3 不穏
3話です!
ようやく鈴木くんと桐花以外の名前がある登場人物が出て来ます!
わりと重要キャラかも…?
ぜひ読んでください!
俺たちは体育館の東側のドアから一目散に走って、校庭へ逃げた。その際、割れた窓から黒い煙が体育館にもくもくと入って来た。
我先にとみんなが狭い出口からもみくしゃになりながら出て行ったため、火野桐花を完全に見失った。
体育倉庫が爆発したのだ。
火野桐花がやったのだ。
走りながらも、さっきの彼女の笑みが頭から離れなかった。
やがて消防車やパトカーが到着し、消火活動が始まった。
生徒たちはただただ不安な表情で、事の成り行きを見守っている。先生たちはというと、「落ち着いてください」を連呼しつつ、動揺を隠せないでいる。
俺もぼーっと黒煙を眺めていると、クラスメイトの大上流が俺の脇腹をつついた。
こいつは、陸上部長距離走のエースで、全国大会にも出るような実力者。そのくせ、成績は下の下で、授業も時々サボり、進級も早くも危ぶまれている。そこそこな進学校のこの学校で、少々浮いた存在で、友達もそんなにいないが、同じく人付き合いが苦手な友達の少ない俺には気楽に話しかけてくる。俺も別にそれを拒んだりしない。
さっきの避難のせいで、ただでさえひどい寝癖があらぬ方向に立っている。
「何なんだこりゃ。」
「さあ?」
俺は生返事だけして、大上の方を見なかった。
火野桐花がやったのだとはどうしても言えなかった。ロッカーの爆弾を本当に爆発させるやつなら、他人に口外した人間をためらいなく殺すこともするだろう。
「っていうか、そっちで何やってんだよ。今、点呼してるんだぞ。」
気がつくと、周りはクラスごとに並んで座っていた。俺も大上のあとについて行き、クラスの人たちのところに腰を下ろした。
すると、あれ、とふと思った。
あいつがいない。
この騒ぎの張本人がクラスの列にいない。
「桐花、どこ行っちゃったの?」
体育館で火野桐花になだめられていた友達が、顔を涙でくしゃくしゃにして叫んだ。
おそらく、体育館に残っているなら、窓からの煙を吸ってしまえばただじゃ済まない。
爆発のときの雰囲気からして、きっと見に行っているのだ。自分が仕掛けた爆弾の成果を。
嬉しそうにどこからか、ほくそ笑んでいるに違いない。
1時間程で、煙が収まり火もほとんど消し止められた。
俺たちはようやく教室に戻ることができたが、その間火野桐花はとうとう校庭に姿を現すことはなかった。
先生の話によれば、やはり体育倉庫が突然爆発したのだそうだ。ただ、それ程大きな爆発でなく、体育館にいた生徒にケガはほとんどなかったようだった―ただ1人を除いて。
話の最中に、火野桐花が教室に戻って来た。
「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。」
頭を下げて、ペロリと舌を出す。桐花、よかったーと彼女の友達がほっと胸をなでおろした。
「転んで逃げ遅れてしまって、煙を吸って気分が悪くなっちゃったの。だから、校庭に行かずにそのまま保健室で寝てたの。あそこは体育倉庫から離れて安全だったし。もう良くなったから、大丈夫だよ。」
安堵の雰囲気の中、火野桐花はけろりとした顔のまま、自分の席に着いた。
後ろの席の大上が、よかったなとささやく。は?と聞き返すと、やつはニヤニヤしながらずっと心配そうにしてただろと言った。
心配なんかしてない。あの女がどれだけのことをやらかしたのか、その現状に浸っていただけだ。おそらく、今言った理由も嘘っぱちなんだろう。
「今日はもう解散にします。部活もなしと決まりました。体育館には近づかないように。」
先生はそれだけ言い残して、また急いで教室をあとにした。俺たちも静かに荷物をまとめ始めた。
帰り道、大上と別れて、住宅街の一角にあるコンビニに立ち寄った。特に何か買う予定もないが、とりあえずって感じで。
いつもだったら、帰宅途中のサラリーマンとかが何人かいるが、まだ3時前だからか客は2、3人しかいなかった。
駅から程近いこの通りには偏差値が高めな大学があり、わりとにぎやかだ。学生のためのアパートが多くて、俺の住むアパートの両隣も大学生が一人暮らししている。
他にも、本屋やらカフェやらが立ち並んで、おしゃれな雰囲気が漂っている。
爆破事件のニュースは、すでにネットで速報が流れており、コンビニの店長ぽい人にも大丈夫だった?と心配された。
それに、ここまで来る途中ですれ違った人達の会話は、どれもその事件のことで持ち切りだった。
早くもマスコミも通りをうろうろして、歩く人にインタビューしていた。街中が大騒ぎだ。そこまで都会じゃないこの街がは一瞬で世間の注目を浴びてしまった。
警察も捜査しているらしいけど、きっと火野桐花が犯人だなとは誰も思うまい。よっぽどの証拠がない限りは。
雑誌コーナーで少年誌を立ち読みしていると、後ろからがっしり腕をつかまれた。
はっと振り返ると、爆弾娘―火野桐花が立っていた。いつからコンビニにいたのだろうか。気配すら気づかなかった。俺の後をつけてきたのか。
彼女は持ち前ののんびりとした口調で、だけど一切の笑顔もなく、俺の目を見て言った。
「鈴木くん、お話いいかな?」
俺は悟った。
もう、彼女とは普通のクラスメイトの関係ではいられないのだと。
そして、俺の平穏な日常はもう帰って来ないのだと。
読んでいただきありがとうございます!
感想待ってます。
次回もお楽しみに。