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気がかり

*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。

 突然、事務所を後にした玲央(れお)柚葉(ゆずは)は呆然としていた。

「折角、玲央さんにも会えて話せると思っていたのに……」

 残念そうに呟く柚葉に(すい)は顔を歪ませる。

「あのな、レオにも事情があるんだよ!」

 気にくわなかったのか、怒鳴り気味に声を発する。

「ちょっといいか? 彼はどこへ行ったんだ?」

 不意に(そう)が問いかける。翠の居場所を突き止めた蒼ならば、その事情を知っているはずだ。それなのに、なぜ問いかけたのか。それは、柚葉にも分かりやすくする為でもあった。柚葉だけが翠たちのしている事を知らない。なるべく混乱させないように問いかけたのだ。

 しかし、柚葉は混乱するどころか冷静だった。そして、翠の答えを黙って待っている。

 一方、翠は答えようか迷っていたが、一度溜め息をついて、口を開いた。

「レオは病院です」

 誤解を招く一言だけだった。

「病院? 玲央さん、どこか悪いの?」

 翠の言葉に驚く柚葉。本当に誤解を招いてしまったようだ。

「いや、お兄さんのお見舞いだ」

 その言葉に柚葉は目を見開いて驚いた。蒼は納得した様子を見せた。

「お兄さん? お見舞いって事は入院してるの?」

「いや、事故で寝たきりなんだ」

「え?」

 柚葉は《事故》という言葉で驚きを増した。と同時にどこか不安を感じた。それは、自分の身に起きてしまった事がそうさせたのかもしれない。

「説明してくれないか? 今までの事とこれからの事を」

 柚葉の不安も知らずに蒼が話を進めるように言った。

「ここまでくれば、仕方ない」

 翠は諦めて全て話すことにした。この後、柚葉と蒼は信じられない出来事を耳にすることとなる。


   ***

(遅いわね。どうしたのかしら)

 心の中で呟くのは貴美(きみ)だ。数十分前、貴美は玲央に連絡し、病院に来るように言った。玲央にはなぜかと聞かれなかったので、少し安心した。まあ、理由は兄の事だろうと大抵思ったのだろう。しかし、貴美が玲央を病院に呼んだ本当の理由は違かった。それは……。


「遅れて悪い」

 病院に入ってきた玲央が貴美を見つけて声を掛ける。

「いいのよ。それより、」

 貴美は玲央に優しく言う。そして、何かを言いかけ、心配するように玲央の顔を見つめた。

「それじゃ、兄貴のところに行こうぜ」

 貴美の心配を余所に玲央は怜太(りょうた)のお見舞いに行こうと背を向けた。呼ばれた理由がそれだと思ったからだ。だが、それは違った。

 玲央が背を向けると、貴美は引き止めるように玲央の腕を優しく掴んだ。すると、玲央は貴美の行動に一瞬だけ動揺した。

「ごめんね。今日は怜太くんのお見舞いに呼んだわけじゃないの。話があって、ね」

 貴美は先程と変わって、真剣な表情になっている。

「あ、えっと、」

 思わぬ出来事に玲央は戸惑う。いったい、どうしたんだという気持ちになり始める。

「突然ごめんね。今日は玲央くんに話があるの。場所を移しましょう。直ぐ近くに喫茶店があったわよね。そこに行きましょう」

 玲央の表情を読み取ったのだろうか、落ち着かせ、場所を移すようにいった。今二人が居る場所は病院一階の外来の待ち合い室。他にも人がいて、自分たちが邪魔だと思ったのもそうだが、言い難い話でもあった為、近くの喫茶店に移動しようと提案したのだ。玲央が相槌を打つと、貴美は玲央の腕を掴んでいた手を離し、出口へと向かった。

 玲央は慌てるも貴美の後についていった。

____


「それで、話って?」

 数分後、二人は病院から喫茶店に着くと、向かい合って座った。だが、沈黙が続いた。中々切り出さない貴美に玲央は気になり、自分から切り出した。すると、貴美が下を向いた。直ぐに顔を上げた。

「あの、玲央くん。体調大丈夫? なにかあったら言ってくれていいのよ」

「俺? な、なにもないけど、」

 貴美の言葉に玲央は明らかに動揺している。隠している事がバレてしまったのか、それがどういう経緯で知られてしまったのかを考えた。しかし、思い当たる節がなかった。

「あのね、私見たの。玲央くんが怜太くんのお見舞いに来ずに病院を出ていくのを」

 唐突に言葉を切り出した貴美の表情は真剣そのものだった。

「誰かと見間違えちゃったんじゃ? 俺は隠してなんか、痛っ」

 玲央は誤魔化そうとするが、言い切る前に頭痛が襲ってきた。次第に痛みが増し、顔を歪める。

「だ、大丈夫? やっぱり、事故で負傷しているんじゃないの。怜太くんの事もあるからそうなんじゃないかと。病院戻、」

 玲央の様子に心配し、席から立ち上がろうとした時だった。

「兄貴と、一緒に、しないで、くれ。俺は、大丈夫、だから」

 玲央が貴美の言葉を遮り、飲み物代をテーブルに置くと、席を立ち上がった。そして、その場から立ち去ってしまった。途中、貴美が手を貸そうとするが、それを払い除けてしまう。

 貴美は玲央の辛そうな後ろ姿にただただ心配しながら、見送った。

次話更新は11月24日(日)の予定です。


マイペースですが、よろしくお願いしますm(_ _)m

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