4 変人
4話です!
鈴木くんがわりとしゃべります。
ぜひ読んでください。
火野桐花に促されるまま、俺たち2人はコンビニのそばのパン屋に入った。
何か食べたい?と彼女が聞くので、俺はいらないとだけ答えた。
席取っておいてと言って、彼女はうきうきしながら主婦や学生の列に並びに行ってしまった。
入口に1番近いテラス席に座り、荷物を椅子に置いて、ほっと一息ついて考える。
まるでデートだ。生まれてこのかた、母親や親戚以外の女性と2人で、ご飯なんか食べたことがない。
ましてや、この女はただの女じゃない。爆弾を学校に持って来て爆発させるような、ヤバい女だ。
逃げてしまおうかなどと思いあぐねていると、てんこ盛りのパンをトレーに乗せて、火野桐花が戻って来た。
「お待たせしました〜! ここのパンおいしいくてさ、ついついいっぱい買っちゃうんだよね。でも、ここで全部食べないよ。妹と弟の分もあるし。」
これが、俺が爆弾を見つけるまで知っていた火野桐花。元気で明るくて少し天然の、普通の女子高生。
俺はじとっと彼女に、不信感をあらわにする目を向けた。
「お話って何?」
彼女はああ、それねと言いながらメロンパンをちぎって頬張った。そして、それをごくりと飲み込んで、俺を真っ直ぐ見た。
「君は、私のロッカーの中を見たんだよね。」
今さらごまかしても無駄だと思い、うなずいた。そして、彼女はまたメロンパンをちぎり頬張り、飲み込む。
「今日のあれは、私の犯行だと思う?」
俺は再びうなずいた。彼女はというと、普通の女子高生の顔を消し、俺しか知らない爆弾魔の表情を見せた。
「正解、鈴木くん。あれは私がやった、つくった。なかなかのものでしょ。」
得意になっているのか、胸をドンと叩く。俺が何か言おうと迷う間に、彼女は続けた。
穏やかなジャズのBGMとは対照的に、彼女の発する言葉はおどろおどろしい。
「まだ、あれは試作品だし、初めてつくるから小規模のものにしたの。後々、もっと大規模なものをつくって仕掛けていくつもり。だけど、まさか君にロッカーを覗かれるなんて、想定外過ぎることが起きるなんてね。」
俺は黙ったまま、彼女の言っていることを噛み砕いて理解しようとした。
まだ火野桐花は爆弾をつくり続け、犯行ヒートアップさせて行く…。身の毛がよだつようなことをするやつが、今目の前にいるのだ。
「本当は、ロッカーを見られた時点で君に何らかの危害を加えるっていう手もあった。だが、君は誰にも口外しないだろうと直感でそう思った。警察に行くとか、面倒臭がりそうだし、君は。」
うつむく彼女は、やはり普通の女の子の優しい表情だった。どこか、寂しげな雰囲気も含まれていた気がする。
「君は、俺をどうしたいの?」
「協力しなさい。」
はっきりと言われた。ただ、それほど驚きはしなかった。俺が何もしないからって、彼女が俺を放っておくわけがなかった。
俺には火野桐花を警察に突き出す気はない。
理由は、彼女が言う通り、面倒だから。ドラマに出てくるような怖い刑事に事情を聞かれ、あーだこーだ答え、裁判とかにも出席しなくてはならないのなら、いっそ最初から何も言わなければいい。
この先、火野桐花がいくら爆破を繰り返そうが、俺にはあまり関係ない。
「嫌だ。」
「拒否権はないよ。」
「爆弾使ってる危ないやつに、協力するようなリスクは負いたくないね。」
俺が帰ろうと立ち上がると、火野桐花はニヤニヤしながら俺を見上げていた。何だよと投げ捨てると、彼女は1言ボソッとつぶやいた。
「君の住んでいる場所は蔵脇町3丁目の○○○の☓☓☓。電話番号は☆☆-△△△△。亅
「…は?」
それから、火野桐花は次から次へと俺の個人情報を並べていった。
誕生日、血液型、出身幼稚園から中学校、家族構成、両親の勤め先、さらにはスマホのメールアドレスや電話番号まで。
「いろいろ調べさせてもらったよ。」
「脅してるの?」
おそるおそる聞きながら、俺はもう一度椅子に座った。
周りの客達は、異彩を放つこのテーブルにいぶかしげに視線をやり、避けている。おかげで、テラス席には、俺ら以外誰もいなくなった。
彼女はそれに気づいているのかいないのか、同じ調子で言う。
「そうだよ。これをバラまいたっていい。それか、やっぱり口封じしてもいいよ。」
「できるの?」
「今日使った爆弾の余りがバックに入ってる。亅
無防備だな。
火野桐花にとって爆弾は、学生にとっての筆記用具みたいなものなんだろう。
「こんなところで使ったら君が捕まる。」
「そんなヘマしない。ちゃんと考えて使う。それに、爆弾なんか使わなくても、君のことくらいいくらでも殺せる。亅
無意識にため息が出た。
かつて小学校の先生が言っていた。1番大切なのは自分の命です、と。
普通だったらただの脅しじゃんと、流せるかもしれないが、爆弾を現に爆発させた女なのだ。殺すと言ったら、本気でやる。
「どうして、俺を協力させたいの?」
「1人じゃ、つまらないじゃん。」
再びため息。
平穏な日常とかけ離れたこの女に、俺はついて行く自信がない。
でも―。
「君が捕まっても、俺のことは言わないでね。」
「捕まらないよ。っていうか、ようやくやる気になった?亅
彼女は身を乗り出して、顔を子供のように輝かた。
違うよと俺は首を振った。
面倒だけど、死ぬよりはまだましだから。
火野桐花に協力して、俺が得るメリットはほぼゼロ。あまりに理不尽な契約だ。
俺は火野桐花に右手を差し出した。
「じゃあ、よろしくね。爆弾魔。」
彼女は意外だなと目を丸くしながらも、俺の手を握った。
「よろしく、鈴木くん!」
1人じゃつまらないじゃんと、火野桐花はさっき言った。だけど、本当は「1人じゃ寂しいじゃん」ではないだろうか。
彼女の本当の姿を知っているのは、この学校で俺だけ。気は進まないけど。
もうこれも、俺の運命なのだ。
抵抗したって、何とかなるものじゃない。
いっそ、火野桐花と歩んで行ってよかったと思うくらいのことをしてやろう。
俺は、彼女が買ったパンの1つをもらって、口に含んだ。
いかがでしょうか!
情景描写が下手ですね…
アドバイスがあると嬉しいです!
感想もよろしくお願いします!