第90話『エンシェントトレント』
『体術』からの流れでなんとなくリクルスが使うアーツの名前を漢字二字縛り(例外あり)っぽくなってる……
おかげでアーツ名を考えるのが割と大変
まぁそういう所を考えるのも楽しいからいいんだけども
「焼き貫け!【二重火槍】ッ!」
「邪魔くせぇッ!【薙輪】ッ!」
2本の火の槍が縦横無尽に振るわれる細枝を貫き、下手人たるカレットを狙って放たれた太枝の薙ぎ払いをリクルスが、自身を中心に剣で円を描き360°全てを薙ぎ払うという、『剣術Lv.6』で使用可能になるアーツを使用して弾き返す。
太枝には三重の【ファイアハンマー】でも小さな焦げ目を付ける程度しか叶わなかったが、その他の細枝はカレットの『火魔法』に耐えられる程の耐火性を持っていなかったようだ。
1発で細枝を焼き尽くしたことで、渾身の【三重火槌】を防がれて下がっていたカレットの自信に再び火がついた。
「リクルス!葉っぱと細い枝なら私の『火魔法』で焼けるぞ!」
「おーけーおーけー!お前は魔法撃つ事だけ考えてろ!太枝は……【半月】ッ!俺が弾く!」
無数に生えている細枝とは言え体の一部を焼かれてヘイトが溜まったのだろう、カレット目掛けて放たれた太枝をリクルスが『剣術Lv.4』アーツの【半月】で弾く。
ちなみに、今使った【半月】は、その名が示すとおり水平方向180°を薙ぎ払う、先程使った【薙輪】の下位アーツである。
なお、範囲こそ【薙輪】に劣る【半月】であるが、その分アーツ自体の発動速度が早く、全方向を薙ぎ払う【薙輪】よりも小回りが利くという点では必ずしもアーツ性能が劣っているという訳では無い。
むしろ《EBO》における上位アーツ、下位アーツという概念は、同系統ーー今回で言うところの薙ぎ払い系ーーアーツの習得順でしかなく、特殊な効果はなくただ斬るだけ、殴るだけ、といったシンプルなアーツ以外には完全な上位互換や下位互換というものは存在しない。
『ーーーーーーーーーーーーーッ!』
太枝を弾かれたエンシェントトレントはそれでもカレットを狙うのを諦めた様子は無く、その巨躯を震わせて無数の木の葉をばら撒く。1枚1枚が刃物と見まごう程の鋭さを持つ木の葉がひとつの意思の元、カレットを細切れにせんと襲いかかる。
「ふんっ!焼けると分かれば葉っぱなど恐るるに足らん!【ファイアストーム】ッ!」
1枚1枚が薄く鋭いエンシェントトレントの木の葉は、その攻撃力の代償として耐久力がとてつもなく低いという特性がある。
そんな特性を持つ木の葉が『火魔法』特化のカレットが放つ【ファイアストーム】に耐えられるはずもなく……
「うむ、やはり空は青くあるべきだ!」
空を覆うほどに舞っていた木の葉の群れは、1枚残さず焼き尽くされ、空は元の青空を取り戻した。
一応木の葉の色である『緑』も、人によっては『青』と称される事はあるが……今のカレットにそれを言うのは野暮というものだろう。
2本の太枝と無数の細枝、そして空に舞う、数えるのも億劫になるほど大量の木の葉。それら全てを駆使してエンシェントトレントはカレットを仕留めようと躍起になるものの、細枝と木の葉はカレットによって焼き払われ、高い耐久力と耐火性を持つ太枝もカレットの護衛に専念したリクルスによって弾かれる。
元々アホみたいな量のHPとそれをさらに補助する高い防御力、によって超長期戦を余儀なくされるエンシェントトレント戦である。
初日からは考えられないコンビネーションによってエンシェントトレントの攻撃を凌いでいるリクルスとカレットであるが、木の葉への攻撃は本体へのダメージにならず、細枝や太枝の迎撃で入るダメージは雀の涙ほど。
お互いの被ダメがほぼゼロに抑えられたとはいえ、一方的に攻撃するだけであるエンシェントトレントに対して、リクルスとカレットは防戦一方。MPが尽きた時、集中力が尽きた時、装備の耐久力が尽きた時。
遅かれ早かれ2人の方に先に限界が来るのは言うまでもないだろう。かと言って細枝と木の葉の迎撃に専念しているカレットでは太枝にまで手は回らず、太枝の迎撃のために大地の豪剣を装備しているリクルスでは細枝と木の葉を対処するには手数が足りない。
リクルスとカレット、2人の得意分野が上手く噛み合っている事でエンシェントトレントの攻撃を完璧と言っていい程に防いでいるが、その分攻撃にまで手が回らない。
意図せぬ挑戦となってしまったが、エンシェントトレントに2人で挑むのは本来無謀が過ぎるというものだ。むしろ防戦一方とはいえここまで凌げている事の方が異常なのだ。
「【重斬】ッ!くっそ人手が足りねぇ!」
「【三重火弾】ッ!くうっ……!トーカがいれば……!」
「それ本末転倒じゃね!?」
「確かに!いや、新装備の事だけ伏せていればいいんじゃ……?」
「どっちにしても無い物ねだりだ!今あるもので乗り切るしかねぇ!【飛斬】ッ!からの【打割】ッ!」
「焼き貫け!【三重火槍】ッ!おっ、『多重詠唱』のレベルが上がったぞ!」
時間差で振るわれた太枝を、斬撃を飛ばす『剣術Lv.3』のアーツ【飛斬】で遅い方の枝を先に処理し、高威力の唐竹割りを放つ『剣術Lv.5』のアーツ【打割】で早い方の枝を叩き落とす。
太枝を相手するリクルスを狙った細枝の群れはカレットの放つ3本の【ファイアランス】によって尽くやき尽くされてしまう。
一見余裕無さげなギリギリの防衛だが、当人達にはこんな会話をできる程度には余裕があるらしい。あるいは自身を鼓舞する為の空元気なのかもしれない。
とはいえ人手が足りないのは変わらず、相変わらず防戦一方のままではあるのだが。
「【四重火……ッ!MPが!」
先程まで『多重詠唱』による『火魔法』の連打によってついにカレットのMPが尽きる。普通ならこのまま為す術もなく負けてしまうところだが……
「リクルス!MPが切れた!カバー頼む!」
「任せろい!【斬】ッ!」
今この場には頼もしい仲間がいる。
リクルスは剣を武器とする上で基礎の基礎となる『剣術Lv.1』のアーツ【斬】をもって太枝を難無く……という訳では無いがしっかりと弾く。
「硬ってぇ!手の痺れがががが……!」
「んぐっんぐっ、ぷはぁ!MPポーションまっずい!」
リクルスが太枝を迎撃している隙にカレット、インベントリからMPポーションを取り出し喉に流し込む。
魔法職の命とも言えるMP、そしてそれを回復できるMPポーションは魔法職にとっては必須アイテムと言えるのだが、ひとつ大きな問題がある。
店売りの物は押し並べて性能が低く、高性能の物は素材を集めて自作するか、作成可能なプレイヤーから手に入れる必要があり、量を集めるのが難しい。
というのも確かにそうなのだが、それ以上に魔法職を悩ませているのが、MPポーションの味である。
ただ、味が問題と言っても飲むのも辛いほど味が酷いという訳では無い。MPポーションには“味”というものが設定されていないのだ。
そして、それが全魔法職を悩ませている問題の原因となっている。
MPポーションは僅かにとろみを帯びた液体で、イメージとしては飲むヨーグルトや限界まで崩したゼリー飲料のようなものだろうか。
無味のドロッとした液体が喉を通り抜けて行く様を想像してみて欲しい。その感覚が苦手でMPポーションが飲めないというプレイヤーもいるくらいなのだ。
「むぅ……味がしないというのがここまで不味いとは想像もしなかったな。不味い!もう一杯!と言うやつだな。んぐっんぐっ」
……まぁ中にはカレットのように全く気にせずに飲み続けられる猛者もいるのだが。
「さすがメイ作のMPポーション!不味いことは不味いが性能はピカイチだ!」
カレットが愛用しているメイド・イン・メイのMPポーションは、レベル50間近の魔法職のMPをたった2本で全回復させる程に高い性能を持っている。
「【縛弾】ッ!回復は済んだな!?ぶちかませッ!」
振るわれた2本の太枝を、スタン効果のある『剣術Lv.9』のパリィ用アーツ【縛弾】で弾き、太枝、ひいてはエンシェントトレント本体の動きを止める。
今まで防戦一方だった相手がこれ以上無い隙を晒している。それを……仲間が作ってくれたチャンスを見逃すカレットでは無い。
木の葉はカレットに焼き払われて以来補充されておらず、細枝もエンシェントトレントがスタンした影響で動きを縛られている。
今この瞬間に限り、エンシェントトレントの身を守る物は何も無い。
この瞬間、MPポーション一気飲みによってMPを全回復させ、『多重詠唱』のレベルが上がったことでさらに『火魔法』の威力に磨きがかかったカレットの猛攻が始まった。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




