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行き違った決断に

*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。

(この先どうすればいいんだ。叔母にはバレた。いずれ二人にも、)

 心の中で呟くのは玲央(れお)だ。玲央は叔母に言われた言葉を思い出し、一人考え事をしていた。兄の怜太(りょうた)が事故で今も長い眠りについている事から叔母には勘づかれるだろうと分かってはいたが、実際に声を掛けられると戸惑っていた。

 そんな事を考えると、この先どうやって過ごせばいいのか考えずにはいられなかった。

「……オ! レオ!」

 誰かが呼んでいる声で我に返った玲央。顔を上げると、視界には(すい)の姿が映った。

「レオ、聞いているのか?」

 我に返ったとはいえ、未だに静止している玲央を見て、翠は問い掛ける。

「悪い。ボーとしてた。それで何の話だ?」

 玲央が口を開くと、翠は呆れて溜め息を零した。その姿をただ見ていることしか出来ない(るい)もその場にいた。

「あのな、今後左右する事なんだ。気を抜いてると、今度こそ命を落とすぞ」

 翠は語気を強めて言う。その言葉に玲央は何も言えなくなった。その理由は玲央に多大な影響を及ぼした事故に遭ったからだった。翠の言うとおり、いつか命を落とすかもしれない。いつなにが起こってもおかしくない状態だ。

 頭に爆弾を抱えている。それは、二人には教えていないことで知る由もない。だから、玲央は余計に考えてしまうのだ。今後、なにが起こってもいいように。


「翠さん、そのくらいにしときましょう。今は言い争っている場合じゃないです。御二方の事、伝えましょう」

 唐突に涙が言葉を発した。状況を見て翠が一方的に責めているように見えたのだろうか。それとも、そうしている場合ではないと感じたのだろうか。


「は? 何のことだ?」

 涙の言葉になにか引っかかり、玲央は眉間を皺に寄せて疑問をぶつけた。

 翠と涙は目を合わせる。その様子に玲央の表情は益々険しくなる。


柚葉(ゆずは)(そう)兄さんが、事故を阻止する為に協力する事になった」

「は? お前、なに言ってんだよ。今すぐ取り消せ。二人はどこにいるんだ!」

 翠の口から発せられた言葉に玲央は怒鳴り散らす。そして、翠の元に向かっていき、服の首元を掴んだ。

「ちょっ、ちょっと。玲央さん、落ち着いてください」

 涙は落ち着かせようとするが、玲央は聞き耳を持たず、翠に突っかかっている。突っかかる理由は柚葉と蒼を思ってだろうか。

「取り敢えず、二人を呼べ。協力はそれからだ」

 玲央は冷静になると、翠の服の首元から手を離した。冷静になってはいるが、《協力》には納得していないようだ。いや、納得するはずがない。これは遊びじゃない。命が懸かっているのだ。只事ではない。しかし、翠と涙は黙っている。

「なにやってる。早く二人を呼べ。今すぐにだ!」

 玲央は沈黙に苛立ち、未だに怒りを露わにしている。その言葉に従うしかない二人は一度顔を合わせると、翠は携帯を取り出し、柚葉に連絡をした。


   ***


 玲央が怒鳴り散らす、数時間前。

『ビクターライフ』の事務所内には柚葉と蒼が居た。そこには、翠と涙もいる。柚葉と蒼が訪問し、翠と涙は戸惑っていた。だが、徐々に慣れ、翠が真相を言う決断した。

 紫弦(しづる)という男が恐ろしい事を企んでいること。それは、(かつ)て存在した茜という女性に仕組まれた、命を掛けたゲームだということ。以前、玲央の兄と柚葉を狙ったということ。涙も身近な人を狙われたこと。関わる全ての事を一から説明した。

 信じられない事実だったが、事前に色々調べていた蒼はほとんど驚かなかった。ただ、柚葉は驚いてショックを受けた。

「本当は隠していたかった。だが、二人が此処(ビクターライフ)に来るなんて思いもしなかったんだ」

 そう言って、俯く翠はとても悔しさを感じていた。翠のいうとおり、柚葉と蒼が『ビクターライフ』に来ることなど誰も予想することは出来なかっただろう。しかし、いずれは来たかもしれない。


「お兄ちゃん、御免なさい。でも、兄妹なのに、ずっと会えなかったのは寂しくて……。蒼お兄ちゃんに言ったらここにって、」

 柚葉は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべた。すると、翠は顔を上げてある方向へと目を向ける。向ける先は柚葉ではなく、蒼だ。その視線に気付いた蒼は真剣な表情で翠を見る。

「あの時からお前の様子はおかしくなった。重要な事を隠していると思って、勝手に調べた。そしたら、事故が多発していることに気付いたんだ。なにかあるんじゃないかって思った。俺に協力出来ることはないか?」

 蒼が言うと、翠は目を見開いて驚いた。翠にとっては蒼がそこまで調べていたとは予想外のことだった。

 その直後だった。車椅子の車輪が動く音が事務所内に響いた。柚葉が自分で動かし、翠に近付いていた。

「私も、力になりたい」

 不意に柚葉が言葉を発した。その声は若干震えていた。自分の身に起こった事を思い出すと、未だにあの時の記憶が蘇る事があった。怖さで震えを止める事は容易ではない。また危険に晒されるかもしれない。それでも、勇気を振り絞って言葉を発したのだ。


「柚葉は駄目だ」

 翠は受け入れなかった。兄である翠は一度命の危機に陥った妹を再び危険な目に遭わせたくなかった。それは蒼も同じだった。

「私が不自由だから? それでも、役に立ちたい」

 その眼差しは真剣そのものだ。二人が受け入れないとしても、柚葉にとっては生半可な気持ちではない。それでも、二人は受け入れず、難しい顔をする。

 そこで柚葉はある言葉を発する。

「玲央さんにお願いする。私も協力するって、」

「レオには俺から言っておく。だから、もういい。お前の気持ちは分かった」

 柚葉が最後まで言い切る前に翠が遮って言った。蒼は納得していない様子だ。それを察して、翠は付け加えるように続けた。

「仕方ない。俺が柚葉を見守りながら、出来ることをする。それでいいな?」

 その言葉に蒼は相槌を打った。


 こうして、柚葉と蒼は協力することになった。その場にいた涙は存在を消すかのように黙って見ていた。心の中では、本当にこれでいいのかと、不安になっていた。

次話更新は12月22日(日)の予定です。


マイペースですが、よろしくお願いしますm(_ _)m

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