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第六十四話 裏切り

 

 勝負後、匠は運ばれて、初期メンバーが中央に集まる。


「流石に勝てませんでしたか」

「まぁ、結局は六年間の差って言うのが大きいかもね」


 破吹はこの結果になる事は分かっていた。

 幾ら、同じ学年だろうとその差は六年の差がある。

 それを超えるにはフェアベルゲンの能力だけ。


 今回、一戦……二年生の勝負だけは能力で負けた。

 それでも打破する方法はあった。

 ただ、それが何回も出来る訳では無かっただけだ。


「それでも勝負を仕掛けたんですか?」

「可能性としては二、三割くらいだったですがね」


 可能性があるならばやるべきではないかと自分の方針が正しいと証明したかったのが、破吹が勝負を仕掛けた理由。


「結果として、そちらはどうするんだ?」


 破吹が聞いているのは暗殺庁とモイヒェルメルダー学園をどうするかという事だ。

 現状維持か変えるかは須美や須美側の初期メンバーが決める事。


「それは今から相談しましょう。もしかしたら、いい案があるかもしれないからね」

「つまりは儂らもか?」

「はい、やっぱりはぶるのは良くないからね。その点で言えば生徒や教師にも意見して貰った方がいいのかな」


 今から決めるのは暗殺庁のモイヒェルメルダー学園の事だ。

 それを負けたからと言ってはぶるのはよくないし、現在も入学中の身の生徒やその生徒を教える教師もはぶるのはおかしい。

 そもそも、三本勝負をしたのは生徒だ。

 だから、関係する者は全員参加すべきだろう。


「そんなんでいいのか?」

「何を今更、禍丸も納得してたんでしょう?」


 二人の会話に割り込むのは破吹側の初期メンバーで、マントにフードを目深かに被る見た目で異様に感じる格好をした男性だった。

 彼の名は蔵馬(くらま)禍丸(かまる)


「いや、もうちょっと破吹が頑張るだろうと思っていただけどなぁ」

「儂は決め事には誠実ですよ。負けたのなら、それで終わりなのです」

「我はガッカリだよ」

「何を言っているのかな?」

「クッククク、アッハハハハ」

「どうしたのですか?」


 禍丸が突然笑い出した。


「もうこんな場所は不要です。破壊します」

「本当に何を言っているのかな?」

「命令です。『破吹、暗殺庁と学園を破壊しろ』」


 と、禍丸が言った途端に破吹が苦しみ出す。


「儂に何を?」

「洗脳ですよ。洗脳」

「いつ?儂に?」


 命令されながらも破吹は禍丸に問い出す。


「いつだったかなぁ。一度貴方に『強化』を使おうかと言った事があったでしょう?」

「た、確かに」

「実は言うとあれは『強化』ではありません」

「し、しかし、ちゃんと強化されていた」

「いえ、そもそも『強化』はフェアベルゲンではありません」

「な、何ですと?」

「『強化』自体はフェアベルゲンの中の能力でしかありません」

「つ、つまり、君のフェアベルゲンとは?」

「『進化』ですよ。我は『洗脳』と『進化』のフェアベルゲンを持っています」


 それを聞いて、破吹を含め、初期メンバーが驚いている。

 実は禍丸が初期メンバーに言っていたのは『洗脳』と『強化』だった。


「でも、それと『洗脳』は関係無いではないか」

「いえ、それが関係あるんですよ」


 ・『洗脳』

 自分よりも実力が弱い者は強制的に、それ以外は相手が許可したしたら洗脳が出来る。洗脳された者は洗脳をかけた者の命令を聞かないといけない。


 ・『進化』

 これは洗脳された者でしか使う事は出来ない。条件は洗脳されている者と『進化』を許可した者だ。後者は許可した場合、強制的に洗脳される。『進化』の下位として『強化』があるが、そちらは洗脳しなくても使う事は可能。


 基本的に『進化』は『洗脳』が無いと発動しないという事だ。


 破吹は『強化』だと思ったが、実際は『進化』で勝手に洗脳されてしまった。


「でも、これしき破ってやりますよ」

「残念、『洗脳』は術者しか破棄できません。まぁ、もしかしたら出来るかもしれませんが、貴方には出来ません。一応耐えているようですが、時期に耐える事は出来なくなるでしょう」

「な、舐めて貰っては困ります」

「いえ、無理です。早くフェアベルゲンを発動しなさい」


 破吹の口が勝手に動き出そうとする。


「みんな止めましょう」


 須美の指示の下、初期メンバーが行動に移す。


「いいでしょう、かかって来なさい。貴方達の相手はこの子達ですよ」

「な、何!?」


 禍丸の前には(破吹側の)学園の生徒と教師は並んでいた。


「貴様、もしかしてその子達まで『洗脳』を」

「はい、そうですよ。初期メンバーには効きませんが、此処にいる子達は効くんですよね」

「クソだな」


 須美達も流石に攻撃出来ない。


「おぉ、発動したみたいですよ」


 破吹の体が大きくなる。

 体長五メートルの赤竜。

 これは破吹のフェアベルゲンの一つ『竜化』だ。


 ・『竜化』

 体を竜に変え、竜の能力を得る。初めは比較的単純な赤竜から成れる。しかし、火力からしたら赤竜が一番強い。


「破壊してしまえぇぇぇ」


 禍丸は高らかに叫ぶ。


「スゥー、ガァァァァァ」


 竜化した破吹は息を吸い、火を吐いた。

 その直線上にあるモノを全て焼き払う。


「やれー、やれー」


 禍丸は盛大に叫ぶ。


「封士、破吹を止めるの手伝って」

「分かった」

「霧麻はあの人を呼んで」

「了解」

「それ以外は禍丸を警戒して」

「「「「「了解」」」」」


 須美は封士を共に破吹を止める事、霧麻に誰か呼んでくる事、それ以外の初期メンバーには禍丸を警戒または倒していいという事を指示する。


「進化した破吹を貴方達は止める事が出来るでしょうか」

「出来る出来ないじゃない。やるしかないんです」


 そう話している間も破吹は次の行動に移っていた。


『破乱流星弾』


 竜の口が上に向け、開いた。

 その瞬間、その上に幾何学模様……魔法陣が描かれた。


 その能力は『竜化』では無い。

 二つ目のフェアベルゲンで『賢者』を破吹は持っていた。


 ・『賢者』

 あらゆる魔法を取得し、研究する事で新たな固有魔法を作る事も可能。


発動しようとしている『破乱流星弾』は『竜化』の火炎と『賢者』の固有魔法で作られた竜魔法だ。


「急ぎます」

「私を補助を」


 流石のこれは危険と思い、須美は急ぐ。


『時短』

『空間切除』


 瞬間、須美が破吹の近くにいた。


 須美のフェアベルゲンは『時間』と『空間』。

 合わせて『時空』と呼んだりもしている。


 それで使った能力は……。


 ・『時短』

 対象を選択してそのモノの時間を早める。


 ・『空間切除』

 空間を切除する事でその間を飛ばす。切除した空間は勝手に元に戻る。


 簡単に言えば、『時短』はそのモノを速度を上げる、『空間切除』は物理的距離を無くしたという事だ。


 須美は破吹を対象にし、発動した。


『時間減速』


 ・『時間減速』

 対象の時間を遅くする。


 破吹が発動しようとしていた『破乱流星弾』が徐々に大きくなっていたが、『時間減速』により発動を遅らせる。


「封士!」


『防壁拘束陣』


 封士のフェアベルゲンは『防御』と『拘束』となる。

 その二つを持つ封士は圧倒的な防御力を発揮する。


 ・『防御』

 自分から複数人、物に防御力を上げる。結界も作る事も可能。味方が受けた攻撃を代わりに受ける事も可能。


 ・『拘束』

 基本的に相手や物を鎖で縛る能力。能力自体は縛る、収縮、押し潰しなどがある。使う物は鎖だけという訳ではない。


 前者は防御力を上げるまたは攻撃を受ける能力で、後者は攻守可能な能力。

 それでも封士が使うのは防御よりにしている。


 そして、『防壁拘束陣』というと……。


 ・『防壁拘束陣』

 対象の周りに防壁……結界を作り、内外においてもそれは壁になる。その後、その結界が収縮し始め、対象の動き止める能力。


 破吹の周りに結界が張られ、徐々に小さくなっていく。

 破吹の尻尾が股下に、翼が閉じる。


 結界により、破吹が立てなくなる。

 発動させていた『破乱流星弾』は消える事は無いが、破吹と共に中央に移動し始める。


「このまま拘束してしまえ」


 須美は『時間減速』で『破乱流星弾』を遅らせ、封士は『防壁拘束陣』で破吹の拘束する。




 しかし、そう上手くはいかない。


「そう簡単にやらせない。命令です。『早くそれ全てを破って破壊を始めろ』」

「ガァァァァァ」


 禍丸の命令により、破吹が吠える。


「どうなっている」

「押されている」


 須美も封士も能力の維持が出来なくなってくる。


 そして、先に『時間減速』が破られ、『破乱流星弾』が発動する。

 火の玉が三メートル程になった『破乱流星弾』が放たれ、『防壁拘束陣』にぶつかる。


 ジーという音と火花がするが、すぐにパリンと『防壁拘束陣』が破れる。


 放たれた『破乱流星弾』は上空に行くと、途中で全方位に小さい火の玉として落ちていった。


「此処も終わりだー」


 また、禍丸が大声で叫んだ。


 初期メンバーや須美側だった生徒と教師はその光景を見ない様に顔を背ける。





 しかし、そこに指のパチンという音と共にその『破乱流星弾』は消えた。


「争いをやめ給え」


 その声は空から聞こえた。

 しかし、空には誰もいない。


「やめないのであれば私が止めよう」


 今度は別方向から聞こえた。

 そこはアリーナに入る東側の入り口からだった。

 そこには金髪のふくらはぎ程まで伸びた声からするに男性だろう。


「貴様、何者だ!」

「私は神に仕える天使です」


 禍丸は問いたが、彼は天使と答えた。

 その証拠に彼の背中に白い翼が生えていた。


突然、天使と名乗る者は本当に天使なのだろうか。

または『天使』というフェアベルゲンだろうか。


一話にして初期メンバーの三人のフェアベルゲンを書きましたが、その能力は絶対に強い訳ではありません。

ですが、初期メンバーの中ではトップクラスです。

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