第六十一話 二年生の勝負 後編
李音は再び姿を消した。
でも、それは先程のとは違っていない
「よ、読めない」
夕実は李音の気配を読めなかった。
「どう?気配が読めないでしょう?」
李音が消したのは存在だ。
そこに居るはずなのに存在しない。
存在しないなら気配を読むという事は出来ない。
その能力は……。
『無存』
存在を無くすというだけの能力。
ただそれだけの能力だけどそれを対応出来る者は少ない。
「つまり、私のフェアベルゲンは意味が無いと?」
「まぁ、そうでしょうね」
夕実の『認識』は主に『認識阻害』と『認識拡大』になるのだが、前者は李音には効かなくて後者は『認識察知』も含まれるが、それは存在していなければ意味が無い能力だ。
ただ、夕実を指導した霧麻はこう言っていた。
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「貴女の場合は気配を読むだけでは無いと思います。気配を探る事も大事です。なら、探るにはどうしますか?」
「相手を崩すという事ですか?」
「そうです。必ずしも気配を消す事はフェアベルゲン無しでも可能です。しかし、それには音、姿、気配、そして存在を消す必要があり、それには私でも難しい事です」
相手に認識されない為には最終的に存在すら消す必要もある。
でも、逆にちょっとでも崩せばバレる。
「つまりはどうにかして相手を崩し、存在を表せばいいのです」
それは夕実がフェルベルゲンが効かなくなった時の対処法だった。
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夕実は李音を警戒し、籠手と靴を防御モードに変える。
籠手と靴がシャキンと鳴り、籠手は手首から、靴は足首からシャーと音鳴らしながら籠手は肩まで、靴は又近くまで金属の板が一枚一枚展開されていく。
そして、またシャキンと鳴り、防御モードになった。
「そこに何の意味があるんですか?」
李音の声が全方位から聞こえてくるが、その疑問は正しい。
防御モードと言っても頭と胴体は守れない。
本当は籠手と靴をセット武器にして、二つが防御モードになった時、頭と胴体を守る全身鎧にしたかったが、そこまでは太助には難しく、せめて攻撃に使う腕と足を守るだけでもという事で防御モードがある。
でも、守れないのは確実だ。
「じゃあ、容赦なくやらせて貰うかな」
突然、夕実の横腹に痛みを感じる。
「くっ」
「どうしたの?もう終わり?」
李音は煽る。
「まだ、私は終わっていない」
夕実はその見た目と性格とは違って、大声で「はぁーーー」と出した。
「貴女しては珍しいね。狂ったんですかぁ?」
李音はそう言いながら夕実は攻撃を加えていく。
しかし、夕実はその声が気合とばかりに我慢する。
そして……。
「籠手、攻撃モード」
夕実の声に反応し、籠手がまたシャキンと鳴り、シャーと言って、再びシャキンと鳴って拳型の攻撃モードに戻る。
『認識振動』
夕実は右拳を地面に殴る。
すると、地面は割れ、殴った時の衝撃波が広がる。
「あっ、ヤバ!」
その時、夕実の『認識拡大』に反応する。
夕実は反応した方向に走り、殴った。
「ぐはっ」
その声と共に壁が崩れた。
「これが私がこの一週間で生み出した必殺技です」
夕実が霧麻の指導で生み出された『認識振動』はそこに居る相手に『認識拡大』が反応しなかった時に使われる必殺技。
しかし、それを使うには『振動』、つまりは相手を崩す衝撃波を生み出さなければならない。
そこで夕実は気合というか普段の夕実ではやらない大声を出し、力を貯めた後に放っている。
「ど、どうして?」
姿を現した李音が瓦礫が出てくる。
「貴女が存在を消すにはまだ難しいと思われます。ただそれでも私は貴女に勝てない様だ」
李音の『無存』はまだ発展途上だ。
ただ、発動しただけでは完璧に存在を消すのは難しい。
実際に李音は読まれない様に小さく動いた。その一つ一つに気を使いながらである。
それでも、夕実には有効化だった。
そもそも『認識振動』はそう何回も出来るものでは無い。
それをやるには少しの時間がいるし、妨害されれば終わり。
つまりはこの攻撃は勝利への一撃だったのだ。
「そ、そう、なら私の勝ちね」
「いえ、最後まで足掻いて見せます」
李音はフラフラしながらも立ち上がり、再び『無存』を使い、姿を消した。
対して夕実は籠手を防御モードにし、可能な限り防御しながら再び声を上げた。
しかし、それはそう長く続かなかった。
李音が夕実に回し蹴りを食らわせ、止める。
そして、うつ伏せに倒れた夕実に『無存』を解き姿を現した李音が夕実を抑え、短剣を首に近づいていた。
「そこまで。勝者、牟羅李音」
夕実は李音に対して初めて敗北した。
三本勝負で三年生が勝ってしまったら、二年生を負ける必要があったので、どの様に負けたらいいのか迷いました。
次話はこの勝負の決め手になる一年生の勝負で、相手の(ほぼ決まっている)匠との勝負。
匠にとって小雨には絶対に勝ちたい勝負だろう。




