最終戦の果てに
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
「残念だな。もう少しでタイムリミットだ。アイツらはもう来ないだろうな」
「まだ、時間は、ある」
会話するのは紫弦と翠だ。あれから時間が経っても、翠の元には誰も助けに来ていない。残り数分まで時間が迫っている。いったい、どうしたのだろうか。
「まあ、精々頑張りな。希望を抱いたところで無駄だがな。ハハハ」
紫弦は言葉を口にし、嘲笑う。余裕だ。なぜなら、知っていた。翠には居場所を知られたが、それ以外に特定出来る者がいないことを。
そして、紫弦はその場を立ち去ったかのように思えた。翠の元に近付き、思いっきり翠を蹴り飛ばした。一度ではない。二度三度と繰り返した後、今度は拳骨で翠を殴り始めたのだ。翠は抵抗しない。いや、抵抗出来ないほど弱っていた。そのせいか、眼鏡は所々割れた。
翠はいったいどうなってしまうのか。それは、翠自身にも分からなかった。
「おいおい、もうダウンか? 玲央と比べると、本当に体力がないやつだな。もっと、楽しませてくれよ。な?」
紫弦はそう言うと、再び殴り、蹴り飛ばした。だが、一回で止めた。なぜなら、翠は既に意識を失っていたのだ。紫弦はポケットからあるモノを取り出し、翠の近くへと投げつけるように置いた。
「じゃあな。タイムリミットだ」
紫弦は言葉を残して、今度こそその場を立ち去ってしまった。紫弦はなにをしようというのだろうか。翠は未だに意識が戻らず……。殴られ蹴られ、しまいには流血した身体のままその場に取り残されたのだった。
***
ところ変わって、涙と蒼は苦戦していた。涙は事務所から離れた場所にいた。蒼の指示に動こうとするも、蒼からの指示が来ない。蒼は翠が居る場所を特定しようとしているが、なにかに遮られている。それは、紫弦の仕業だった。紫弦のほうが上手だった。
「蒼さん、まだ、ですか? 翠さんが、」
『分かってる! けど、これ以上は難しい。涙ちゃん、心当たりがある場所はないか? 俺だけじゃ、無理だ』
電話越しに二人は話していた。蒼は苛立ちからか、大声を出している。涙は蒼の声にビクッとしながらも思い当たる場所を考えた。翠が居そうな場所。それはどこなのか。
「あ、あの。以前、ニュースになった、廃墟の火事の場所は知っていますか? 同じ場所のような廃墟は、」
『それは既に探した。けど、ダメだった。他は?』
涙が思い出して、言葉にするが、途中で蒼が遮って答えた。涙は蒼が異常の早さで探していることを知らない。切り替えて、次はどこなのかを考える。
翠は見つかるのだろうか。自分たちがやらねばならない思いで行動し続けるしかない。見つかると信じて。
____
涙はある場所にいた。その場所は以前ニュースで報道されていた廃墟の前だった。だが、そこは、未だに焼け跡が残っているだけだ。それに立ち入り禁止区域になっていた。
(やっぱり、ダメだったのかな。それなら、他に翠さんの行きそうな場所は……)
涙は諦めていなかった。意外にも冷静で、翠の居場所を考える。そして、辿り着いた答えは直ぐそこにあった。
(あそこならいるかもしれない。早く行かないと)
涙は心の中で呟くと、夜の道で暗いのにも関わらず、走り出した。翠の無事を祈りながら。
*
「蒼お兄ちゃん。お兄ちゃんの様子が……」
未だに映し出されている映像を観ながら、柚葉は不安になっていた。柚葉の言葉に蒼は振り向いた。そして、映像を観た。
「翠! まさか……おい、しっかりしろ!」
蒼は呼び掛けるように声を張り上げる。映像に映っていたのは、信じられない光景だった。
翠は身体から血を流し、眼鏡は割れていてボロボロの姿をしていた。さっきまでなにが起こったのか。蒼には理解出来なかった。
「柚葉、なぜこうなったんだ?」
蒼は不意に観ていた柚葉に問い掛けた。すると、柚葉は表情を曇らせた。そして、こう言ったのだ。
「男の人がお兄ちゃんを殴ったの」
その言葉を聞いて、蒼は顔を歪ませた。その間に時間は経っていくばかりだ。翠を助ける事が困難だ。それでも、蒼はなんとか情報を得ようと必死にパソコンと格闘するのだった。
***
『次のニュースです。昨夜、都内で火災が発生しました。火は消し止められましたが、中から身元不明の二人の遺体が発見されました。現在、確認中とのことです』
突如、流れてきたニュース。それが意味する事とはどういうことなのだろうか。それを知っているのは目の前で観ていた、たった一人の人物。その人物はどこか悲しくもあり、ホッと安心するような表情をしていた。その人物は座っていた椅子から腰を上げた。そして、テレビを消した。直ぐにその場から立ち去ってしまった。
次話更新は6月14日(日)の予定です。
次話で最終話となります。




