第82話『本領発揮』
リアルがめっちゃ忙しくなってて執筆時間が取れなったりとペースが崩れてきてるので更新が多少不安定になりまする(2〜4日に1回くらい)
ジャジャの尾による薙ぎ払いを、トーカは【スマッシュ】で受け流し、そのまま流れるようにがら空きの尾の側面に【ハイスマッシュ】を叩き込む。
直後に、ジャジャの噛み付きがトーカを襲う。
横に跳び、転がるようにしてその噛み付きを回避する。
ハッキリと見た訳では無いが、ジャジャの口内に並んだ牙が全て毒々しい紫色をしていた。撒き散らしていた毒液を牙に纏った、全てを腐食させる凶悪極まりない毒牙だ。
現に、噛み付きに巻き飲まれた地面が牙の形にそって腐食している。
ジャジャのHPが5割を切ってから、俗に言う狂乱モードに入ったのか、攻撃の威力とスピードが上昇している。まぁその分狙いの正確さが落ちているのが救いと言えなくもない。
『シャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!』
「ッ……!」
そして、厄介なのがこの濁った咆哮だ。
生理的に受け付けないような不快な音を大音量で撒き散らすこの咆哮は、相手の動きを強制的に止める効果があるらしい。
そして、これは体感なので確証はないが、この咆哮にはもう1つ別の効果がある。それが、次の攻撃の威力とスピードを上昇させるというもの。
叫ぶ事で戦意を高めているのか、スキルによる一時的なバフ効果なのかは分からないが、咆哮の直後の攻撃は他の攻撃よりも強く速くなっている気がする。
恐らく、プレイヤーの使える『咆哮』のスキルの上位互換……と言った感じなのだろう。あるいは、プレイヤーのスキルである『咆哮』もレベルを上げれば同じようなバフ効果が付くのか。
「んな事考えてる暇はないか……!【チェインボム】ッ!」
一瞬の硬直を狙った一撃を【チェインボム】で迎え撃ち、後ろに飛ばされる事で衝撃を緩和する。
吹き飛ばされた時の着地は『軽業』のおかげで問題なく受け身をとる事が出来ている。
トドメの一撃にはなっていないので【チェインボム】の真価は発揮されないが、それでもこのアーツはCTの短い【スマッシュ】としても使える。相当に汎用性の高いアーツと言えるだろう。
「クソッ!一撃が重い!」
ジンジンと痺れる腕で鉄のメイスを取りこぼさないように強く握り締める。HP的なダメージこそほぼ無いものの、数字に現れない疲労は着実に蓄積していっている。
『シャァァァァァァァァッ!!』
薙ぎ払いを回避したトーカの前で、ジャジャが周囲の黒靄を吸い込み始める。それに伴いジャジャの体が僅かに膨れ……
『シャァァァァァァァァッ!!』
次の瞬間、ジャジャの黒いブレスが辺りを駆け巡っていった。
当然、縦横無尽に周囲を駆け回った黒いブレスは、トーカの元にも届いている。だが、押し寄せる黒靄の波をトーカは冷静に【インパクトシェル】で相殺する。
このブレスにどんな効果があるのかは分からないが、喰らわないに越した事はないだろう。
ブレスのお返しをするために接近しようとすると、ジャジャが鋭い咆哮を上げながら尾を地面に叩き付けた。
濁った咆哮と違い、咆哮自体に硬直効果こそなかったものの、叩き付けで引き起こされた地鳴りに足を取られそうになってしまう。
濁った咆哮と地鳴りのコンボは凶悪で、ジャジャ自身から攻撃を仕掛けてくるタイミングのカウンター以外で上手くジャジャに近付くことが出来ていない。
そんな現状を打開するために、トーカは新たな手を打つ。いや、放つと言った方がいいか。
「オラァッ!」
トーカは、ジャジャに向かって鉄のメイスを投げ付けた。
『シャッ!?』
勢いを付けて投げ付けられた鉄のメイスは、遠心力も加わって凄まじい勢いで回転して飛んでいき、ジャジャの頭部に直撃し、盛大な音を立てる。
「決めた、このクエスト終わったら『投擲』特訓しよう。【アースクラッシュ】ッ!」
鉄のメイスの投擲で生まれた僅かな隙に、『縮地』と『跳躍』の組み合わせでジャジャの懐……ジャジャに直撃した鉄のメイスのすぐ側まで移動すると、そのまま空中でキャッチしてジャジャに叩き付ける。
空中だったので踏ん張りこそ効かなかったが、それでも単発で高威力を誇る【アースクラッシュ】はしっかりと仕事をしてくれている。
「っと……あれ?黒い靄が切れてる……?」
ジャジャをしっかりと殴りつけた事で気が付いた手応えの違い。
それは、ジャジャ戦が始まってからずっと付きまとっていた黒い靄によるデバフの消失をトーカに伝えてくれた。
黒い靄が無くなった原因は先程の黒いブレスだろうか。あるいは、ジャジャのHPが5割を切った時の周囲の黒い靄の吸収の可能性もある。
どちらにせよ、ジャジャに吸い込まれて俺を蝕んでいたデバフが無くなったというのなら……
「ようやく本領発揮出来そうだ……!」
強化を阻害していた黒い靄が無くなったとわかった瞬間に、トーカは嬉々として自身に『付与魔法』でのバフをかける。
少し前までは呪いのせいで意味をなさなかったバフ達だが、今はその効果をしっかりと発揮させ、トーカのステータスを押し上げている。
そして、武器を鉄のメイスから重鋼鉄棍へと持ち替える。
ずしり、と手にかかる頼もしい重量感に思わず顔が綻んでしまう。
「〜ッ!体が軽い!」
バフや称号によるステータス強化の恩恵を全身で感じながら、重鋼鉄棍を1度何も無い虚空で振り抜く。重鋼鉄棍の奏でる風切り音が先程までとは段違いだ。
「【スマッシュ】ッ!」
ジャジャの横薙ぎの一撃を、【スマッシュ】で地面に叩き付ける。
今まで制限されていた事から解放されたからだろうか、すごく晴れ晴れしい気分で戦う事が出来る。
今ならどんな無茶でもやれる。
そう思える程度には絶好調だ。精神的な余裕が身体的なパフォーマンスにも影響を及ぼしているのだろうか。
「オラァ!【ハイスマッシュ】ッ!」
ジャジャの尾を伝って駆け上がり、【ハイスマッシュ】で殴りつける。殴られた衝撃で足場にしていたジャジャの体が大きく震え、空中に投げ出されるが、『空歩』を使用する事でトーカは落下するどころかさらに追撃を重ねる。
『シャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!』
3発程追加で殴ったところで、ジャジャの濁った咆哮によって無理矢理ジャジャの側から引き剥がされる。
『ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛、ァ゛ァ゛ッ゛!?』
濁った咆哮を上げていたジャジャの声が不自然に途切れる。
ムートの放った矢が大口を開けていたジャジャの口内に突き刺さり、咆哮を無理矢理中断させたのだ。
普通に放っては鱗に阻まれて届かないならば、柔らかい部分を狙えばいいという発想なのだろう。
『シャァァァァ……!』
口内に矢を刺したジャジャが、矢が飛んできた方向を睨み付け、うっとおしい木々ごとムートを消し去ろうと毒液吐瀉の構えを取る。
「余所見してんじゃねぇよ」
自分でも惚れ惚れする程に完璧なアッパーカットがジャジャの下顎を思いっきりかち上げる。出口が塞がれた事で行き場を失った毒液が逆流したようで、ジャジャの口内から『ゴプァ……ッ!』という音が聞こえてきた。
『シャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!』
フシュゥゥゥ……と紫色の煙を口から吐き出しながら放たれた、純粋な怒りに満たされた咆哮が迸る。濁った咆哮は衝撃波となって周囲の木々を揺らし、トーカの体を縛り付けた。
明確な怒気のこもった濁った咆哮によって動きを止められたトーカに、今までとは比べ物にならない速度でジャジャの噛み付きが襲いかかる。
避けられない。
そう判断するのに、時間はかからなかった。
濁った咆哮によって縛られた体は、避けようとする意志とは裏腹に1歩たりとも動いてはくれなかった。
そのまま、ジャジャの牙が、死が近付いてくる。
擬似的な走馬灯のようなものなのだろうか。スローモーションになる世界の中で、ジャジャの怒りを表すようにどす黒い紫色をした牙がよく見えた。
所詮はゲームなんだから負けたらまたやり直せばいい。
その考えはいたって普通なものだが、なぜかトーカにはそうは思えなかった。
それは、今この瞬間のひとつひとつがこの世界の出来事であり、不可逆な事実であると考えているからか、あるいはせっかくここまでHPを削ったのに勿体ないという身も蓋もない理由からか。
ともかく、トーカの脳は今この瞬間もこの現状を打破する方法を必死に模索していた。脳を必死に働かせ、思考に没頭していた。
だからこそ、ソレに気付けなかった。
「トーカさんッ!」
ジャジャの牙に体を抉られる前に、ドンッと何かに突き飛ばされた。
面食らって突き飛ばされた方向に視線を向けると、そこにはつい先程までトーカがいた位置に、両手を突き出した状態で立っているムートの姿があった。
「な……」
なにしてんだ。危ないぞ。
咄嗟に脳裏に浮かんだそれらの言葉を言い切る前に、ムートの姿はジャジャの巨体に飲み込まれて消えた。
目の前をジャジャの巨体が通り過ぎていく。
巨体が風を切る凄まじい轟音と、巻き起こされた暴風に一時周囲の音は奪われた。
「ムートッ!」
無意識に叫んでいた自分の声で、ようやく音が戻ってきた事に……それ以前に、音を失っていた事に気が付いた。
叫び、振り返った先には、もうムートはいない。
そこには振り向き、もう1人の獲物を見据えるジャジャと、僅かに煌めく光の残滓があるだけだった。
「ジャジャァ!」
目の前で人が食い殺された。
その事実に、トーカの怒りが爆発する。
『縮地』と『疾走』を駆使して全速力でジャジャの目の前に駆け、重鋼鉄棍を振りかぶる。
突然の急加速にジャジャの反応がワンテンポ遅れ、それが命取りとなった。
「【リトルメテオ】ッ!!」
『ジギュァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!』
特定の条件を満たしつつ『豪棍術』を取得する事で使用可能になる、『棍術』最強のアーツ、【リトルメテオ】。
CTは24時間と全アーツ中最長である代わりに、威力も全アーツ中最大という、正真正銘の奥の手。
トーカの持っている攻撃手段の中で、最強の一撃。
ただでさえ小さな隕石の衝突にも匹敵すると称される程の一撃が、トーカの称号やスキルでさらに強化された文字通りの必殺技は、まだ3〜4割近く残っていたジャジャのHPを余さず消し飛ばした。
この終わり方は賛否両論あるとは思いますが、作者としてはやっぱりトーカには超ば火力の一撃でしめて欲しかったという思いがあったのですよ。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




