意地っ張り
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
事務所『ビクターライフ』を後にして数十分後。玲央と涙は怜太のお見舞いにと病院に来ていた。二人は既に怜太の病室にいた。
未だに長い眠りから目を覚めない怜太を目の前にして、二人は無言で見守っていた。玲央の表情が崩れている。
「二人には怜太さんと同じ目に遭ってほしくないだけですよね。分かります。私も湊人お兄ちゃ、あの人のようになっては、」
視線は怜太に向けながら、涙は玲央に声を掛ける。自分の身近な人もそうなってしまったことも言おうとしたが、途切れてしまった。思い出すだけで辛さが蘇ってきている。それを必死に推し殺そうとする。玲央は言葉だけで察した。
「涙ちゃんのほうが辛いよな。思い出させて悪かった」
「私は大丈夫です。怜太さんの状態をずっと見守っている玲央さんのほうが辛そうです。怜太さんは必ず目を覚ましますよ。信じましょう」
玲央の言葉に涙は答えるかのように言う。きっと目を覚ますと、言葉を付け加えた。
(くそっ、こんな時に……)
突如、襲ってきた頭痛に顔を歪ませ、手で頭を抑える玲央。
「悪い、すぐ戻ってくる」
そう言って、椅子から立ち上がり、そのまま病室を出ていってしまった。
「玲央さん?」
突然のことに涙は戸惑いつつも、玲央の後ろ姿を心配そうに見つめた。が、追いかけようとはせず、病室で待つことにした。
____
(このままじゃヤバいな)
玲央は怜太の病室を出た後、一旦外に出て薬を飲んだ。即効性の薬だった為、直ぐに良くなった。しかし、持っていた薬が丁度切れた事に気付き、一階の外来で診察を受け、薬を貰うことにした。
混み具合は空いているほうだった。直ぐに行動出来た事に安心するべきはずなのに、その場所に居座ると、いつバレるかヒヤヒヤしていた。貴美には一度バレているからか、玲央はこの場から早く立ち去りたかった。しかし、玲央の行動は上手くはいかない。
「玲央くん?」
不意に誰かが玲央に声を掛ける。その声の主は貴美だった。貴美の声に玲央は振り向く。すると、玲央の視界には貴美の姿が映った。
「なんで、」
突然の事に玲央は頭を抱える。
「玲央くんの姿が見えたから。やっぱり、後遺症が残って、」
貴美が心配そうに話し掛けたが、玲央はそれを無視し、その場から離れようとした。その時だった。
貴美に腕を掴まれてしまった。玲央が抵抗しても今度は逃さないようにと強く掴んで離そうとしない。
「離してくれよ」
「ちゃんと話してくれるまでは離さないわ」
玲央の言葉に貴美は引き下がろうとしない。
「いや、待たせてる人いるから。悪い」
玲央は力で貴美の手を離すと、先を急ぐように背を向ける。しかし、貴美は止めようと言葉を口にする。
「涙ちゃんでしょ。会ったわ。大丈夫よ、後遺症の事は言ってないわ。けど、心配してたわ」
玲央は貴美の言葉に驚くが、それも一瞬の事で、安堵の溜め息を零した。
「ねえ、どこが悪いの?」
その問い掛けに玲央は下を向いた。
***
「あれはないな。玲央くん、頑固なんだな」
「説明したとおり、レオには兄弟がいます。同じ目に遭わせたくないんです。アレでも二人の事を考えての事なんです」
「けどな、あそこまで反対するとは意地としか……」
そんな会話をしているのは翠と蒼だ。二人は玲央が事務所を出ていった後、話し合った。仲間に加わることに関しては取り敢えず、保留になったのだが、蒼は未だに納得していなかった。玲央と初めて対立してしまい、彼の性格に呆れていた。
「あんなに怒鳴る玲央さん見たことないよ。それほど深刻なことなんだと思う」
二人の会話に柚葉は加わろうと言葉を発する。すると、翠と蒼はその声に反応する。
「だからってあそこまではないだろ」
どうやら、蒼は柚葉の言葉でも納得しないようだ。
「今度はちゃんと話してみたら、きっと私たちの思いを分かってくれるよ。玲央さんが反対する理由も詳しく聞ければ、私たち理解し合えるんじゃないかな」
「うん、そうだな」
柚葉が提案するように言うと、翠が相槌を打った。その姿に蒼がなぜか笑みを浮かべる。
「やっぱり、お前たちはいい兄妹だな」
不意に蒼は独り言のように呟く。すると、柚葉と翠はお互い見合わせた。
『違う!』
まるで息を合わせたかのように声を揃えて否定する二人。
「こんな生意気な妹がいるか!」
「一人で行動しようとするお兄ちゃん苦手」
二人はそっぽをむいた。
(やっぱり、いい兄妹だ)
蒼は声に出さず、心の中でそう思っていた。
次話更新は1月19日(日)の予定です。
マイペースですが、今年も『色彩リミット』をよろしくお願いしますm(_ _)m




