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あの時と重なる記憶に

 ふと、玲央(れお)がリモコンを取って、テレビを付けた。テレビは以前から事務所にあったものの、涙が訪れてから付けていなかった。テレビに映像が映ると、その場に居た(るい)と玲央は驚くべき事を耳にした。


『次のニュースです。昨日(さくじつ)、突如、車道を走っていたバスが蛇行し、建物に衝突しました。死傷者二十名、そのうち亡くなったのは、』

 テレビに流れた映像は事故のニュースだった。その場に居た涙は唖然とした。玲央は悔しそうに表情を歪ませている。


「チッ。クソっ、遅かったか」

 舌打ちをする玲央は顔を曇らせた。


「さっきのも紫弦さんが?」

「そうだ。あの時の事故と似てやがる」

 涙の疑問に玲央は答えると、怒りに満ちたような表情で言う。


「あの時の事故?」

 バス事故も紫弦(しづる)が起こした事故だと断定出来ない涙は玲央の言葉を耳にしてもピンとこなかった。過去に似たような事があったか思い出そうとした。

 しかし、思い出そうにも似たような事故がなにか分からなかった。それは、以前から事故が多くバス事故も一件だけではなかったからでもあった。


(すい)さんにこの事を伝えないと」

 涙はハッと我に返り、咄嗟に口にする。だが、涙の言葉に玲央は首を横に振った。

「いや、その必要はない。翠はいつもパソコンを触ってる。俺より早く情報を知っていたかもしれない。それに紫弦からも、」

「それじゃ、翠さんは何も言わずに一人で紫弦さんと?」

 確かめるように問い掛ける涙。


「その可能性はあるな。涙ちゃん、冴えてるな。事故があった現場に行くぞ」

 涙の言葉に玲央は首を縦に振った。

そして、なにを思ったのか、涙に事故現場に行こうと急かすように言った。


「え? は、はい」

 涙は素っ頓狂な声を出すも、咄嗟に返事をする。

 それからはというもの、二人は早々と準備をすると、直ぐ様に事務所を後にした。


   ***

(紫弦はいったいなにを考えている? またあの時を呼び起こそうとしているのか?)

 翠はふと心の中で呟く。事務所から外に出ると、ある場所に向かっていた。玲央と涙に『外の空気を吸ってくる』とは言ったものの、それは単なる口実にすぎない。翠しか知り得ない情報の一部が送られてきていた。その内容と添付された画像が頭の中で《何か》が引っ掛かっていた。


(それに既に計画が実行されてきている。それもなんとかしないと、な)

 翠が考え悩み続けている時だった。唐突になにかにぶつかった。その衝撃で翠は我に返った。すると、なにかにぶつかった痛みで咄嗟に当たった頭を抑えた。


「すみません」

 翠は誰かにぶつかったと思い、謝った。しかし、次の瞬間ある事に気付いた。目の前のもの。それは、電柱だった。

「電柱か……」

 翠は呟き、再び歩きだそうとした。


「ふふふ」

 不意に翠の耳に笑い声が聞こえた。辺りを見渡すと翠を見て笑う通行人。その時、翠は少しばかり恥を感じた。それから、ある場所に足を向けた。

 その場所とは玲央が向かおうとしている《事故現場》だった。


   ***


 玲央と涙は電車を乗り継ぎ、電車を降りていた。目的の事故現場へと歩を進めていた。

 突然、玲央が立ち止まる。

「ここ、ですか?」

 急に立ち止まる玲央の様子に涙は問い掛ける。

「いや、正確にはもうちょい先の道路だ」

 玲央はもう少し先の方角を指差した。二人が居る場所から見えにくいその先には十字路がある。

 玲央はその場所を目指して歩き出すが、涙は立ち止まったままだ。涙の中であるものが呼び起こされていた。


「どうした? 置いていくぞ」

 立ち止まっている涙に気付いて呼びかける。その声に涙はハッと我に返り、玲央の後を追うように歩き出した。

 それから二人は目的の場所へと少し急ぎ足で向かった。


 二人が五分程歩くと、視界には献花台が目に映った。事故から翌日に献花台が置かれることは早い。まるで事故を想定しているかのような、そんな気がしてならなかった。その献花台の前には眼鏡を掛けた男が一人、黙祷していた。その男をよく見ると、玲央と涙の知る人物、翠だった。

「翠さ、」

 涙が翠の名前を呼び近づこうとした時、玲央が腕を掴んでそれを制止した。涙は不意に自分の腕を掴んだ玲央を見る。すると、玲央は黙ったまま首を横に振った。その仕草に何かを察し、翠をじっと待った。

 翠は直ぐに黙祷を終えて、その場から離れようと振り返ったその時、翠の視界に二人の姿が映った。


「レオと、涙ちゃん。さっきは悪かった」

 二人の姿を見た後、直ぐにその言葉を口にした。

「それはもういい。それより分かったことがあるんだ。俺たちも黙祷を捧げるから少し待ってくれ」

「分かった」

翠はさっきまで玲央と事務所で言い争っていたとは思えないほどに冷静さを取り戻していた。もしかしたら、献花台で黙祷し気持ちが冷静になれたからだろう。玲央はそんな翠を気にもせず、涙と献花台の前に立った。

 そして、二人は黙祷を済ませると、待たせていた翠の元に寄った。


「それで、分かった事っていうのは、」

 二人が自分の元に来ると、翠は早々に話を切り出す。

紫弦(ヤツ)はあの時を繰り返そうとしているんだろ。ここで起きた事故はあの時と似ている」

 翠の言葉に玲央は予想していたようだ。


 翠と玲央がいう《あの時》という言葉に涙は未だに過去から《何か》を引き出せていなかった。

次話更新は3月10日(日)の予定です。

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