崩壊
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
涙と蒼が悲惨な光景を目の当たりにする前。病院にいた玲央はある言葉を耳にして衝撃を受けていた。
「ちょっと、待てよ。なんだよコレ。ふざけんなよ!」
テレビを見ていた玲央は思わず、叫んでいた。玲央の声があまりに大きかったせいか、側にいた看護師は驚いた。玲央はなにを見たのか。
「どうしたんですか?」
看護師は声をかけるが、玲央は気付いていない。真剣な表情でテレビに釘付けになっている。
『繰り返しお伝えします。今日、午後二時頃、都内のテーマパークの建物が倒壊しました。犠牲者は現在不明ですが、現場は多くの人で賑わってい、』
それは、突然の事だった。玲央は咄嗟に病室を飛び出した。
「黄山さん!」
看護師に呼び止められていることなどお構いなく、真っ先にある場所へと向かった。
「玲央くん?」
問い掛けるのは貴美だ。貴美は怜太の病室に居たのだが、そこに突然、息を切らす玲央の姿が現れた。
「叔母、さん、悪い。俺、行って、くる。なにか、あったら、よろしく、頼む」
玲央は息を切れしているせいか、途切れ途切れに言葉を発した。
「え、どこに行くの?」
貴美は問い掛けるが、玲央は早々と病室を出ていこうとしていた。が、貴美の元に戻った。いや、眠っている怜太の元に。
「兄貴、行ってくる」
目を覚まさない怜太にそれだけの言葉を残した。そして、病室を去っていた。一瞬の出来事に貴美は困惑した。同時に嫌な予感を感じ取った。
(玲央くん無理しないで)
貴美は心の中で呟いていた。
***
事務所を後にした蒼と涙。二人はある場所に着いたばかり。タイムリミットは刻一刻と迫っていた。
「きっと、ここだ。涙ちゃん、探そう」
「はい。私、あっちを探します」
「なにかあったら、連絡を」
二人は言葉を交わすと、二手に分かれた。一緒に行動したほうが効率も良く、危険度が低くなるだろう。だが、そうも言ってられないのだ。タイムリミット三十分は切っていった。
なにか無いかとあちらこちら探し回る二人。しかし、手がかりさえ、見つからない。時間はあっという間に過ぎていく。
その時だった。涙が居るであろう方向から地響きがした。途端に蒼が振り向いた。
「涙ちゃん!」
思わず声を上げていた。しかし、その言葉は届かない。届くとしたら、周りの人たちだ。平然としている者もいたが、反応している者が多かった。
蒼は急いでその場から走り去っていた。
____
突然、鼓膜を震わせるような大きな音が聞こえた。それは、建物内で爆発するような轟く音だった。涙はその近くにいた。巻き込まれずに済んだのだが、辺りは騒然としていた。
「え、コレって……」
涙は衝撃を受けた。音がした方へと振り向けば、建物が崩れかけていたのだ。不意に建物の近くを見渡す。巻き込まれた人がいないかを確かめた。
しかし、状況がよく分からなかった。建物の破片があちらこちらに散らばっていて、煙が舞っている。被害にあった者がいないかは確認出来なかった。
周りは混乱している者ばかり。その中で、状況を携帯に収めようとしている者もいた。
その時だった。再び、建物から鼓膜を破るような凄まじい音が轟いた。それも先程よりも大きい。周りにいた人は叫んだ。一瞬で悲惨な光景になった。今度は完全に崩れてしまった。
涙は無事だった。だが、見ていた。崩れ去る時に巻き込まれた人を。悲鳴を上げて逃げ惑う者もいた。二次災害が起こっていた。
「どうして、こんな事に……」
涙は思わず呟いた。悲惨な光景を目の当たりにした事でとてつもない衝撃を受けた。涙は足が竦んでその場に立てなくなっていた。すると、ちょうどそこに蒼が現れた。
「涙ちゃん、無事で良かった。なにが起きているのか分からないけど、アレを見ればなんとなく分かる。立てるか?」
蒼はそう言って、地面に尻をついてしまった涙に手を差し伸べた。突然、現れた蒼に目を丸くして驚くも蒼の手を取り、立ち上がった。
「ありがとうございます。蒼さん、大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫。涙ちゃんも大丈夫そうで良かった」
蒼が言うと、お互い安心したような表情をした。
状況は最悪だった。二人は危険を顧みずに直ぐに現場に向かおうとした。直後、電話が鳴ったことで遮られてしまった。それは、涙の携帯からだった。涙は直ぐに電話に出た。
「もしも、」
『おー、ガキか? どうやら元気のようだな。楽しめたか?』
涙が電話に出ると、その声は直ぐに聞こえた。紫弦だ。紫弦の声は低いが、喜んでいるのか、高めに聞こえた。紫弦の言葉に涙は顔を歪ませた。紫弦の起こしたであろう出来事に楽しめるわけがなかった。
『おい、聞いているのか? 次の予告だ』
その言葉に涙はハッと我に返った。
『次は、そうだな。今夜、ある場所でなにかが起こる。止めてみせろ』
「ど、どこですか!」
涙は分かっていながらも、咄嗟に場所を聞き出そうとした。途中で電話は切れた。
「奴か? それでなんと言っていた?」
蒼が問い掛ける。しかし、涙は黙ってしまった。
次話更新は5月10日(日)の予定です。




