探し求めた先には
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物等とは一切関係ありません。
涙たちが事務所で解散した、翌日。早朝、彼らは事務所に集まった。
蒼がパソコンを弄っていた。実をいうと昨日、蒼は翠を探すと言ったのだが、いくらやっても居場所を突き止める事が出来なかったのだ。見えない力で探させないようにされていた。
それだけ、蒼よりはるかに翠のほうがパソコン技術が上手だった。蒼は翠の技術に感心しつつも悔しがった。同時に苛立ちも感じた。感情が渦巻く中で探すのは困難だが、やるしかなかった。
その傍らで女子二人はある会話をしていた。
「これ、全部。昨日のうちに書き込んだんですか? 凄いです」
柚葉は涙にノートを見せられ、驚いている。ノートは文字で埋め尽くされていたが、最初の十頁ほどだ。それだけでも、圧倒されるほどの量だった。
「これを参考に翠さんが行くような場所があれば……」
涙はそう言って、不意に蒼に視線を向ける。蒼は二人に見向きもせず、パソコンを弄るばかりだ。かれこれ約一時間。
涙は掛け時計に視線を移す。そして、再び蒼に視線を向けるが、未だ気付かず。その瞬間、事務所内の液晶テレビが付いた。柚葉が付けたのか、テレビの前に居た。その瞬間だった。
『午前四時半頃、白関市内で突然大きな音と共に火災が発生しました。火は約一時間で消火されました。今のところ、被害者は確認されていません』
画面から流れたアナウンスの声が衝撃の言葉を発した。それを聞いていた涙はある事を思い出す。
【タイムリミットは明日。明日、何かが起こる】
玲央が聞いた紫弦の言葉。涙の中でもしかしたらという、良からぬ事を想像してしまった。
「これってまさか、奴なのか?」
ニュースを聞いていた蒼が呟いた。蒼の言う通り、紫弦の仕業に間違いないのだが、一点間違いがあった。
「おそらく、紫弦さんです。けど、今のところ被害がないです」
「被害がなくて良かった。けど、次は被害が出るかもしれない。それまで、翠を探さなくては」
蒼はそう言うと、パソコン操作に戻った。話によると、『被害』が出ていないことに安心しているようだが、被害が出ていないのでは無い。これから、起きることが重要だった。
その時だった。突如、事務所の電話が鳴った。
三人は電話のほうを見て、お互い目を見合わせた。
「俺が出る」
蒼が発すると、涙が真っ先に電話に向かった。そして、涙が電話に出た。
『見たか? 俺が仕掛けたものをよ。ハハハ』
電話越しに聞こえてきた言葉。その声の主は紫弦だった。紫弦は不気味な笑みを浮かべていた。
「ニュース、ですか?」
涙は恐る恐る問い掛けた。
「分かっているじゃないか」
紫弦は答えると、言葉を続ける。
『そういや、御前は新入りのガキだよな? 玲央はいないのか?』
涙の声に気付いた紫弦は言った。
「あ、今はいないです。翠さんも……」
涙は答えるが、声音が段々と弱くなった。二人が欠けた状態では思い出すだけでも弱くなってしまう。今の涙にとっては二人は大きな存在だった。
『玲央、居るんだろ。玲央を出せ!』
紫弦は怒鳴っている。涙は少し驚くが、直ぐに気を取り直した。言葉を返そうとしたが、上手く言葉が出てこない。
どこにいるのか言ってしまえば、狙われてしまうかもしれない。危険を伴う返答は避けたかった。
『まさか、また巻き込まれたのか? そりゃ最高だな。ハハハ』
無言の返答に紫弦は不敵な笑みで言葉を口にした。
『つーことは御前は独りだっつーことだな。御前に出来るか? いや、出来ないよな? いいか、後数時間後にバーンだ。切り札の力を見せてみろ』
紫弦はそう言って電話を切った。涙は直ぐさま掛け時計を見たあと、蒼を見やる。
「奴か? なんと言ってた?」
蒼は涙の様子を察して、問い掛けた。涙は黙っている。柚葉が心配そうに涙の様子を伺っている。事務所には掛け時計のカチコチという音が響き渡る。
「また、起きるのか? 事故が、」
蒼は再び問い掛ける。その言葉に涙が振り向く。
「はい」
涙はそう言った。
「タイムリミットは数時間後です」
そう付け足した。その言葉に蒼と柚葉は驚いた。こうしてはいられないと蒼は直ぐに携帯を取り出す。誰かに連絡をするが、聞こえてくるのはやはり呼び出し音だ。蒼は苛立ちながらもパソコンを操作し始める。
作業画面からあるサイトの画面に切り替えた。スペースに『事故』とだけ入力し検索した。多数の事故の記事やコメントなどが上がってくる。その一番上には今朝起きた事故が載っていた。
「ここは……」
思いがけない場所だと知って蒼は言葉を失った。
「蒼さん、どうしたんですか?」
涙は蒼のパソコンを覗きながら言った。
「え、ここって」
涙も蒼と同様に言葉を失ってしまった。
次話更新は4月26日(日)の予定です。




