第76話『臆病者』
大元のアイディアでは『臆病者』と遭遇した洞窟から出たところでジャジャと鉢合わせる予定だったんですが……
なんか気付いたらこうなってました。
あと、気付いてる方もいると思いますが、番外編『3人のステータス』を消させてもらいました。
感想欄でもこのことにふれたのですが、スランプから復帰した今色々と変更したい点があったので消させていただきました。
ご了承ください。
トーカが洞窟内に足を踏み入れると、ビクリとその青年の肩が震える。侵入者の存在に青年も気が付いている様だ。
「誰、だ……?」
怯えた様に尋ねてくる弱々しい声音。
だがそれは、狭い洞窟内に反響し想像以上の声量になってトーカの元へと届いた。
「俺はトーカ。この近くの廃村の調査と……ジャジャの討伐の依頼を受けてここまで来た」
相手の正体が半ば想像がついているからこそのこの言い方だ。
案の定その青年は廃村の調査と言ったところでピクリと反応し、ジャジャの討伐と言ったところでガバりと俯かせていた顔を上げた。
薄暗い洞窟内にいるため『暗視』が無ければ見えなかったであろう青年の顔には、やはりと言うかなんと言うか、驚愕の表情が張り付いていた。
それも生半可なものではなく、相手の正気を疑っているレベルの驚愕だ。
「アンタ……正気か!?あんな化物に挑もうなんて……ましてや討伐なんて、とても正気とは思えない!」
ついでに口にも出てきた。
「そうだな。ここに来るまでにあの村の惨状は見たし、ジャジャとだって一戦を交えてる。確かにあいつは相当の化物だってのは分かる」
現に1回殺されかけてるしな、と苦笑いしながら続けるトーカにその青年は表情をより一層驚愕に染めながら、半ば叫ぶように声を上げる。
「まさかあんたジャジャと戦ったのか!?」
「あぁ、けど全然攻撃が通らなくてな。ようやく1発いいの入れたと思ったらおもいっきり反撃喰らって、ここまでぶっ飛ばされて来たんだ」
身代わり人形が無ければ即死だった。
あの一撃は、目を慣らしたところで避けられるかどうか……
ほんの少し前の苦い記憶に誤魔化すように笑いつつ、トーカはウィンドウを操作し、アイテム欄からとあるアイテムを選択し、実体化させる。
トーカの手の中に現れたのは、無骨な作りの弓と何本かの矢が入った矢筒……あの広場で見つけた『臆病者の弓』だ。
トーカはそれを呆然としている青年に向けて差し出した。
「これ、は……」
「村の近くの広場に落ちてたんだ、他の武器と一緒に。返すよ、この弓……お前のだろ?」
「やめてくれッ!」
トーカが差し出した弓は、青年………『臆病者』の手に弾かれ、洞窟の隅に転がっていく。
矢筒から矢が零れる音と、弓が地面を転がる音。その2つの音が止むと、洞窟内は何事も無かったかのように静寂を取り戻す。
「そうだよ……俺のだよ!俺が放り出した弓だ!他のみんなが命懸けで戦ってる中で1人だけ逃げ出した俺の……臆病者の弓だ!」
ただその中で、『臆病者』の慟哭だけが響き渡っていた。
恐怖と後悔と絶望と諦観と、様々な負の感情が綯い交ぜになった悲痛な顔で、『臆病者』は叫び続ける。
「俺は逃げ出したんだ!1人だけ、無様に!親友も兄貴も、親父だって立ち向かって行ったのに!俺だけは踏み出せなかった!みんな死んでく中で1人だけ逃げて!逃げて逃げて逃げて……挙句の果てにこんな森の奥まで逃げ延びて!なのに……なのになんで!」
『臆病者』はすぐ側に落ちていた石を拾い上げ、トーカに向かって投げ付ける。
『臆病者』が投げ付けたその石ころは、どこっと鈍い音を立ててトーカの肩に当たり、HPをほんの僅かに減少させる。
「なんで俺のところまで来たんだよ!なんであの弓を持ってきたんだよ!俺は逃げたんだよ!もう戦えないんだよ!戦いたくないんだよ!それなのに……なんであの弓なんか持ってくるんだよ!」
1度だけでなく、2度3度、もっと多く、石の礫が当たる度にトーカのHPは僅かに減少していく。
「なんで……なんでこんな物持ってきたんだよ……」
『臆病者』が声を上げる度に石の礫はトーカのHPを容赦なく減らし、HPバーが7割を切った頃、『臆病者』はついに手頃な石を投げ尽くしたのか、うずくまって嗚咽を漏らし続ける。
「別にさ、戦えなんて言わないよ」
そんな『臆病者』に向かって、今までどんなに石を投げ付けられても沈黙を保っていたトーカがついに口を開いた。
トーカの口から出たその言葉が予想外だったのか、『臆病者』は静かに顔を上げ、トーカの顔を見上げる。
改めてよく見てみると、年の頃はトーカよりも少し幼い程度だろうか。だいたい14〜15歳ほどに思えるその『臆病者』の少年に、トーカは静かに語りかける。
「逃げるのだって勇気だろ?背中を見せたら真っ先に襲われてたかもしれないんだから。俺は見つけた落し物を届けに来ただけだ。それをどう使うのもキミの自由だよ。護身用の武器くらいないと心細いだろ?」
『臆病者』の少年にそう言うと、トーカは洞窟の外へと向かって歩き出す。
「じゃ、俺はジャジャと戦いに行ってくるわ。やられっぱなしじゃ癪なんでね。デカいの1発かまさないと気が済まない」
そう言い残し、洞窟の外へと出ていくトーカの背中へと『臆病者』の少年は手を伸ばし、トーカの姿が外へ消えるのを見届けると、嗚咽を堪え、力無く地面を叩く。
「なんで……なんでアンタは立ち向かえるんだよ……」
噛み殺した様な『臆病者』の少年の声は、洞窟の静寂に飲み込まれて消えた。
この回は難産だった……
と言うよりは、作者的には書いたはいいけどなんかすっきりしないなぁというかなんというか、書き終えて微妙な後味の悪さがある回でしたが……
どうだったでしょうか?
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




