襲いかかかる大惨事
紫弦が指定した日がやってきた。
涙の母、瑠璃子が行くという、自宅の近くのスーパー。それは、玲央が待機していた時、突如襲ってきた。
「危な、」
玲央は大きな声で叫び、周囲に知らせようとした。その瞬間だった。
とてつもない衝撃な音がいくつも重なり、辺りに響き渡った。玲央が気付いた頃には時既に遅し。
突然、スーパーに一台の車が突っ込んできたのだ。衝撃でガラス張りの壁は粉々になっていた。その衝突はとても大きかった。当然、車に巻き込まれた人達が少なくない。中には意識を失い、流血しながら倒れている人もいた。辺りは一瞬で騒然となった。あまりにも突然の出来事に頭が追いつかず、口をぽかんと開け、その場に立ち尽くす人、目の当たりにして叫んでいる人、慌てて救助を呼びかける人、状況に混乱する様々な人の姿があった。中でも何事かと集まってくる人達が多く見えた。
「まじかよ。こんなことって、」
玲央も周りの人たちと同様に混乱し、思わず言葉を口にする。忘れていた記憶を呼び起こし、今までの事を思えば有り得ることだと気付かされていた。
「クソッ、どうすりゃいいんだ」
玲央は困惑している。足がその場に張り付いたように立ち尽くしてしまう。玲央の視界に入るのは突然の状況に混乱する者ばかり。だが、ある事に気付き、歩き出す。
その場所とは、衝突してきた車だった。よく見ると、車のフロントガラスは見るも無様に割れていて、車体は思いっきり凹んでいた。中の運転手は、頭から血を流して前のめりの姿勢のまま動かない。その運転手の人物は紫弦ではなかった。運転手も巻き込まれた一人だったのだ。他に乗車している者はいなかった。
この大惨事が紫弦の仕業だと玲央は確信していた。それは何故か。
『紫弦が指定した日付である事』
『指定された水川市内である事』
『瑠璃子が行くスーパー』であること。
条件は少ないが予想する事も含めれば、当てはまっていた。
不意に玲央はまた何かに気付いて、ある人物を怪我人の中から探し始めた。そこである人物が居ない事に気付く。そして、玲央はその場を走り去っていった。自分の携帯が鳴っている事も知らずに。
***
ところ変わって、水川市内の別のスーパー。そこには涙と翠が居た。玲央が居たスーパーから約二十分くらい離れていた。ここは、瑠璃子が寄る回数が少ない場所でもあった。それなのに、二人が何故ここにいるのか。それは、玲央の指示だった。
玲央は一人でここから離れたスーパーに行って見張りをすると言い、二人にはこのスーパーの近くで待機するように言った。涙が何か言葉を返そうとしたが、玲央は真剣な眼差しで話し続け、言わせまいとしていた。翠は黙って聞いていたのだが、納得していない。なぜなら、単独行動は危険だからだ。だが、何も言わなかった。
それからとはいうものの二人は今いる場所を警戒しながら、何かを待っていた。しかし、時間が経っても何も起こらない。
「あの、玲央さんは大丈夫でしょうか?」
涙が翠のほうを振り向いて問い掛けた。
「心配しなくて大丈夫だ」
翠が答えた、直後だった。
突如、救急車の警報が鳴り響いた。
「どこかで何かあったんでしょうか?」
涙は再び問い掛けた。
「そうみたいだ。何もなければいいが、」
翠はそう言うと、顔を曇らせながら、携帯を取り出した。そして、ある人物に電話を掛けた。
だが、耳に届くのは発信音だけで応答がない。その様子に益々顔を曇らせた。それから一度、涙に視線を向けた。
「あの、どうしたんですか? まさか玲央さんの身になにかあったんですか?」
翠の視線が自分に向けられている事を察し、涙はふと嫌な予感が過ぎった。
「いや、なんでもない。ここにいてくれないか? おそらくここは何も起きないと思うから大丈夫だと思うが、」
「は、はい」
翠は涙の返事を聞くと、直ぐ様その場を後にした。
一人取り残された涙は翠の言葉を忘れてしまったかのように、ある方向へと走り出していた。向かうは自分の家だった。
(何もないよね……)
心の中で呟いていた。不安になりながらも走り続けた。
次話更新は10月21日(日)の予定です。