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焦りと落ち着きと

『そんな事はどうでもいい。今から三時間後にとある場所で起こる。止めてみせろ』

 それは約数分前の出来事。


 突然、(すい)の携帯に掛かってきた電話。その電話の向こうで紫弦(しづる)が言い放った。事務所に居た翠は電話が切られると、その場に玲央(れお)を残したまま飛び出してしまった。玲央は翠に言われたまま、(るい)が来るのを待った。一旦落ち着こうと椅子に座ろうとした瞬間だった。突如、頭痛が襲い掛かり、咄嗟に手で頭を抑えた。そして、椅子に座らず、ある物を手にする為に頭を抑えたまま移動した。


 数分後、やっと椅子に座れた玲央は何かを飲み終えた後なのか、今まで水が入っていたと思われるグラスをテーブルに置いた。それから涙が来るまでの間、暫く座って俯いていた。


 不意に事務所の扉の開閉音が聞こえてくる。誰かが事務所に居る玲央に近付いてきた。

「玲央さん?」

 項垂れる玲央に声を掛ける人物。涙だった。涙の声に玲央はハッと顔を上げる。

「涙ちゃん」

 玲央はたったそれだけの言葉を発すると、ポケットから携帯を取り出す。どこかに電話を掛けた。涙はいつもと違う玲央の様子を不思議に思った。

「翠、涙ちゃんが来たぞ」

『涙ちゃんに代わってくれ』

 玲央は翠に電話を掛けたようだ。玲央は翠に涙ちゃんが事務所に来たことを告げる。

「ほら、電話」

 すると、唐突に玲央が涙に携帯を差し出した。

「え?」

 あまりにも唐突すぎて、涙は脳内追いつかず、疑問を浮かべる。

「翠が涙ちゃんにって」

「あ、はい」

 玲央が説明するように言うと、涙は返事をし、携帯を受け取った。

「もしもし、翠さん」

 電話の向こうに呼び掛ける涙。次の瞬間、思ってもない翠の大きな声が涙の耳に届いた。

『涙ちゃん、今から東第二前の近くまで来てくれ』

 その声は焦っている様子だったのだが、その理由が涙には分からなかった。それを察したか、それとも涙がもたもたしている事に勘づいたのか、翠は付け足すようにこう言った。

『奴から次の予告がきたんだ。時間がない。とにかく急いでくれ』

「え、でも、玲央さんも」

 翠の言葉に涙は咄嗟に玲央のほうへと顔を向ける。涙の視線に玲央は言いたい事が分かっているかのように首を横に振る。

『レオが下手に動くと紫弦にバレるかもしれない。だから、事務所に残ってもらう』

 翠の言葉に涙は再び玲央のほうを振り向く。今度は軽く首を縦に振った玲央。電話越しといえど、翠の言うことが分かっているようだ。


「分かりました、直ぐに向かいます」

 涙は電話の向こうの翠にそう言うと、携帯を玲央に手渡した。無言で携帯を受け取った後、玲央は翠と一言二言だけ言葉を交わし、電話を終えた。その後、涙は玲央に振り向くことなく直ぐに事務所を後にした。事務所を出ていく際に玲央が手にしていた物が一瞬頭を過ぎって不安になった。

 それが今後想像したくない事が起きると知るのに時間は掛からなかった。


   ***


 一方、翠は事務所を飛び出していった後、ある乗り物の場所へと向かった。紫弦から告げられた次の予告からの行動。正確には予告されたというよりはカウントダウンをされただけで場所までは告げられなかった。だが、翠には検討がついていた。

 翠はスピードを落とさずに走り続ける。段々と息が荒くなるが、それどころではなかった。しかしながら、普段パソコンを弄っているばかりの翠の体力は限界の一歩手前まできている。それでも諦めずただただ目的の場所まで急ぐ。途中、バスに乗る。目的の場所まで残り僅か。紫弦が指定した時間も迫ってきている。

 バスを降り、乗り換えようとしたその時、突如、電話が鳴り出す。翠は躊躇うことなく電話に出た。


『翠、涙ちゃんが来たぞ』

 電話の相手は玲央だった。


「涙ちゃんに代わってくれ」

 翠は直ぐ涙に代わるように言った。そして、向かってほしい場所を指示した。翠の言葉に涙が戸惑った様子を見せたが、翠は玲央を置いていった事を思い出した。


 数十分後、ようやく涙と翠は待ち合わせ場所で会うことが出来た。二人は先程、翠が向かっていた場所へと急いだ。その場所は涙には知らされていない。翠の後を黙ってついていく涙。そして、辿り着いた場所。そこは涙の予想を上回る、遥かに広い場所。空港だった。


「どういうことですか?」

 涙は広い空港に圧倒されつつも、翠に問い掛ける。翠は涙の言葉に耳を傾ける事はなく、先を行こうとする。まるで涙の存在を忘れたかのように、何かを確かめようとしている。

「翠さん!」

 涙が呼び止めようとするが、翠は気付かない。仕方なく涙は必死に後を追う。

 人をかきわけて進んでいく。翠はいったいどこに向かっているのか涙には分からない。ただただ見失わないように進む。

 暫くして、ある場所に着く。そこは荷物検査の場所だった。ここを通らないと搭乗ゲートにはたどり着かない。しかし、二人は乗るつもりは無い。それなのに翠がここに向かった理由を涙は知らない。

「あの、翠さん。待って下さい!」

 涙は再び必死に呼ぶが、それでも翠は気付かない。そして、翠はそのまま保安検査員に訪ねた。いや、頼んだのが正しいだろう。


「あの、今から六番ゲートの便を欠航にしてください。お願いします」

 それは考えられない言葉だった。保安検査員に頼むのはおかしいとは思うが、翠は必死になっていた為、正常な判断を見失いかけていたのだ。

次話更新は4月7日(日)の予定です。

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