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前進する気持ちと後ろめたい気持ち

*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。


(すい)はなんて言ってたんだ?」

「それが、ここに来るなって……」

「やっぱりな」

 柚葉(ゆずは)の答えに(そう)は予想していたかのような言葉を呟いた。


「柚葉はどうしたいんだ?」

「お兄ちゃんに会いたい」

「よし、決まりだな」

 即決だった。翠がなにか言おうと、柚葉はどうするか決まっていた。その性格を知っていた蒼は柚葉の決めたことに反対も説得もしなかった。というのも二人は翠のところへと向かう為に既に動いていた。

 例え、翠の場所から遠くたって便利な乗り物がある以上、直ぐに行ける場所だった。実をいうと、二人はあの時から動き始めていた。

 そして、今。ある乗り物に乗り始めていた。蒼が柚葉が乗っている車椅子を押して乗った。その乗り物は新幹線だった。

 その乗り物がある事故を起こそうとも知らずに二人は平然としている。その行動が翠を怒らせる事など思っていなかった。

   ***


 所変わってここは新津(にいづ)駅。(すい)(るい)が必死になっていた。


「あの、すみません」

 不意に翠は改札口の駅員に声を掛けた。

「はい」

 駅員が翠の言葉に返事をした。次の瞬間、翠はとんでもない言葉を発した。


「車両を止めてもら、」

 空港の時と同じ、止めさせようとしていた。だが、その時だった。

「なにしてるんですか! すみません」

 涙が翠の言葉を遮るように大声を出したかと思うと、駅員に謝罪した。それから、翠の腕を掴んで連れ去るようにその場から去った。不意を付かれた翠は狼狽(うろた)えてしまう。


「涙ちゃん」

 翠は腕を引かれたまま、涙に声を掛ける。しかし、涙は一度翠を見たものの、表情はムスッとしていた。少しの間を置くと、涙は立ち止まってこう言った。

「私たちがやるべき事はそういう事じゃないですよね?」

「そうだが……」

 涙の言葉に未だに狼狽えている。

「取り敢えず、今は玲央(れお)さんを待ちましょう。それからでも間に合います」

 涙は言葉を口にすると、溜め息をついた。

「分かった」

 翠が言うと、二人は玲央を待つことにした。


 それから、約十分後が経った。翠と涙の元へと玲央がやってきたのだが、その様子がおかしかった。いや、涙の目には玲央が苦虫を噛み潰したような、何かに耐えているような表情に見えたのだ。

「玲央さん、大丈、」

 涙が玲央に声を掛けようとした時だった。

「翠、なにか、変わった事は、あるか?」

 玲央が言葉を被せるように翠に問い掛けた。

「なにも無い。いや、柚葉が、」

 翠は何も無いと言ったが、妹から電話がきた事を思い出し、言葉を変えた。

「柚葉ちゃんが、どうしたって? まさか、紫弦の、やつ、今度は、」

 翠の言葉を聞いた玲央は最悪な考えが頭に過ぎる。


「可能性としては有りうる。だから、来るなと言っておいた」

「それでも、来るだろうな。っ!」

 玲央は呟くように言った後、突如頭痛が襲ってきた事で咄嗟に頭を抑えていた。だが、気付くのは涙だけ。翠は気付いていなかった。

「悪い、トイレに行ってくる」

 玲央はそう言って、その場から去ってしまった。玲央の後ろ姿を見つめる涙。玲央が覚束無い足取りだったせいか、涙は次第に心配の表情を浮かべた。

 それでも、翠は気にも止めなかった。



 それは突然の事だった。

『よ、眼鏡。グズグズしてっと、その時は来るぜ。いいのか? ハハハ』

 玲央がトイレに行ってくると言ってから僅か数十秒後の出来事。紫弦(しづる)から電話が掛かってきたのだ。

 紫弦の声音から余裕な事が伝わってくる。それに、嘲笑っている。

 一方、翠は黙って聞いている。


『おい、聞いてんのか?』

 紫弦は威圧するような大きな声で問い掛ける。

「……必ず止めてみせる」

『は? 出来るわけねえだろ。ハハ、』

 翠の言葉に紫弦が当たり前のように言う。しかし、翠が途中で電話を切ってしまった。

 言葉通り、今度こそ翠たちは阻止する事が出来るのだろうか。

 残り✕時間✕分。


   ***


「あの子、大丈夫かしら」

 そう言葉にするのは玲央の叔母である貴美(きみ)だ。それは、玲央が病院に来てたのを見かけた事から出た言葉だった。玲央はというと、いつもなら兄の怜太(りょうた)のお見舞いにやってくる。それなのに、あの時は見舞いには来なかったのだ。その事が気がかりでなにかあったのではと貴美は心配していた。


「玲央くんか? なにかあったのか?」

 貴美の夫である(さとる)は妻の言葉が気になり、問い掛けていた。

「それがね、ちょっと前に病院で見かけたのよ。いつもならここに来るでしょ? なにかあったのかは分からないけど、前に事故で入院したでしょ。もしかして、」

 説明するように言葉を口にする貴美。《事故》とは紫弦(しづる)が玲央に仕掛けた交通事故だ。あの時はなにも無かったと言って、検査入院だけだった。だが、怜太の事と被り、事故で後遺症が残ったのではと貴美は思うようになった。その後、たった数十秒だったが、目の前の怜太の顔を見守るように眺める。

「あまり深く考えてもよくない。気になるようだったら、怜太くんのお見舞いの時にでも聞くといい」

「それもそうね。なにも無いことを願うわ」

 貴美は納得するが、安心はしていない。心配してもそれが本当かは分からない。ただなにも無いことを強く願うことしか出来なかった。

 そうして、貴美と暁は怜太の側にいて、時間を過ごしたのだった。

次話更新は9月29日(日)の予定です。


何かあれば、コメントよろしくお願いします。

ブクマ、評価、感想などもお待ちしております。


マイペースですが、よろしくお願いしますm(_ _)m

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