色彩リミット
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
貴美は不意に玲央の担当医に呼び出された。そして、知らされた。玲央が他の病院に運ばれたことを。聞いた話によると、玲央は意識不明の重体らしい。それを知った貴美は動揺したが、決意をした。
「玲央くんのところに行ってくるわ。怜太くんをよろしくお願いします」
貴美は夫の暁に告げると、直ぐに病室を出ていった。
「気を付けるんだぞ」
暁は用心するように言葉を掛けた。貴美は玲央がいる病院へと急いで向かった。
「玲央、くん……」
病院に着くと、貴美はある場所へと案内された。そこは病室ではなく、集中治療室だった。玲央は未だに意識不明だ。医師によると、頭部の血管に出血が見られたそうだ。大きな血腫が出来ていて、破裂したのではないかという。あの時の手術は成功したが、他の箇所にも血腫が出来ていたらしい。あと数日が山場かもしれないと告げられた。
もし、奇跡が起き、目を覚ましたとしても、大きな後遺症が残るかもしれない。それを聞いた貴美はショックを受けた。玲央は怜太と同じ状態になってしまった。寧ろ、数日が山場と言われ、怜太よりも状態が最悪だった。
貴美は、機械に繋がれている玲央を見て、涙を流した。
(玲央くん、どうか目を覚まして。怜太くんに元気な姿を)
心の中でそう願いながら、十分程見守るようにその場に残った。
「怜太くん、待ってるわよ。どうか、生きて」
貴美は集中治療室を出ていこうとする時にそう言った。そして、先程いた病院へと戻ったのだった。
「玲央くんはどうだった?」
暁は貴美に問い掛けた。貴美は悲しそうな表情を浮かべた。暁は玲央の状態が良くないことを察した。そして、怜太のほうに視線を向けた。怜太は未だに眠っているままだ。よく見れば、やせ細っている。長らく目を覚ましていないにも関わらず、ここまでなにもなかったのは奇跡だと思われるほどだ。もしかしたら、目が覚めるかもしれない。そう思い二人は世話をしてきた。だが、現実を見れば玲央も同じ状態になってしまった。このままでは二人とも失ってしまうかもしれない。そうならないために世話をしてやりたい。二人は今後の事を話すと決めた。
***
事務所にて。三人は集まって、次の予告を阻止するために必死に考えていた。特定も急いだ。あまり時間がない。作業している蒼の傍らで、女子二人は話していた。
「今度は私も行く。お願い」
「いや、柚葉さんは残ってください。玲央さんが来るかもしれないですし、お願いします」
「分かった。気をつけてね。蒼お兄ちゃん、どう?」
柚葉はあっさりと涙の言葉を聞き入れた。そして、唐突に蒼に問い掛けた。蒼の作業は続いている。しかし、上手くいっていない様子だ。
「どこか、分からない。次は予測が出来ない場所だ。どこで、なにが起こるんだ」
蒼は次第に焦り始めていた。自身の成せる技術を駆使しても尚、特定することは出来なかった。
「あ、もしかして、」
涙が思い出したように言葉を発しようとした、その時だった。
突然、蒼が作業していたパソコンの画面が真っ暗になった。電源が切れたのではない。コンセントにプラグが挿されている。だとしたら、いったいなにが起こったのだろうか。
次の瞬間、パソコンにある画面が映し出された。パイプ椅子に縛られている人物がぐったりとしているようだ。その人物は顔を下に向けていた。
「なんだ?」
不意の出来事に蒼は不思議でならなかった。すると、蒼の言葉を察しているかのように、カメラ目線がパイプ椅子へと拡大された。その時、蒼は気付いた。パイプ椅子に縛られている人物は翠だったのだ。
「翠!」
蒼は思わず、大きな声を出した。その声は事務所全体に響き渡った。当然、涙と柚葉は振り向いた。
「翠さんが見つかったんですか?」
涙は問い掛けた。蒼は答えない。無言で画面を観続けている。その様子に涙は画面になにが映っているのか、気になり始めた。そして、歩み寄ってみる。涙の視界に画面を捉えた。涙は驚愕した。
「す、翠さん!」
思わず声に出していた。画面の中央にパイプ椅子に縛られた状態の翠の姿が映っていた。涙の声に柚葉が車椅子をカタカタと動かしながら、近付いた。
「お兄ちゃん!」
柚葉も画面を観た途端、声を出した。
画面には未だにそれだけで、なにも変化がない。
「いったい、どうなっているんだ? どうすれば、」
蒼が焦りをみせ、キーボードでなにか入力しようとした、その時だった。
画面に一人の男が現れた。翠に近づいたかと思えば、不意に翠を蹴り飛ばしたのだ。翠は限界がきているのか、なにも抵抗しようとしない。そして、男は言い放った。
『お前ら、コイツが殺られる前に阻止してみろ。そうだな、タイムリミットは今夜だ。精々、頑張るんだな』
その言葉を最後に画面の下に数字が映し出された。それはまるでカウントダウンのようだった。
まだ、続きます。
次話更新は5月31日(日)の予定です。




