第84話『呪術師アルテフ』
アルテフは本体は弱いけどその分厄介な技(身代わり人形やら呪いやら)を持ってるタイプのボスです
前は来た時はあのクソジジィに先導されていた道を、記憶を辿りながら歩いて行き着いた路地裏のさらに奥に位置する怪しげな建物。
よく見れば、ジャジャにまとわりついていた黒い靄が建物全体をうっすらと覆っている事に気が付いた。
既に手には重鋼鉄棍を持ち、盛れる限りのバフを自身に盛り、さらにHPMPも完全回復させた本気の臨戦態勢でトーカは建物の扉を開ける。
「ひょお?もう帰ってきたのか?」
扉が開く音に気が付いたクソジジィ……呪術師アルテフが呪術にまつわるのであろう何らかの作業を中断し、入ってきたトーカの方に視線を向ける。
「あぁ、呪いに汚染されたジャジャは俺が討伐した」
「おぉ!さすが我が同胞よ!素晴らしい!」
勝手に同族から同胞にランクアップしている。
元々こいつの同族と言われて嬉しくもなんともなかったが、こいつのした事を知った今となっては更にその上の同胞呼ばわりはもはや嫌悪感しか湧いてこない。
「それで、そのジャジャの死体からひとつ気になる物を見つけた」
そう切り出した途端、アルテフの表情がピクリと僅かに引き攣るのを俺は見逃さなかった。
アルテフは俺が『呪増核』を見つけた事に気が付いただろう。
「呪いに関係する物だろうという事は分かったが、俺ではその他の事は全く分からなかった。あんたなら分かるかと思って持ってきたんだが……見てもらってもいいか?」
だからこそ、アルテフの油断を誘うためにあえて分かっていないフリをする。
アルテフの表情があからさまにーー本人は隠してるつもりなのだろうがーーホッとしたように緩む。
「ほぉ?呪いが結晶化した呪物の類かの?調べてみるから見せとくれ」
俺が『呪増核』の正体に気が付いてないと思い込んだアルテフは、中途半端に情報を出す事で正体から俺を遠ざけようとする。
全てを知っている俺からすればその姿は滑稽でしかないが、ここまでは作戦通りだ。乗ってやることにする。
「あぁ、これだ」
そう言って、アルテフに『呪増核』を投げ渡す。
「ちょおっ!?お主なにやっとんのじゃ!!」
俺が放り投げたソレにアルテフの視線が向かい、俺から注意が逸れる。その隙を逃さず、『縮地』でアルテフの目の前に一瞬で移動する。
その際に『隠密』で気配を消す事も忘れない。視界に入るような位置関係でも、『隠密』を発動すれば通常時に比べて一瞬反応が遅れるのは既に確認済みだ。
「【アースクラッシュ】」
一瞬でゼロ距離にまで接敵し、振り抜いた【アースクラッシュ】がアルテフを捉える。
「ぬひゅおぶぁッ!?」
不意打ちの【アースクラッシュ】をモロに喰らったアルテフは、マヌケな声を叫び上げながら、まるでギャグ漫画のように吹き飛び、轟音を上げて奥にあった棚に突っ込んで行った。
「俺もう『呪増核』の事は知ってんだ。白々しい演技はいらねぇよ」
アルテフが受け取る前に吹っ飛ばしたため、まだ空中にあった放り投げた物をキャッチする。
トーカの掌に収まったソレは、蠢く黒を封じ込めた水晶ではなく、くすんだ石色をした……というかまんま普通の石だった。
「ちなみにこれはそこら辺で拾ったただの石ころだ。本物をほいほいと返す訳ないだろ?」
嘲るように言いながらついキャッチしてしまった石ころを放り捨て、重鋼鉄棍を構える。
衝突に巻き込まれて粉砕され、崩れ落ちた棚の残骸の中で倒れ付すアルテフの体は弛緩して、ピクリとも動かないが……
トーカは僅かの油断も無くアルテフから視線を外さない。
「おい、クソジジィ。いつまで寝たふりしてんだよ。この程度でくたばる訳ないだろ?」
トーカがそう言い放つと、堪えきれずに漏れ出たような、不快な笑いと共にアルテフが体を起こす。
「いきなり殴りかかってくるとは……それに口も悪いと来た。最近の若物は物騒じゃのぉ」
気色悪い笑い方をしながら、やれやれと首を振るアルテフの頭上に出現したHPバーには、一切の減少は見られない。
「こんだけコケにされりゃ口も悪くなるさ。まぁ俺の事はどうでもいい。それよりもジャジャや村のみんなに死んで詫びろ」
「ほへぇ?なぜ詫びる必要がある?我が呪術の糧になれたのじゃ、むしろ奴等が感謝するべきだろう?」
心底理解出来ないと言った感じに首を傾げるアルテフに、さらに怒りが湧き上がってくる。これが俺を怒らせる作戦なら大成功だろう。
「にしてもまたノーダメージか、ジャジャもそうだが……全く嫌になる」
「ぬふひょひょ、お主に渡した身代わり人形、まさかあれだけな訳なかろう?あれはワシが作った物じゃ、当然ワシも持っているに決まっておろう」
小馬鹿にしたような笑みを貼り付けたアルテフが、まだまだあるぞと、懐から取り出したいくつもの身代わり人形をこれみよがしに見せ付けてくる。
「へぇ、いい歳してお人形集めとかいい趣味してんじゃねぇか」
そうは言った物の、アルテフが取り出した身代わり人形の数はゆう10を超える。さすがにあの数の身代わり人形……残機を削り切るのは正直めんどくさいな。
「ただ……大切な物なら無闇に見せびらかしたりしない方がいいぞ。【ハイスマッシュ】」
アルテフの背後に『縮地』で回り込み、身代わり人形の束を掴んでいる左腕を吹き飛ばす。
ぼぎょっ!と音を立てて吹き飛んだアルテフの左腕が、空中でくるくると回転しながら部屋の隅に飛んで行った。当然、左腕に持っていた身代わり人形も一緒に。
「カーッ!さっきもそうじゃが急に不意打ちして来るなんて外道のする事!お主のモラルはどうなっとるんじゃ!」
左腕を1発で吹き飛ばされたアルテフが杖を振りながら喚き散らす。
クソジジィ……お前にモラルがどうこう言われたくはねぇよ。
「悪いが俺は正真正銘『外道』なんでね。不意打ちは十八番なんだ……よっ!」
なおもギャーギャーと喚くアルテフの無防備な土手っ腹に、渾身の回し蹴りを叩き込み、さらに重鋼鉄棍で追撃をかける。
「【ーーーー】ッ!」
地面にめり込んだアルテフが何かを唱えたと思ったら、アルテフを中心に暴風が巻き起こった。
「くそっ!」
幸い風そのものにダメージ判定は無かったらしく、HPは減っていないがアルテフとの距離が空いてしまった。さらには、暴風で荒らされた室内にはいたるところに様々なガラクタが散乱し、足の踏み場に気を付けなければ足を取られて転んでしまいそうな状況になっている。
「全く……最近の若者は血の気が多くて敵わん。少し大人しくしとれ【ーーーーー】」
「何を……ッ!?」
アルテフがナニカを唱えると同時に、右手に持った重鋼鉄棍が急激に重くなり、危うく取り落としそうになる。
よく見ればトーカの腕には黒い靄がまとわりついている。
この現象は間違いなくアルテフの呪いによるものだろう。さしずめ、STR低下系の呪いと言った所だろうか。
「ひょひょひょ、その立派な棍棒も重くて持てまい。我が呪いの力をとくと味わえぃ!」
呪術を使うには色々と準備が必要なんじゃないのかよ……と一瞬思ったが、よく考えればここは敵の本拠地。何も準備していない訳がなかった。むしろ、準備してあって当然だ。
「重っ……まぁこの程度の呪いなら……【カースキュアー】」
唱えると同時に、純白の光が腕にまとわりついた黒い靄を打ち払う。STR弱化には一瞬ビビったが、【カースキュアー】で解呪可能なレベルの呪いだったので助かった。
「なぁっ!?お主、まさか解呪を……!?」
俺が呪いを解呪した事に、アルテフは心底驚いたように声を上げる。
いや、もしかしたら、呪いを祓った事ではなく、魔法としての解呪を使える事に驚いたのかもしれない。
「俺の本職は神官……つまりは回復役なんだ。これくらいできて当然だろう?」
『回復魔法』でダメージを癒し、『付与魔法』で強化する。それが神官のありかたであって、なんの因果か謎の超火力が出せるようになってもそこは変わらない。
「【チェインボム】」
散乱しているガラクタを、重鋼鉄棍ですくい上げるようにして【チェインボム】を放つ。たったそれだけで、即席の爆弾達の完成だ。
この《EBO》では、オブジェクトにもHPは設定されている。ならば、【チェインボム】で爆弾に変えることも当然できるに決まっている。
爆弾に変えられたガラクタ達が、激しい爆発音を響かせて立て続けに弾ける。連続する爆発が収まると、そこには相も変わらずHPを全く減らしていないアルテフの姿があった。
「ったく……いったい身代わり人形何個持ってやがんだ」
「殴ったり蹴ったり爆破したり……ちょっとは落ち着きを持たんか!」
「うるせぇよ……ってどこ行くんだクソジジィ!」
ひとしきり叫び終わったアルテフは、すぐさま踵を返し奥の部屋へと進んで行く。当然奥の部屋にも何かしらの仕掛けはあるのだろうが……追わない訳には行かない。
荒々しく舌打ちをしてから、トーカはアルテフを追いかけて奥の部屋へと進んで行った。
もう知ってる方もいるかもしれませんが、新作投稿しました。
描きたくなったので書いた息抜き的なダンジョン運営系の話ですが、ちらっとでも見ていただけたら嬉しいです
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




