第89話『木材採取(超上級編)』
慣れ始めが1番危ないってそれずっと言われてるヤツだからね?
広場の中央には大地にしっかりと根を張った巨木が佇んでおり、一本一本が人の胴体程の太さを持つ極太の枝が縦横無地に振り回され、1枚1枚が刃の如き鋭さを持つ木の葉が辺り一面に舞い踊る。
巨木が枝を振るう度に舞う木の葉の量は増え、枝が地面を叩けば地震と見まごう程の揺れが引き起こされていく。
「なぁ!ここのエリアボスってエルダートレントのはずだよな!?【破豪】ッ!」
「そうだったはずだ!【三重火弾】ッ!」
迫り来る横薙ぎの枝を【破豪】で殴り付けて弾き、舞い散る木の葉を1度にいくつもの【ファイアボール】を打ち込む事で焼き払う。
カレットは新しく『多重詠唱』と言うスキルを習得しており、その効果は1度に『レベル』発の魔法を放てるようになるというシンプルながらも強力なものとなっている。ちなみに、当然といえば当然だかMPは1度に放つ数分だけ消費する。
現在のカレットの『多重詠唱』のレベルは3なので、1度に3発まで同じ魔法を放てるという事になる。
「でもさぁ!俺の目がおかしくなってなかったらさ!アイツ……エルダートレントじゃねぇよな!?」
「安心しろリクルス!私の目にもエルダートレントには見えない!そもそもいつもより2回り以上大きいぞ!」
「んな事見りゃ分かるわ!【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】ッ!」
事実、広場の中央に存在する巨木は2人が今まで討伐してきたエルダートレントよりもさらに大きく、攻撃も激しい。
そもそもエルダートレントは今回の巨木のように中央に根を張っているような姿ではなく、通常のトレントをさらに大きくしたような姿をしているため、明らかに普通ではない状況だと分かる。
「あ゛ぁ゛!木の葉が鬱陶しい!カレット、纏めて焼き払え!」
「言われなくても!【三重火嵐】ッ!」
舞い散る木の葉を跡形も無く焼き尽くすため、炎の竜巻がごうっ!と音を立てて巻上がる。『多重詠唱』によって三重に展開された【ファイアストーム】が晴れた後にはあれだけ舞っていた無数の木の葉が1枚残らず焼き尽くされていた。
「よくやった!【振壊】ッ!」
カレットの三重【ファイアストーム】から本体を守る為に中央にそびえる巨木を覆っていた、半ば炭化しかけている木の枝をリクルスが殴り付ける。
今回使用した【振壊】というアーツは、『体術Lv.9』で使用可能になり、攻撃を当てた箇所に激しい振動を与える事で相手を体の内側から破壊すると言う超攻撃的なアーツである。
カレット渾身の三重の【ファイアストーム】から本体を守り切った代償に炭化し、脆くなった枝がSTRをとAGIを重点的に鍛えているリクルスの【振壊】に耐えられる訳もなく、ほんの僅かな抵抗の末に弾け飛び、本体たる巨木を晒す事となった。
「よしっ今だ!【鎧砕】ッ!」
邪魔な防御が無くなった事で巨木に本体に近付けるようになったリクルスが『縮地』で一気に巨木のすぐ側にまで移動し、防御力を低下させる効果のある『体術』アーツである【鎧砕】を巨木に打ち込む。
リクルスの放った【鎧砕】は巨木にクリティカルヒットと言っていいほどに綺麗に打ち込まれ、アーツの効果である防御力低下もデバフとして巨木に付与された。だが、本体に攻撃を入れた事でようやく出現した巨木のHPバーを見て、リクルスとカレットの表情がピシリと固まる。
通常のモンスターはHPバーを1本しか持たず、またボスであっても2本以上のHPバーを持つ者は相当限られている。あのジャジャでさえ2本のHPバーを持たなかったと言えばその総数の少なさが伝わるだろうか。
そんな中、永き時を経てエルダーの名を冠するまでに至ったエリアボスのエルダートレントはHPバーは2本持ち、打撃と火属性という相性のいい攻撃手段を主力とするリクルスとカレットのコンビでさえ、2本もあるエルダートレントのHPを削り切るのにはある程度の時間を必要とした。
つまり何が言いたいのかと言うと、リクルスの一撃によってようやく戦闘開始と見なされて出現したこの巨木……エルダートレントのさらに上位種であるエンシェントトレントのHPバーが4本もあるという事の異常性を理解してもらいたいという事だ。
「おいおいおい……さすがに4本って……」
「ははっ……こんなのどうやれば削りきれるのか……」
苦笑いの表情を張り付けて1歩後ずさるリクルスとカレットに向けて、規格外のHPを持つエンシェントトレントがその身から伸びる2本の巨大な枝を振るう。
「クソッ!【チェンジNO.1】ッ!からの……【重斬】ッ!」
「叩き潰せッ!【三重火槌】ッ!」
先程までとは比べ物にならない程の重さを持つ一撃を、リクルスは『早着替え』というスキルを駆使して装備を一瞬で籠手から大剣に入れ替えてから『大剣術Lv.1』のアーツである【重斬】で、カレットは『多重詠唱』で三重にした『火魔法Lv.5』のアーツ【ファイアハンマー】で、それぞれ巨大な枝を迎え撃つ。
まず初めにベギィンッ!という、とても枝に当たったとは思えない、むしろ金属同士がぶつかったかのような硬質な音を立ててリクルスの振るった大剣は枝による薙ぎ払いを受け止める。
続いて、ドゴンッ!という、重く鈍い音を立てながら三重の槌を象った火の塊が枝を叩き落とす。
エンシェントトレントはすぐさまそれぞれに防がれた枝を引き戻すが、その枝にはどちらも目立った損傷はなく、僅かに傷がついていたり焦げ目が着いている程度しか無かった。
無造作に振るわれた枝のあまりの威力にリクルスは舌打ちを鳴らし、『縮地』を併用したバックステップでエンシェントトレントと距離を取りつつカレットと合流する。
「【チェンジNO.0】っと、さすがにあれは籠手じゃ防げねぇな」
カレットと合流したリクルスは『早着替え』で元の装備……『大地の豪腕』という腕装備と一体型の籠手に戻す。攻撃を受けるのは大剣でなければ厳しいが、機動力という点からは籠手にしておく方が好ましいという判断だ。
ちなみに、リクルスのこの武器の随時入れ替えというバトルスタイルを支えている『早着替え』というスキルだが、これはリクルスが素で身につけている訳ではなく、『変わり身のイヤリング』と言うアクセサリーに付与されている、いわゆる装備スキルというものだ。
装備スキルの一例として、高所からの【グラビトンウェーブ】という、トーカの持つ中で最も凶悪な攻撃手段を支えている『跳躍』が挙げられる。
そして、この『早着替え』というスキルは、事前に『スキルレベル+1』個の枠に自由に装備を設定し、それをワードひとつで瞬時にーーたとえ戦闘中であってもーー入れ替えられるという便利スキルである。
元々の装備を【NO.0】、それ以降を【NO.1】【NO.2】……という具合に呼称し、実際にリクルスが使っていたように【チェンジNO.〜】と言葉で指定してスキルを発動する。
そのため、スキル使用時に発声こそ必要だが、戦闘中に自在に装備を入れ替えられるというのはとてつもなく大きい利点となる。
現在リクルスはロッ君マラソンで大量に入手したのかロックゴーレムの素材を使ったメイド・イン・メイの武具をメインに使用しており、『変わり身のイヤリング』のおかげで『早着替えLv.1』を習得している状態のため、防具は変えずに武器だけを変更した2つの装備セットを設定している。
この『早着替え』が付与されたアクセサリーだが、もちろんカレットも『変わり身の指輪』として所持している。
というかこの『変わり身』シリーズもメイド・イン・メイである。
ちなみにこの『変わり身』シリーズのアクセサリーをトーカが持っていないのは、お祝いの品として新装備と一緒に渡す予定だからであってハブられている訳ではない。
「まさかリクルスの大剣でも浅く傷つける程度とは……」
「いや、それよりカレットの三重の火魔法でも軽い焦げ目しかつかない方がやべぇだろ」
今まで木材として切り倒してきたエルダートレント相手なら、リクルスの大剣……『大地の豪剣』で枝どころか幹も真っ二つに出来たし、カレットの三重【ファイアストーム】で真っ黒な炭にする事も出来た。
もちろんエリアボスがその程度で倒れる訳はなく、ぶった斬ろうが炭にしようがHPを削り切るまでは延々と再生し続けたが……ここまでろくにダメージが入らないということはなかった。
その事実に、頬を引き攣らせながらリクルスとカレットが同時に呟く。
「「……これ、勝てるのか?」」
時刻はちょうどトーカが村長老から依頼を受けている頃。
トーカがかつてない程の強敵に挑もうとしている中で、実はリクルスとカレットの2人もかつてない程の強敵に挑んでいたのだ。
リクルスとカレットのステータスはエンシェントトレント戦後に載せる予定ですので気になっている方はもう少しお待ちください
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




