2 開始
第2話です! まだまだ恋愛とかアクションぽいシーンには程遠いんですが…楽しんでもらえると幸いです。
火野桐花は2年4組でも特に目立つ存在ではなかった。ぎゃあぎゃあおしゃべりしてクラスを取り仕切る女子のグループには属さず、控えめで大人しそうな女子たちとよく一緒にいる。たいてい明るくのほほんとしていて、控えめ女子たちの間のムードメーカー的存在なのだが…。
そんな彼女がなぜ爆弾をロッカーに入れていたのだろうか。
授業中、一昨日彼女が残した言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
「警察に言ったら殺すよ。」
普段の火野桐花からは想像もつかない言葉。人を和ませる笑顔と対照的な冷徹な言葉。
あれが爆弾にせよ、爆弾じゃないにせよ、火野桐花はただ者ではないことは確実だ。
だが、あれから2日経った今日も、彼女は俺に何も言わないし、何もしない。そして、俺も彼女のロッカーをまた開けることはしなかった。
「えーっと、5時間目終了後は生徒会会長選挙立会演説会ですから速やかに体育館に移動してくださいね…。」
古典のおじいちゃん先生の子守唄のような声に促され、みんなが眠たげな目をしながら、教科書などを片付け始めた。俺も何も書かれていないノートを閉じて、火野桐花のことを一旦忘れることにした。
「僕はこの学校をきれいな学校にしたいです。そのために、毎日の掃除の時間を増やしたり、掃除用具を増やすことに努めます!」
ふわあとまたあくびが出た。
生徒会会長に立候補した人たちには悪いけど、誰が会長になっても学校ってそんな変わるもんじゃないと思う。所詮、先生たちの言いなりにしかならないでしょ。要するに退屈ってこと。
立候補者の友達ぽい人たちは、演説中に「できんのかー?」とか「一発芸やってー!」とか騒ぎながら野次を飛ばしているが、それ以外はうつむいたり、寝たりしている。みんな同じなんだ。自分たちに興味のないことには、寝て終わるまで時間を潰すしかないのだ。
俺は不思議と眠れなかった。学ランを家に忘れてきてしまい、10月の下旬のくせにYシャツ一枚しか着てなくて寒すぎるせいもあるけど、1番は隣に火野桐花が座っているからかもしれない。
彼女はただ真っ直ぐ前を向いてるけど、たぶん話は聞いてないだろうな。爆弾を発見してから、こんな近くに彼女がいるのは初めてだ。何かされるのではと、心臓がいつもより早く鳴っていた。
「続いて学校長挨拶。」
長い長い演説のあとにこれまた長そうな校長の話の始まりに、体育館中がまだあるのかよとガヤガヤどよめき始めた。
その中の火野桐花のつぶやきを俺は不幸にも聞いてしまった。
「10、9、8…」
急なカウントダウン。たぶん、俺しか聞いていないほどの小さな声。「殺すよ」と言ったときの冷ややかさが含まれていた。
「7、6、5、4…」
校長先生が登壇する。司会の生徒が静かにしてくださいと、マイク越しに何度も注意しているけどなかなか収まらない。
淡々とカウントダウンは続く。
「3、2、1…」
収拾のつかない状況に怒ったであろう頭の光っている教頭先生が司会からマイクを奪って声を張り上げた。
「静かに!」
それと同時に耳に入ってきた、無情の数字。
「0」
次の瞬間、轟音が鳴り響き、強い風と共に西側の窓ガラスが割れた。そこから、炎と黒い煙が顔を見せる。その方向には、そこそこ大きな体育倉庫があった。
悲鳴が一気に広まり、割れたガラスのそばにいた人たちは走って体育館の中央に逃げていた。
先生たちは、外へ向かって状況を確認しに行ったり、落ち着いて!と言いながら、逃げようとする生徒を抑えて、慌ただしく動き回っていた。
俺はまさかと、それ以外のことが考えられなかった。
泣き声、おびえる声…騒然とした体育館にいる生徒の1人、火野桐花。
彼女の前にいた友達が、彼女に涙を浮かべて彼女に抱きついた。
「大丈夫。先生が何とかしてくれるよ。」
自分の胸をその友達に貸し、頭をなでていたが、俺と目を合わせて確かにこう言った。目を見開き、口角を少しだけ上げた、非日常な表情で。
「本当にだったでしょ?」
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