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それぞれの向かう場所へ

 事故が起こったスーパーから十分後。玲央(れお)はある場所に向かっていた。事故現場から離れていっているはずが、どこかおかしかった。それは、止まないサイレンの音が理由だった。そして、玲央はあるものを見つける。正確にはあるものに引き寄せられていた。玲央の険しい顔が更に険しくなる。

(あれ、なんだ?)

 ふと思い、立ち止まる。人だかりがあるところへと歩み、覗き込む。視界に映ったのは交通事故が起こったのだろう、車と自転車が衝突した痕が残っていた。そこに見覚えある人物が倒れていた。

 その人物は鳴海(なるみ)湊人(みなと)だった。玲央が湊人の姿に目を向け続けていると、救急車に運ばれていった。そこで漸く、玲央は湊人が血を大量に流している事が分かった。打ちどころが悪かったのだろうか。動かない様子からおそらく意識不明だろうという事も分かった。

 暫くして、重症患者が運ばれるのが終わった。現場は未だに痛々しい傷跡が残されたままだった。

「チッ、まじかよ。間に合わなかったか」

 玲央は軽く舌打ちをすると、徐ろに携帯を取り出した。玲央が電話をかけようとしたその時、電話が来た通知に気付いた。折り返し電話をした。

『おい、レオ。無事か?』

 すると、電話の向こうから声がした。その声の主は言うまでもなく、(すい)だった。

「おう、連絡しなくて悪い。それよりもまずい事が起こったかもしれねえ」

『まずいって、(るい)ちゃんの母親に何かあったのか?』

「は? あ、それは問題なかった。店に行った時、(ウル)ちゃんと一緒に居た湊人っていうやつがいただろ。そいつが、いや、説明するより位置情報教えるから俺の居場所に涙ちゃんと来い」

『えーと、それが』

 玲央と翠はやり取りをしていたが、玲央の言葉に翠が言葉に詰まってしまった。翠はその理由(ワケ)を玲央に話した。


「は? あの場所から離れるなって言ったよな? まだ何も起こらないとは限らないんだぞ!」

 理由を聞いた玲央は声を荒らげた。

『それは、レオが単独行動するからだろ』

 翠が謝ろうとするも玲央の行動を思い出し、言葉を発していた。

「これは単独行動じゃねえよ! もういい。お前だけでも来い。保証は出来ないけどよ、大丈夫だろ。(ウル)ちゃんとはそれからだ」

 玲央は怒鳴るような声を出すと、直ぐに切り替えた。

『分かった』

 翠が渋々返事をすると、そこで電話が切れた。

 その後、玲央は携帯を操作して、先ほど湊人が運ばれた事故現場の様子を見ようと、一歩踏み出したのだった。


  ***


 玲央が交通事故現場に居る時、翠は別の場所に向かっていた。そこはあの玲央が待機していたスーパーだった。連絡をしながら、急ぎ足で向かう。しかし、一向に連絡がつかない。

(何故、電話に出ないんだ? まさか巻き込まれたわけじゃないよな。大丈夫なはずだが、)

 次第に翠は焦りをみせ、心配し始めていた。仕方なく連絡は諦め、目的のスーパーへと走り出す。

 数分が経った頃だった。不意に翠が手に持っていた携帯が鳴り出した。翠は連絡に気付きやすいようにマナーモードをオフにしていた。そのおかげで着信に直ぐ気付くことが出来た。

「おい、レオ。無事か?」

 着信画面を見なくとも誰からの着信か分かっているかのように第一声を発した。

『おう、悪い。それよりもまずいことが起こったかもしれねえ』

 翠の言葉を聞いて答えたのは翠が思ったとおりの人物、玲央だった。

 二人は言い合いになりそうになりつつも電話越しに少しの会話をした。とはいいつつ、翠の言動で玲央は多少怒鳴っていた。翠は電話を終えると、呆れるように一息ついた。数分もしないうちに再び翠の携帯が鳴り出し、玲央からの位置情報が送られてきた。確認をしてそっと閉じる。玲央の居場所へと急いだ。

 このあと、大惨事と惨事が同時に起こっていることなど、この時の翠は知らなかった。


   ***


 一方その頃の涙はというと、自宅に向かっていた。

(お母さんは、)

 心の中で思わず呟いてしまうのは、涙だけが紫弦(しづる)の言っていた《事》を目にしていないからだ。

「ただいま」

 涙は家に着くと鍵を使い、扉を開け、帰宅した事を報せた。

「……」

 しかし、言葉が返ってくることはない。涙は最悪の事態を想像した。それもほんの僅かでひょっこりと顔を出す瑠璃子の姿があった。

「おかえり」

 瑠璃子はそう言うと、顔を引っ込めた。瑠璃子がひょっこりと顔を出したせいか、涙は一瞬驚いた。その場から動けなかった。そして、瑠璃子が無事であることに安心した。

 それから、靴を脱ぐと、そのまま自分の部屋へ進んでいく。部屋に向かう途中、家の電話が涙の耳に届いた。その電話があとから涙にとって重要な事とは知らなかった。

 部屋に着くと、扉を開けて入ろうとしたその時、涙は忘れていた事をふと思い出した。それは、さきほどまで玲央と翠と居た事だ。涙は待機していた場所に戻ろうと急いで玄関に向かった。

「涙」

 不意に瑠璃子に声を掛けられた。

「なに?」

 普段なら声を掛けられても、後回しにすることが多いが、涙は瑠璃子の表情がいつもより沈んでいるように見えた。

「……湊人くんが事故に遭って危ない状態らしいの」

 涙は衝撃を受けた。

次話更新は11月4日(日)の予定です。

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