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損傷の裏には

*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。

「レオはいったいどこに行ったんだ!」

 言葉を口にするのは(すい)だ。約数十分前に遡る。空港に居た(るい)と翠は紫弦(しづる)の次の予告に動くために、ビクターライフという事務所に戻ってきていた。空港で悲惨な光景を目の当たりにし、状況も気になるところなのだが、長居してはいけないと思ったのだ。次の予告でまた何かあってはならないと冷静になった。しかし、事務所に戻ってきたものの、そこに居るはずの玲央(れお)が居なくなっていた。

 冷静を取り戻したはずの翠だったのだが、再び焦りを見せ始めていた。というのも、玲央が狙われた事があったことの心配と、玲央に協力してもらおうとしていたからだった。あれから、玲央に連絡がつかないままだ。

「あの、翠さん。一旦落ち着きましょう。玲央さんは戻ってきますよ」

 落ち着きを見せる涙は何度目かも分からない言葉で翠を落ち着かせようと言葉を掛ける。

「いつ、戻ってくるんだ? 時間がないんだ。直ぐに戻って来ないと意味がないんだ!」

 涙の言葉で落ち着くばかりか、更に焦りを見せて、声を張り上げる翠。

「そ、それは……」

 責め立てられるように言葉を返された涙は戸惑う。戻って来るとは言ったものの、涙にも玲央の居場所が分からなかった。直ぐに戻ってくるとは限らない。もしかしたら、また危険な目に遭っているかもしれない。そんな考えが頭の中に浮かんでいた。

 その時だった。不意に事務所の扉の開閉音が二人の耳に聞こえてきた。


「レオか? どこ、行ってたん、だ、」

 翠が声を発した次の瞬間、一人の人物が入ってきた。その人物は玲央だったのだが、どうにも普通の姿ではなかった。

 手の甲と頭からは血が流れていた。手の甲は痣まで出来ていた。その姿に翠と涙は驚いた。一度危険な目に遭っている玲央に再び何かあったのだろうか。


「玲央、さん?」

 涙は恐る恐る問い掛ける。すると、玲央は口を開く。

「悪いな。紫弦から何かあったんだろ?」

 しかし、口にしたのは意外な言葉だった。自分の姿に気付いていないのだろうか。いや、血を流していて、見るからに痛々しい姿だ。自分でも気付いているはずだ。

「おい、そんなことより何があった?」

 玲央の第一声に翠は驚きもせず、冷静に問い掛ける。

「これか? 子供(ガキ)を助けただけだ。問題無い」

 翠の言葉で漸く血を流している理由を説明した。言葉の通り、玲央は平然としている。

「取り敢えず、傷を手当てしましょう。話はそれからです」

 不意に涙は口にする。その場に居た翠と玲央は涙の言葉にあっけらかんに眺めている。その言葉は予想外だったらしい。

 初めて、ここ『ビクターライフ』に来た時とは明らかに成長していると、二人は一瞬ふと思った。日はそんなに経っていないのにだ。

「時間がないんですよね? 早くしましょう」

 ポカンと口を開けて突っ立っている二人を見兼ねて涙は急かす。


「そうだ。時間が無いんだ。早くしてくれ」

 涙の言葉に翠は我に返った。

「わ、悪い。急ごう」

 玲央も我に返ると、慌て始めた。そうして、玲央の傷の手当てを終えると、三人は次だと思われる場所に行く為に準備をしたのだった。

 二人は玲央が負った怪我の本当の理由など知らなかった。


   ***


 翠と涙が事務所に着く少し前。玲央は兄の怜太(りょうた)がいる病院に向かうと思われた。しかし、違った。

 玲央は病院近くのある公園に来ていた。そこで一人、ベンチに腰をかけていた。

(俺に出来ることって言ったら他に何があるんだ? クソ、分からねえ……)

 玲央は悩んでいた。先程まで図書館に居たのだが、知りたい情報が手に入らなかったのだ。そのせいか、自分の出来ることで悩み、悔しさを痛感せずにはいられなかった。何分かが経った頃、玲央は立ち上がった。

「一旦、事務所に戻るか。二人が戻ってくる前に行かなきゃヤバいことになりそうだ」

 玲央は自然と呟き、事務所に向かった。そのまま、事務所に無事辿り着けるはずだった。しかし、事務所に向かう途中、玲央はある人物を目にする。その人物は翠と涙だった。素早く隠れる事が出来た為、バレずに済んだのだが、状況としては良くない。

(バレてねえよな。この後、どうすりゃ……)

 その瞬間、ある事を思い出した。咄嗟にポケットから携帯を取り出した。通知を見ると、幾つもの着信が来ていた。

(やべえ、直ぐに戻らねえと、)

 玲央は呟き、動こうとした時だった。


「う、嘘だろ。チッ、こんな時に、」

 頭に強い痛みが襲ってきたのだ。玲央は耐えきれず、思わず頭を抑える。ポケットを探るが、薬が見当たらない。事務所に隠し置いてきてしまったのだ。

「痛え。けど、立ち止まってられねえんだよ!」

 突然、目の前の石壁に頭を打ち付けた。それも一度だけではない。

「収まれ。この、クソッ」

 尚も頭を打ち付ける。玲央はこの時、悪化することなど考えもしなかった。一刻も早く、痛みを抑えたかったのだ。次第に頭だけじゃなく、痛みに耐えようと必死になり、無意識に拳で石壁を殴っていた。痛みが収まった頃、玲央の頭と手の甲からは血が出るほどの状態になっていた。

 玲央は眩むが、それも一瞬の出来事で、なにも無かったように歩き始める。

 先程は周りに人などいなかったのだが、歩き始めて、玲央の姿を不審に思う視線が向けられた。心配そうにする視線はほぼなかった。その理由は玲央の容姿と状態からだろう。ヤンキー姿で拳と頭から血を流していれば、怪しまれるのは当然の事だ。

 玲央は気にすることもなく、そのまま事務所へと向かっていった。

玲央の怪我の本当の理由を知らないまま前を進む翠と涙。

今後、玲央はどうなってしまうのだろうか。


次話更新は9月1日(日)の予定です。


何かあれば、コメントよろしくお願いします。

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マイペースですが、よろしくお願いします。

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