対立する二人
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
「だから、無理だ!」
「でも、俺たちは仲間に加わりたいんだ!」
「チッ、何度言っても無駄だっつってんだよ! つーか、翠もなんか言えよ!」
事務所『ビクターライフ』にて。なんだか揉めているようだ。玲央と蒼だ。蒼が年上だというのに玲央は感情的になり、口調が荒くなっている。
なぜ、こうなったのか。その原因は、数時間前にあった。翠が玲央に蒼と柚葉が仲間に加わったことを伝えた。それが間違っていた。
翠は玲央が受け入れてくれるだろうと軽くみていた。その為、二人が仲間に加わることを承諾してしまったのだ。勿論、玲央は反対した。翠の考えと玲央の考えが行き違い、玲央が二人を事務所に呼び出すようにいった。
そして、二人が事務所に来たものの、玲央と蒼が言い争い始め、最悪の状況を生み出していた。なにを言っても二人は引き下がらない。言い争い続ける二人に翠と涙、柚葉はなにも出来ずに呆然としていた。玲央が翠に話を振るも翠は無言を貫いている。
「分かっていっているのか? 最悪、命を落とすことになるんだぞ!」
「そんなことは分かっている。けど、このままじゃ犠牲を増やすことになる。俺たちが協力すべきだ」
二人は尚も言い争っている。
不意に翠と涙は目を合わせる。目で合図を送りあう。
「あの、時間がありません。策を練りましょう」
涙が二人に向かって声を掛ける。しかし、残念ながら涙の言葉は二人に届かず。そこで今度は翠が口を開く。
「言い争っても意味がない。こうしているうちに紫弦は計画を進めてるかもしれないんだ!」
声を張り上げ、翠は二人に言葉を掛ける。
「お兄ちゃん……」
翠の側でじっと見守っていた柚葉が呟く。
「こうなったら、仕方ない。奥の手だ」
突然、蒼は鞄からなにかを取り出した。中から出てきたのはA4サイズの紙の束だった。それは、角がホチキスで止めてあった。一番上にはなにかの記事らしきものの文章が綴られていた。蒼はそれをテーブルに叩きつけるように置いた。
「なんだよ、これ」
玲央が紙の束を見て呟いた。
「俺が調べた情報だ。これを手がかりになにか予測出来るんじゃないか」
その情報は数年にかけたものだ。膨大なものになる。
その場に居た玲央以外は目を丸くして呆気にとられていた。だが、玲央は違った。その紙の束を手に取ると、一枚一枚ばらしてはビリビリと破り捨てた。
「こんな事をしても無駄だ。今すぐ出ていってくれ」
吐き捨てるように言うと、事務所を出ていってしまった。
なぜ、こうもして、反対するのか。それは、玲央の仲間を思いやる気持ちと自分の身に起こったことにあった。
《誰も犠牲にしたくない》《犠牲は俺だけで十分だ》そう、強く思ってのことだった。
それを知らない蒼と柚葉。二人は悔しさを抱いたまま事務所に残った。
ただ一人、涙は玲央の後を追いかけていった。
____
「なんで、ついてきた?」
玲央は背後に誰かの気配を感じ、振り向きもせずに問い掛けた。玲央にとっては誰だか察していた。
「……玲央さんが心配で、」
涙は振り絞るように声を出した。
「俺は大丈夫だ。二人を心配してやってくれ」
玲央は答える。しかし、言葉とは裏腹にその表情は辛そうにしている。涙は玲央の言葉を聞いて、どこか浮かない表情をした。二人は無言で歩いた。
「……怜太さんのところに行くんですよね? 私も一緒にいいですか?」
少しして、涙が声を発した。すると、玲央は一度立ち止まる。
「構わない。寧ろ、来てくれ」
そう言って、直ぐに歩き出す。涙も後ろを追うように玲央についていった。
***
「この調子だ。上手くいけばいいがな」
呟くのは紫弦だ。紫弦はいつも通りの隠れ家にいた。いつもと同じ、パソコンを弄っている。この男、なにを考えているのだろうか。
紫弦は持っている技術を駆使してデータや監視カメラの記録を乗っ取る事が可能だ。空港内や駅構内の監視カメラを操作する事が出来たのだ。紫弦の計画通りってわけだ。
「彼奴らバカだな。休戦するわけないだろ。遊びはこれまでだ」
独り言を呟くと、椅子から腰を上げる。ふと、テレビのリモコンらしきものを手に取り、スイッチを押した。すると、少し離れた場所にあった大きな画面に映像が映し出された。
『今日の午前、白関市にある✕✕で、』
そこで映像は途切れた。今しがた付けたばかりの電源を直ぐに消した。紫弦にとっては単語を耳にするだけで十分だった。
いったい、なにが起こったというのだろうか。それは、誰も予想出来なかった。
次話更新は1月5日(日)の予定です。
来年もどうか色彩リミットをよろしくお願いします。




