用意と始まる悲劇
*この小説はフィクションです。実在の事故・人物とは一切関係ありません。
「ハハハ。眼鏡の野郎、気付いていないみたいだな。この調子じゃ全滅も遠くないな」
嘲笑いながら呟くのは紫弦だ。紫弦は目の前の画面を見ていた。その画面には翠と涙が映っていた。あの時、翠は紫弦が近くに居ると感じた。だがしかし、それは違ったのだ。
翠と同じようにパソコンを弄るのが得意である紫弦は空港の監視カメラを上手く乗っ取り、翠と涙を画面越しに見ていたのだ。普通ならば、乗っ取られていると、管理などに容易く気付かれる可能性があるだろう。それを上手く躱すのが紫弦だ。現に今までの事故だって操るように仕掛けた人物でもある。誰が紫弦を止められるだろうか。
「周りを見渡したって無駄だな。精々頑張れ。ハハハ」
誰に言うまでもなく、紫弦は言葉を口にして再び嘲笑った。そして、パソコンの画面を切り替える。すると、デジタルの数字が逆戻りされる画面に切り替わった。それは、まるでカウントダウンのようで、紫弦が指定した時間にゆっくりと動いている。
「残り約一時間を切ったようだな」
時間を読み上げるように呟く紫弦。制限時間をも表しているこの時間が零になると、なにかが起こるのは間違いない。悲劇の始まりに刻一刻と忍び寄る。
翠と涙は紫弦が考えていることなど知らなかった。
***
「そういえばね、お兄ちゃんから久々に連絡があったんだ」
「え、翠から? どうだった?」
会話するのは翠の妹の柚葉とその従兄弟の蒼だった。蒼は柚葉の五つ上、翠の一つ上である。なんでも、昔から柚葉と翠に優しく、二人の世話をよく見ていた。柚葉は久々の兄の翠から連絡があった事を思い出し、蒼に伝えた。
蒼は驚いたが、それも一瞬の事で身を乗り出して問いかけた。柚葉は直ぐに答えた。
「いつも通りだったよ。私に会わせたい人がいるって。それと、大事な話があるらしいの」
柚葉が言うと、蒼は眉間に皺を寄せた。
「もしかして、彼女が出来て結婚を? そんな事している場合じゃ、」
「違うって言ってた!」
蒼の言葉に真っ先に否定をする柚葉。
「違う? じゃ、まさか、」
蒼は驚かず、冷静に思考を巡らせる。そして、思いついた考えを口にした時だった。
「私、お兄ちゃんのところへ行く」
突然、柚葉が言葉を口にした。言葉を聞いた蒼は目を見開いて驚いた。
「大丈夫か? 俺も一緒に行く」
蒼は言うが、柚葉は首を横に振る。
「私一人で行く!」
柚葉は大きな声を出す。その目は真剣そのものだった。しかし、柚葉の言葉は叶わなかった。なぜなら……。
「車椅子のお前が一人で行くのは危険だ。俺も翠に確かめたい事があるから行く」
柚葉が誰かの助け無しでは生活出来ない身体で、それも車椅子という壁があったからだ。
「仕方ないか。お兄ちゃんだけじゃなく、久々に玲央さんにも会いたいな」
不意に柚葉が声を出す。すると、その言葉に難しい顔をする蒼。いったい、なにがそうさせたのだろうか。それはすぐに分かることだった。その後、二人は話し合って、翠のところへと向かうことになった。
この時二人は知らなかった。刻一刻と迫る時間を。
***
「翠さん!」
突如、涙が声を上げる。しかし、翠は気付かず、辺りをキョロキョロと見渡している。
「翠さん、なにしてるんですか!」
再び声を上げる涙。すると、翠はハッと我に返る。
「あ、悪い。急ごう」
「ちょっと待ってください!」
涙の姿を見て、翠は動き出そうとするが、止められてしまう。眉間に皺を寄せ涙の言葉を待った。
「冷静になりましょう。今の翠さんは焦りが見えて、その、今のままでは紫弦さんにやられてしまいます」
涙の言葉に翠はキョトンとしてしまう。
「涙ちゃん、」
「一旦、落ち着きましょう」
翠は今の涙に感心して、小さく呟くも涙の言葉に遮られてしまった。それから、僅かな休息をとった後、二人は行動を開始した。
____
それは、突然だった。物凄い爆音が翠と涙の耳に届いた。
「今のはなんですか! 物凄い音がしましたけど、」
涙が爆音に驚き、翠に問い掛けるように話し掛けたのだが、翠は既にそこには居なかった。
「翠さん、どこに行くんですか!」
翠は爆音を聞くと、直ぐにどこかへと駆け出していた。涙が大きな声で呼び止めても届かなかった。
「おい、あれはなんだ?」
「え、嘘でしょ?」
突如、涙の耳に周りの人のざわめき声が聞こえてくる。涙は声のした方へと振り向く。すると、信じられない光景が視界に入った。
「え?」
分厚い窓ガラス越しの向こう、少し遠くに映る一機の飛行機の周りに火が燃え上がっていたのだ。
いったい、なにが起こったというのだろうか。
やっと動きが!?
次話更新は7月21日(日)の予定です。
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