言って、カルツォーネを差し出すと、クレマンは少し驚いたような顔をした。


「レティシアが作ったのか?これ」


確かに普通の伯爵令嬢は自分で料理などしないだろう。


「ええ、料理経験はあるの。味見もしたし、味は保証するわ」


前世でだけどね。

クレマンは作業をやめ、包みを開けて、カルツォーネを口にする。


「うまい…」


私はクレマンの言葉にホッとする。


「良かった。付け合わせにピクルスもあるから、食べてね」


そう言うとクレマンは嬉しそうに笑う。


「なんだかいいな、こういうの。夫婦みたいだ」


私は思わず顔を赤らめてしまう。

そんな私を見て、クレマンは無邪気に笑うのだった。


そして、あっという間に時間は流れ、今日は約束の最終確認の日だ。

私とクレマンは、グルナ国の王宮に来ていた。


クレマンも緊張しているようで、いつもの軽口がなかった。


「クレマン、大丈夫よ。クレマンの作った服とても素敵だったもの」


私は笑顔でクレマンを励ます。

そう告げると、クレマンも笑顔で頷いた。


応接間に通された私達を迎えたのはリシャールとフローラだった。



「御足労ありがとう。早速見せてもらおうか」


「私、この日をずっと心待ちにしていたんです」


「はい、早速、着ていただきましょう」


クレマンは、王宮のメイド達に指示を出し、リシャールとフローラを別室に連れて行き、試着をすることになった。


クレマンはリシャールの試着に、私はフローラの試着を見守ることにした。


私は、遠巻きにフローラが着飾れるのを眺めた。

やはり、ローズピンクのドレスはフローラの肌に合って、良く映えている。


着替えが終わり、鏡を見たフローラは、少し驚いた顔をした。


「へぇ…案外やるじゃない」


フローラは、ぼそっと何かを呟いた。

何か原作のヒロインらしくない表情をしていた気がするが、気のせいだろうか。


着替えが終わり、リシャールとフローラは互いの姿を見て、嬉しそうに微笑んでいた。


「良いデザインだ。パーティで、貴方のブランドを宣伝させていただこう。これからもよろしく頼む」


リシャールの言葉に、クレマンは恭しくお辞儀をした。


クレマンの努力が報われた。

私も自分のことのように嬉しくなる。


暫くして、リシャールとフローラは、パーティの打ち合わせで、退席した。

私達はというと、ティールームでお茶をいただいてから、帰ることになった。


「良かった。クレマン、おめでとう」


「レティシアのおかげだよ。ありがとう」


私は、大したことをしていない。

全てはクレマンが頑張ったからだ。


私達がゆっくりとお茶を楽しんでいると、ティールームの扉が開いた。


目を向けるとそこには、クリストファーが居た。


「クリストファー…」


私は思わずクリストファーの名前を呼んでいた。

ハッとして、クレマンの顔を見ると、珍しく冷酷な表情でクリストファーを見つめていた。


「警戒しなくていいですよ。挨拶をしにきただけですから…」


「わざわざ、ありがとうございます」


クリストファーの言葉に、クレマンは少々棘のある言葉で返した。いつも余裕たっぷりのクレマンらしくない気がする。


「クレマン様、レティシア様、お久しぶりです。ご機嫌いかがですか?」


レティシア様、なんて言われたのいつぶりだろう。私は変な違和感を覚えてしまう。


クレマンはというと、数分前までは、良かったです、という本音を吐いた。


この2人は相変わらず犬猿の仲だ。

2人がかち合うといつも険悪なムードになる。


クレマンの言葉に短く返したクリストファーは、私に改めて近況を聞いてきた。


クリストファーの表情は何かを期待するような顔で、私は心がざわめいた。


このまま、うやむやにしてはいけない。

ちゃんと、はっきり伝えなきゃ。


「お陰様で、毎日楽しいですよ。たまに辛いこともあるけれど、クレマン様が支えてくださるので」


「……そう、です、か」


クリストファーはそう言うと、失礼しました、と足早に去った。


緊張していたのか、クリストファーが扉を閉めたと同時に、私は思い切り溜息を吐いた。


ふと、視線に気がつき、視線の先を見ると、ニヤニヤと笑みを浮かべたクレマンが私を見ていた。


「元婚約者に向けて、言うねえ」


「…事実を言ったまでよ。今の私はクレマンと一緒に過ごせて昔以上に幸せだもの」


初めは、クリストファーを忘れる為、交際を始めた。でも今は違う。

私は心からクレマンを愛している。


私の言葉に、クレマンは心から嬉しそうな表情をした。


馬車の迎えが来て、2人で乗り込むと、クレマンは緊張の糸が切れたのか、すぐに眠ってしまった。


私の肩に寄りかかって寝息を立て始めたクレマンの額に、私はそっとキスをした。


「お疲れ様、クレマン」


まだ、私達が添い遂げていくには沢山の課題がある。


それでも、私はこの人と一緒に人生を歩んでいくことを選んだのだ。


どんな困難もきっとクレマンとなら、乗り越えていけるはず。


私は肩から伝わるクレマンの温もりを感じながら、そう思ったのだった。


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