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次の標的

「上手くいったみたいだな。俺の計画通りだ。ハハハ」

 不気味に笑いながら、独り呟くのは紫弦(しづる)だ。紫弦はパソコン画面を見つめていた。そこには『大神(おおがみ) (るい)関係者 鳴海(なるみ)湊人(みなと) ×』の文字が映っていた。その下には紫弦にしか分からない暗号のような文字列が並んでいた。

 不意に画面が切り替わった。ある人物の名前が映し出される。その人物が誰なのかは紫弦にしか分からない。

「次はコイツに決まりだな。今度こそ、始末してやる。待ってろ、玲央(れお)

 再び呟くと、嘲笑った。

 暫く考えるように止まっていたが、なにを思ったのか不意に椅子から腰を上げて立ち上がった。

 今、紫弦が居るのは隠れ家。その隠れ家の扉に足を向けて、外に出て行ってしまった。いったい、どこに行くのだろうか。

 そして、次は何を企んでいるのだろうか。


 紫弦の行動に気付く者が居るとも知らずに。


   ***


 事務所内にて。

「紫弦の思惑通りってことか」

 静まり返っている事務所にふと呟く声。その声の主は玲央だ。事務所内は玲央の声だけが響き渡るように聞こえたが、そこには(すい)も居た。

 翠はパソコン画面を見ながら、複数の文字を打ち込んでいる。淡々と文字を打ち込んでいるようにも見えるが、表情はどこか難しい顔をしていた。それは涙のことがあったからでもあるが、それだけではない様子だった。


「なあ、この先何が起きるか分からねえ。(ウル)ちゃんにはもう、」

 玲央は翠に問いかけたが、翠が聞いていない事を察したのか、最後まで言うのをやめた。そして、椅子から腰を上げて立ち上がる玲央。そして、翠の元へ。目の前まで来ると、玲央は口を開いた。

「なあ、翠」

 大きめな声で呼びかける。しかし、翠は気付かない。


「え?」

 数分後、ようやく玲央に気付いた翠は目の前に現れた玲央の姿に一瞬目を丸くした。

「紫弦は残虐なやり方をする。このままじゃ鍵となる(るい)ちゃんを頼りにしなきゃならない」

 翠は驚きの様子から一変し、冷静に話す。

"残虐"という言葉は玲央も思っていたのだが、翠はどうやら玲央と真逆の考えのようだ。

「分かっていたとはいえ、(ウル)ちゃんを俺たちと同じ立場にさせてしまったんだぞ。寧ろ、俺たちより酷い。この先、涙ちゃんにとって立ち直れさせなくしたら、関わらせた俺たちの責任だぞ。もしかしたら、湊人さんの事で既に立ち直れなくなってるかもしれないんだぞ」

 翠の言葉に玲央は長々と言葉を発した。


 玲央の言うとおり、あれから(るい)はここ、事務所『ビクターライフ』に顔を出していなかった。もしかしたら、立ち直れなくなっているのかもしれない。その理由は湊人の事もあるだろう。実際は湊人と同じバイト先でもある為、《一人欠けた》職場仲間の分、バイトが忙しくなったという点にもあった。

 この先、涙が『ビクターライフ』に顔を出すかも分からない。もしかすると、ふと顔を出すかもしれない。その可能性も考え玲央はこれ以上涙を悲惨な光景を目にしてほしくなかった。危険な目にも晒したくなかった。


「涙ちゃん無しでは紫弦には勝てない。茜音(アカネ)の見つけた切り札だ。犠牲者がこれ以上出ても構わないっていうのか?」

 しかし、玲央とは真逆のことを考えている翠は玲央を揺さぶるように問い掛ける。その目は真剣だった。


「それは、」

 玲央は揺さぶられた訳ではないが、"犠牲者"という言葉を耳にして答えに戸惑ってしまった。ついには黙ってしまい、その場には沈黙という名の空気が流れ始め、再び静まり返ってしまった。

 真剣な話をしていただけに二人の間に気まずい空気が漂う。



 数分経った頃だろうか。突如、電話の着信音が事務所内に響いた。

「俺に電話?」

 玲央は珍しく自分の携帯が鳴っていることに思わず声が出てしまう。どうやら、玲央の携帯からだったらしい。玲央はポケットに入っていた携帯を取り出し、画面を見る。そこに映っていたのは『非通知』の文字だった。一気に険しい顔付きになった。


「誰だ?」

 どこから掛かっているか分からない電話は出ないほうがいいのにも関わらず、玲央は電話に出た。それが奴と知ってだ。

『おー、レオか。どうだ、楽しめたか?』

 電話越しに聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。その声は嘲笑っていた。


「紫弦! てめえ、ふざけるな! 楽しめるはずがねえだろ!」

 聞こえてきた声に玲央は怒鳴り声をあげた。電話越しの相手は紫弦だった。"紫弦"という言葉に翠が咄嗟に玲央のほうを振り向く。


『相変わらず感情的だな。落ち着け』

「人一人が亡くなってるんだぞ! 落ち着けるかよ!」

『たかが一人だろ』

「んだと! 紫弦、てめえ」

 玲央と紫弦のやり取りの間、紫弦は冷静になっていた。しかし、玲央はその冷静な紫弦に噛み付くように怒鳴り続けている。その様子をじっと見守る翠。


『この前の事は置いといてだな。よく、聞け。御前の兄、死んでるようなもんかもしれねえ状態だが、まだ生きてるんだよな。あの時、上手く殺れなかったからな。いいか、次は殺ってやる。今に見とけ。楽しみだな。ハハハ』

「なぜ、それを知ってるんだ。ふざけんな! おい、紫弦、」

 衝撃の言葉が耳に聞こえてきた玲央は理由(ワケ)を聞こうとしたが、電話が切れてしまった。電話が切れると、玲央は悔しさを表情に浮かべた。

 会話を聞いていた翠だったが、聞き取れない部分があり、玲央の様子を伺っては何か聞こうとした。その時だった。

 突然、玲央は事務所を勢いよく飛び出していった。

「おい、レオ。待て、どこに行くんだ!」

 その声は玲央に届くことはなかった。

次話更新は12月2日(日)の予定です。

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