第八十七話 来栖と華花実の修行(一)
深い森の中、拓流の『転移』でやってきたのは来栖と華花実。
何故この二人になったのかというと、別に希望とかではない。
何故ならこれは事前に決められており、希望しても意味がないから。
ならどうしてか。
それには二人の現状を知る必要がある。
来栖は戦闘における判断力や分析力はあるが、戦闘力がある訳ではなく、未だに気配察知はできていない。
華花実は少し前向きになってきたが、それでも精神力は低い。さらには一人でも対処できないから。
それをあえてペアにして試練を与えた。
これを超えてこそ成長できると。
「ここに誰かいるということですか」
二人は森の中を歩く。
「ようこそ私の森へ」
木の上に女性が現れる。
「私は宇沙尾一矢と申します。貴方達に試練を与える『解放者』の者です。試練が達成したかどうかはこちらの判断となります。貴方達の情報も詳しく聞いています。その上で判断する予定です」
その者は歴史上では弓の名手と言われ、屋島の戦いにおいて敵軍の挑発で船に付けられた扇の的を射落とせと言われ、それを見事に射抜いた功績を持つ。
今回における彼女の役目は二人の力を見出すこと。
そのため、『解放者』の者達は目的は違えど相手になった者の情報を事前に聞いていた。
「質問など受け取りません。もししたいのならば終わった後でして下さい。では始めます」
そう言い、バックステップで周りに漂う霧に消える。
「後ろにいて下さい」
来栖は守るように警戒する。
すると、矢が飛んでくる。
来栖はすぐに槍を構える。
対処にかかる。
「遅い」
「くっ!」
来栖は槍で振り落としにかかったが、速くて肩に刺さる。
「大丈夫です」
華花実は心配するが、来栖は大丈夫と応える。
(しかし、ダメですね。確率がほぼ10%以下。探るのは難しい)
何故、来栖が気配察知ができないのか。
それは前に三ツ葉先生が指摘したように華花実を気にしながら戦闘を行なっているからというのもある。
でも、それだけではなく、気配察知を『確率』で補っていたから。
確かに補うことはできるが、気配察知というのは直感みたいなもの。
そのため、対応するのも速く行動することが可能。
しかし、『確率』は確率化された中から判断し、対応する。
だから、対応も遅れる。
華花実は密かに来栖の心の声を聞いていた。
(私が不甲斐ないから…。でも私に何ができるの?戦闘に使えないサポート能力だから)
華花実は何も変わっていない。
限界を決めているから。
「貴方達は一人で行動することをしないのですか?助ける行為を否定することをしません。でもそれは正しくない」
森から聞こえる声。
もちろん一矢の声だ。
「成長するのに助言することは正しくありませんが、貴方達は必要なようです」
(二人もいるのに全く強くない。これでは普通の人にも負けてしまう。それに勘違いしていますね)
一矢の心の声を華花実が拾う。
(勘違い?)
華花実は自分が弱いことは分かる。
来栖のことは自分が妨げになっていることは理解してる。
だけど、かろうじて弱いとは思っていなかった。
そして最後の言葉である「勘違い」が分からなかった。
攻撃は続く。
「サポート能力が弱いという印象が強いようですね。でもサポート能力は熟練度の対象外となるのです。それは何故か。それは数値化されないからです」
戦闘型の能力というのは身体能力に応じて使う。
そして身体能力は数値化が可能。
対してサポート型の能力は身体能力を応じることない。
「ですが、『確率』はそのものが数値化している。だから下がってしまう」
だが、来栖のはそもそも数値化するもの。
来栖の能力で勝つのは難しい。
「言っておきます。来栖さんは能力に頼らず、華花実さんは能力に頼って下さい」
一矢の助言は来栖が能力なしで、華花実は能力を使ってと言った。
確かに来栖は能力を頼るのは難しい。
でも身体能力を頼るのも難しい。
何故なら能力で上がっているとはいえ、戦闘型とは程遠い。
「あまり時間はかけられませんが、一、二日でできるものではありません。貴方達が変わらない限り私は攻撃しかしません」
実際に言葉を発することはあっても攻撃は…ただ矢を飛ばしているだけ。
結局その日には何も変わらなかった。
夜、焚き火を囲むように三人が座る。
「私達に時間を使っていいんですか?」
来栖が一矢に質問する。
「心配?」
「いえ、私達のために時間の無駄ですし、切り捨てるものでは?」
「忘れたの?『解放者』は救いをすると。無抵抗ていうのはよくありません。それに色々な準備については上の者がやっています」
最後に声を落とす。
「あと心配なのは第二次世界大戦時の能力者達は怪しい」
「第二次世界大戦時ということはほとんどの者が各国のトップクラスの人達、モイヒェルメルダー学園だと初期メンバー…そう言えばある本に『母の元に』と『解放者』が1900年代中頃に戦っていたと書かれていましたが…」
「あれ?そんなことあったかな?」
(『解放者』の人が知らないってことは嘘ってことでしょうか?)
どうやら、戦争というのはなく、来栖は初期メンバーの方が正しいのだと思った。
「それで怪しいってどういうことでしょうか?」
「私達『解放者』は第二次世界大戦時にも活動していた訳だけど、残念ながらその後は活動をしてなかったのね。その後、各国が能力者の学校を作りました」
「でも他の国には学校はあったとお聞きしましたが?」
「それはあるよ。小さい学校はね。日本だって小規模だけど存在した。その複数の学校を戦後に統合したかのように小さい学校はなくなり、一つもしくは二つとなった」
「戦後は改革とか多かったじゃないですか?」
「うん、こちらとしてもそう判断したい。その人達があちら側ではないことをこちら側は祈っている」
ただでさえ、数が多い『母の元に』は増えれば増えるほど強大となる。
逆に『解放者』は質で勝負してきた。
しかし、質が良くなっても全員が全員勝てる訳ではない。
さらには今の子供達が勝てる相手ではない。
そのため、ただただ犠牲者が増えてしまう。
守りたくても守るための戦力がいない。
だから、今のうちに教えている。
可能な限り戦えるように。
「それで傷の方は大丈夫?」
「はい。塗り薬が効いているようです」
「それはよかった」
今日矢に刺さってできた傷は一矢が塗った塗り薬で少しずつ治っていた。
「明日には元に戻るはずです。治るのを待っている暇はありません」
「はい」
「貴女もよ」
「はい…」
わざわざ修行をさせていると言っても、いつ『母の元に』が来るかは分からない。
怪我もすぐに治るようにしなければならなかった。
「最低でも一週間は限度。それ以降になれば見捨てることになるかもしれません」
特に時間の指定はないが、何かを見つけるのに一週間は必要としない。
何も変わらなければそれで終わってしまう。
さらにそう言っておけば「急がないと」という思いになり、引き出す原料となるだろう。
「それでは私は先に寝るよ」
「はい。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
一矢は立ち上がり、少し離れたところで横になって眠りについた。
「華花実、明日から庇えないかもしれませんが、いいですか?」
来栖は華花実に向き、それを言った。
(守らないととは思いますが、自分も華花実もやられてしまう。いつまでも守っていてもどちらのためにもならない。しかし…)
来栖は葛藤していた。
だけど、そう結論するしかなかった。
(私が来栖の枷になってる。私が何も変わらないからだ。アメリカにいた時に変わろうとし始めたけど、結局何か変わったようには思えないよ)
華花実は来栖が葛藤していることをずっと聞いていた。
そして自分が来栖の負担になっていることも気付いていた。
だけど逃げていた。
甘えていた。
(だって来栖は私の光だから)
来栖が華花実に後ろから手を引いてくれているような感覚をいつも感じていた。
それを応えるのに前に出て握り返すしかない。
「分かった…」
「すみません」
華花実は了承した。
来栖は謝るが、華花実は首を振って否定。
しかし、結局二人が一、二日で何か変わることはなかった。
前回から第五章が始まりました。
今回出た宇沙尾一矢は説明したように那須与一のこと。
当初名前だけだったのですが、どうも歴史上人物って男性が多く出してしまっているようでしたので、まぁ、何人かは女性してもいいと思ったからです。
サポート能力が熟練度の対象外というのはそもそも熟練度の壁は以前に書いたように耐性…下げることになります。
でも、サポート能力は上下というのはありません。
まぁ、効き目というのはあるかもしれませんが、そういうのは無しにしようかなと思います。
あまり効かないと何やっても無理ですからね。
因みにサポート能力と言ってますが、対象外になるのは「数値化されない能力」なので戦闘向き(戦闘型とは限らない)の能力も含まれます。
次話は来栖と華花実の修行二話目。
二人からすると不利な遠距離タイプ。
察知するのに遅れれば矢が刺さってしまう。
気配察知が未熟な二人がどう挑むのか。
そして二人の能力に限界があるのか。
最後に今話は前話の二日後ですが、できるだけ三日後になると思って下さい。




