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失くしたものを胸に抱きながら (大神 涙)

*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。

 あれから、何ヶ月も経った。今、私は『ビクターライフ』という事務所にいる。いるのは私だけ。玲央(れお)さんと(すい)さんはいない。

 寂しさが残っているけれど、仕方ないで割り切るしかないのかな。きっと、二人はそう言うのかもしれない。私はそんな事は出来なかった。だって、失くした事のほうが多かったから。

 出来れば、前を向いていたい。けれど、思い出す度に目から雫が溢れてくる。もう一度会いたい。

 そんな時だった。不意にアラーム音が鳴った。そこで私は思い出した。事務所にあの人が来るんだっけ。会うのは初めてではないけれど、どこか緊張してしまう。あの人がここに来るのは初めてで、今まであった出来事を話さなければいけないとなると、緊張せずにはいられなかった。裾で目元を擦ると、ヒリヒリする。泣いていたせいかな。

 取り敢えず、アラームを止めて、出迎える準備をしなくちゃ。私は座っていたソファから腰を上げた。それから、急いで事務所内を掃除し始めた。


(もう、そろそろかな)

 掃除をして片付けを終えると、掛け時計を見上げた。

 その瞬間、事務所内の扉が開いた。と同時に声が聞こえた。

「お邪魔しまーす。(るい)ちゃん、来たよ」

 怜太(りょうた)さんの姿が視界に入った。怜太さんは車椅子で来た。実を言うと、あの後、怜太さんから連絡をくれた。玲央さんの携帯の連絡先や履歴などを見て、気になったらしい。そして、私は玲央さんが亡くなった事を知らされた。それから、怜太さんのお見舞いに行って、何度か会った。

 今日、怜太さんは退院したらしいけれど、未だに車椅子なのが気になっちゃう。


「涙ちゃん、目の下が赤くなってるけど、大丈夫?」

 唐突に怜太さんは私を心配するように声を掛けてきた。さっきまで泣いていたなんて言えない。けれど、本当の事を言ってしまえば、泣いていた理由が知られてしまうんだろうな。


「涙ちゃん?」

「あ、大丈夫です。わざわざ来てくれてありがとうございます。取り敢えず、向こうで待っててください。今、お茶淹れます」

 怜太さんが再び声を掛けると、私は答えて、場所を示した。すると、怜太さんは自力で車椅子を動かし、移動した。その間にお茶を淹れなくちゃ。


____


 怜太さんと話し始めて、約一時間が経った。今までに起きた事を細かく話した。人の命を懸けるゲームがあったこと。犠牲者を出してしまったこと。

 大切な人を失ったこと。中でも、私のお兄ちゃん的存在だった湊人(みなと)お兄ちゃんやこの場所『ビクターライフ』で会った玲央さん、翠さんのことを話しているのは辛かった。それから、あまりよく知らないけれど、私に協力を求めてくれた茜音(あかね)さんのことも話した。

 怜太さんは時々相槌を打って、静かに聞いてくれた。話した内容を信じてくれなくても、今まで経験した事を打ち明けて、気持ちが少し楽になった。


「そうだったんだね。今まで辛かったよね。よく頑張ったよ」

 話終えると、怜太さんは優しい言葉をくれた。本当は怜太さんも玲央さんを亡くしていて、辛いはずなのに……。

「これで、良かったんでしょうか? 結局、三人とも……」

「でも、ゲームを仕掛けた人物もいなくなったんだよね? きっと、三人は良かったと思っているんじゃないかな」

 怜太さんは言うけど、私はどこかやるせなかった。だって、私だけが生き残ってしまったから。


「近いうちにさ、玲央のお墓参りに行こう。きっと、喜ぶと思うよ」

「玲央さんが?」

 怜太さんが意外な言葉を口にしたから、思わず声に出してしまった。私は咄嗟に口を手で塞いだ。

「玲央は喜ぶよ。そういうやつだったから」

 それはきっと、兄弟だったからじゃないかな。そう思っていても、口に出しては言えず……。私はふと怜太さんを見た。怜太さんはどこか寂しげな、悲しげな表情をしていた。


   ***


 突然、電話が掛かってきた。

「涙ちゃん、久しぶり。今、大丈夫?」

柚葉(ゆずは)さん!」

 その電話の相手は柚葉さんだった。咄嗟に電話に出たもんだから、テーブルを挟んで、向かい側にいる怜太さんが見てる。様子を伺いながら、その場から席を外した。離れた場所で電話を続けた。

 内容は、今度一緒に会おうという事だった。柚葉さんを悲しくさせてしまうからあまり詳しくは言えないけれど、もう一人一緒でも大丈夫か一応聞いてみた。柚葉さんは大丈夫と言ってくれた。

 それから、私たちは会う日を決めて、直ぐに電話を終えた。怜太さんを待たせているから、長電話は出来ないって事もあったんだけども。

 電話を終えたら、直ぐに怜太さんのところに戻った。すると、怜太さんは話を聞きたそうに笑みを浮かべていた。

「もしかして、電話の相手って、翠くんの妹さんかな?」

「は、はい。そうです。数日後に翠さんのお墓参りに行くので、その時に玲央さんのお墓参りもどうでしょうか?」

 一応、聞いてみた。

「実は、暫く通院って事になっているけど、日にちが被らなければ大丈夫だよ」

 怜太さんは答えた。偶然にも、怜太さんの通院日と被らなかった。その後、私たちは解散した。


 そして、数日後。私は怜太さんと柚葉さん、(そう)さんの四人でそれぞれのお墓参りに行った。勿論、湊人お兄ちゃんのお墓参りもした。

 その日は、日差しが強く、よく晴れた日だった。

これにて『色彩リミット〜最後の切り札~』は完結です。

今までありがとうございました。

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