緑川 翠
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
それは、突然の事だった。
「なにを考えているのよ! なんとしても阻止しなくちゃ」
茜音は言った。
「くそ、アカネ行くぞ!」
レオも茜音と同様に、声を上げた。そして、その場から去ってしまった。
残された俺は、なにが起こっているのか全く理解することも信じることも出来なかった。ただ、焦るほどの事だけは分かった。
『今からお前と俺とでゲームをしろ。いいだろ? 協力者と戦ってもいい。勝てればの話だがな。ハハハ』
茜音から聞いた、奴からの言葉らしい。最初は信じなかった。だが、次々と起こる事故から嘘ではないと実感した。なによりも俺の両親と妹の柚葉まで巻き込まれるとは思いもしなかった。許せない。いや、絶対許してはいけないと思った。俺たちは、紫弦との勝負のために『ビクターライフ』という事務所を設立した。作戦をたてる。それでも、茜音は狙われ、命を奪われた。これじゃ勝てない。勝てるわけがない。
そんな時だった。あの子が訪れてきたのは。
彼女は、思っていたほど若かった。柚葉よりも若い。まだ十代なんじゃないか? 第一印象でそう感じた。なぜ、茜音はこの子を選んだんだろうか。何か意味があっての事なのか。いや、意味がないと選ばないはずだ。奴に勝てる鍵となる。聞いていたが、本当に勝てるのだろうか。色々思うことがあったが、そんな余裕などなかった。奴は、直ぐに予告してきた。鍵である、大神涙ちゃんの身内を狙った事故を起こすんだと感じた。そして、当たってしまった。阻止出来なかった。彼女は酷く落ち込んだ。
だが、それでも俺は彼女に協力してほしいと思った。レオと対立することなど考えていなかった。
「んなこと言っても認めね!」
レオは怒鳴って反対した。その時は、涙ちゃんが正式に仲間になることが保留になった。
それから、俺の知らないところで妹たちが動いていた。柚葉と蒼兄さんだ。二人は俺たちの事情を知ってしまった。実をいうと、蒼兄さんが俺の行動を探って、調べていたらしい。協力したい、と二人は言った。俺は身近な存在でもあるからか、二人の気持ちが揺らがないと知っていた。協力してもらえれば、勝算あるとも思った。レオも分かってもらえるはずだ。だが、本当の亀裂が入るとは思っていなかった。
協力は一切させるな、とレオは言った。レオは感情任せで状況を分かっていない。こうなったら、別々で行動するしかないか。紫弦の居場所を知っているのは俺しかいない。
そして、今事務所に居るが……。
「翠さん、これでいいんですか?」
涙ちゃんは俺に問いかける。これでいいわけがない。このままでは誰かが犠牲になる。なんとかしなければ。
「あの、翠さん?」
「あ、悪い。このままではよくない。当分、レオと別行動だ。あの二人を呼ぼう。力になってくれるだろう」
俺はそう言って、涙ちゃんを納得させた。正直、納得したかは分からないが、反対はしなかった。
「もしもし、蒼兄さん。今、大丈夫ですか?」
電話越しに問い掛けた。すると、『なんだ、なにかあったのか?』と察して、問いかけてきた。俺は一度言おうか言わまいか迷った。なにを迷う必要があるんだ。
そして、協力してほしい、とだけ言った。それを待っていたのか、電話越しに笑いが聞こえた。笑ってる時間などないんだ、と突っ込みたかったが、やめた。蒼兄さんに後で事務所に来るように伝えた。勿論、柚葉と一緒にだ。俺は涙ちゃんと事務所で二人を待つことにした。
「あれ、玲央さんは?」
二人が事務所に到着すると、柚葉が問いかけた。
「病院だ」
俺は咄嗟に嘘をついた。柚葉は下を向いた。この反応、どういうことだ? まあ、今は気にしないでおこう。
「それで、何が起こったんだ?」
蒼兄さんが話を切り出した。俺は知っている事故の状況を話した。状況を把握出来ていないせいか、知っていることは少ない。それでも事故の被害は大きかった。
「そういうことか。それで、どうしたらいいんだ?」
「三人は事故現場の様子を覗いてきてくれ。まだ、現場は危険かもしれない。二次災害に気を付けてほしい。俺は次の予告を探す。涙ちゃん、二人を頼んだ」
俺は指示をした。それから、それぞれ準備をした。俺は三人が事務所を出ていってしまうと、一人事務所に残った。だが、直ぐに支度をし、ある場所へと向かった。
三人には悪いが、これしかないんだ。紫弦に勝つためには……。覚悟は決めてある。あとは、奴に仕掛ければいい。上手くいけばいいが。
次話更新は3月8日(日)の予定です。
※次回から毎週日曜に更新。




