表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5 接近

 5話です!

 鈴木くんが男になるのか?!

 体育倉庫爆破の翌日。その日は休校だった。

 もちろん、犯人が捕まったという連絡はなく、知らない人達は不安だろう。俺も犯人を知っているからといって、心にゆとりがあるわけでもない。

 俺は、火野桐花からの着信で目が覚めた。

「…もしもし。」

『やっほー、鈴木くん!おはよう〜!』

 彼女の気に障る声が耳から耳へ駆け抜けていく。俺はあからさまに不機嫌そうに言った。

「切るよ。」

『なんでーーー?!』

「休みの日くらい、寝かせろよ。」

『平日でーす。もうすぐ9時でーす。世の中の高校生は勉学してまーす。』

 こみ上げる腹立たしさを抑えながら、俺はベッドから這い出た。

 おかしなテンションのやつのせいで、眠気はどこか行ってしまった。

 だが、人に電話で起こされるなんて、初めてのことだ。

「君のおかげで、俺達は勉学しなくて済んだんだけどね。」

『そーそー! 君みたいに、みんなも感謝して欲しいよねー!』

 別に感謝したつもりはないが…。俺はくすっと笑い、ベッドの上に座った。

 もう、今、彼女が爆弾魔だという恐怖心はない。むしろ、それを受け入れて、素直に接していられる自分がいるのに驚きだ。

 今、俺は火野桐花の声しか聞いてない。誰かとこうしてたわいない会話を電話でするなんて。

「それで、何の用?」

『今日、一緒に出かけない?』

「あー、うん。分かった。」

 俺がすんなり受け入れたことに、彼女はびっくりしたようだった。少し声が上ずって、咳払いをしていた。

『絶対、断ると思ったー。』

「そりゃあね。協力することになったから。どうせ、普通のお出かけじゃないんでしょ?」

 火野桐花は数秒黙って、そうだよと言った。明るいトーンが数段下がる。別に元気じゃなくなったというのではなく、爆弾魔の声になったという具合だ。

 さすがに、俺もこの変わり様には慣れた。

『今度、爆破するところの下見がしたいの。』

「なるほど。まあ、大事だもんね。分かった、付き合うよ。」

『やけに親切だな。何かあったの?』

 俺は昨日のことを思い出して、途端にかっと顔が熱くなるのを感じた。

 あの時…俺は…。

 頭を抱えていると、電話越しに彼女が俺の名前を呼んでいた。

『とりあえず、場所と時間は後でメールで連絡しよう。鈴木くんは早く着替えるのね。』

「はいはい。了解。」

 電話が切れて、体がどっと重くなった。そのままベッドに横になる。

 窓から光が差し込み、多少暖かくなっているが、布団を掛けないでパジャマ1枚だと寒い。

 でも、顔を鏡で見たら、きっと真っ赤なんだろうな。

 昨日のことが頭から離れず、俺はベッドから動くことができなかった。




 昨日、パン屋にて。

 俺も火野桐花の買ったパンを食べていた。

 すると、彼女が2本ペットボトルをバックから取り出し、にこやかに言った。

「コーラとウーロン茶どっちがいい?」

「コーラ。」

 彼女いわく、パン屋の中の自動販売機で買ってきたそうだ。俺のそばにどすんとコーラを置くと、頬杖をついてじっとこっちを見ていた。

 何だろうと怪しみながら、フタを開けるとぷしゅううと音をたてて中身が吹き出た。俺はもちろん、顔も学ランも濡れ、コーラの匂いが一気に体中から漂った。

 火野桐花はというと、1人でケタケタ笑いながら、お腹を抱えていた。

「はははは! 1回これ誰かにやってみたかったんだよね〜!」

 爆弾の話が冷徹極まりなかっただけに、この小学生並のいたずらを、俺はどう受け取るべきか分からなかった。

 無言で、ハンカチで顔などを拭き、彼女が次にどうでるか待つしかない。

 彼女はウーロン茶を開け、ごくりと飲むとようやく笑いを抑えた。

「ダメだよ、鈴木くん。出されたコーラは疑わなくちゃ。」

「まさか、君がこんな幼稚なことやるなんて想像つくわけないよ。」

 やれやれとため息をつき、俺は溢れ出たコーラに手を伸ばしてやめた。

「君は面白いよ。」

 そう火野桐花が言うと同時に、俺は彼女が飲んでいたペットボトルを奪うと、一気に口の中に入れた。

 なぜ、あんなことをしたのか今でも疑問だが、要するに悔しかったんだと思う。

 完全に火野桐花の手のひらの上で転がされ続けている気がして。

 俺も一応、男だから。彼女に黙っていろいろされ続けるのは、いくらなんでも―。

 その時の彼女はどんな表情をしていたんだろう。

 ぷはあと飲み干し、空のペットボトルを彼女のそばに戻す。

「分かってくれる? バカにしてると、俺だって男だから、何するか分からないよ?」 

 火野桐花はぽかーんと俺を凝視していた。だが、やがてうつむいて、くくくと引きつった笑い声を上げる。

「さすがだね、鈴木くん。やっぱり君は面白い。でも、私を一泡吹かせようなんて100年早いんじゃない?」

 すると、彼女は突然立ち上がり、俺の方に顔を近づけ、前かがみになった。

 まばたきの一瞬に、彼女の唇が俺の頬に触れた。1秒もないほどの早さで。

 そのことに気づいたのは、火野桐花が再び座ってからだ。それまで、自分に何が起きたかがさっぱり分からなかった。

「私の勝ちだな。」

 そう言いつつ、彼女も耳を真っ赤にしてうつむいていた。

俺はそうもじもじする彼女をただ眺めていた。普段の女子高校生でも、爆弾魔でもない、俺だけのかわいい姿。

 そして、俺も勢いで関節キスしてしまったことを多いに反省した。



 はっと気づくと、すでに10時に近かった。

 俺は慌てて、ベッドから飛び起きた。

 一旦、昨日のことは忘れなくては。今日は下見だ。

 俺はクローゼットを開けて、高鳴る胸を抱えて準備を始めた。

読んでいただきありがとうございます!

感想待ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ