第75話『相性最悪』
とてつもない速度で吹き飛ばされたトーカは何度も木や岩に叩き付けられ、その度に減速し、最後に崖のように切り立った岩壁に衝突してようやく停止する事が出来た。
「っぁ……」
何が起こった……?
強制的な空中移動の旅によって掻き回され、上手く回らない脳で直前の光景を思い起こす。
そうだ、確かジャジャの眼球に一撃お見舞して……その直後に極太の尾で殴り飛ばされるという手痛い反撃を食らったんだった。
今までよりも数段速くなった尾の一撃に俺は全く反応出来なかった。
言い訳をするなら急に変わった速度に目がついていけなかったというのもあるし、ようやくぶち込めた効果的な一撃の余韻に浸かっていたというのもある。
だが、反応出来なかったというのは紛れもない事実だ。
ゲームであるが故に痛みこそほぼ無いものの、叩き付けられる感覚はリアルだし、《EBO》では痛みの変わりに不快な痺れが生じる。
トーカは全身を取り巻く不快な痺れを感じながら1ミリも減っていないHPバーをぼんやりと眺める。
「コレがあって助かったな……」
そう言ってトーカが懐から取り出したのは見るも無残に砕け散った、元は木彫りの彫像であったと思われる木片。
元は身代わり人形という名前のアイテムだったその木片は、役目を果たしたとばかりに光となって溶け消えていった。
身代わり人形とは、トーカがアルテフのジャジャ討伐クエストを受けた時に渡された報酬の前払い的アイテムであり、見た目はなんの変哲もない人を模した木彫りの人形だ。
だが、平凡な見た目に反してその効果はとても有用なもので、身代わり人形という名前からも想像出来るとおり『1度だけ致死レベルのダメージを肩代わりする』というものであり、攻撃力に比べて貧相なトーカの防御力では即死するはずだったジャジャの一撃とその後の衝突ダメージを受けてトーカが生き残っていたのは、紛れもなくこの人形のおかげである。
「痛ってぇ……」
トーカは叩き付けられた岩壁からこぼれ落ちたガレキを払い除けながらゆっくりと立ち上がると、服を叩いて土埃を払った。
依然として黒い靄はまとわりついているが……
「そうだ、今なら確認出来るじゃん」
そこに気が付いたトーカは早速ステータス画面からまとわりつく靄によるデバフ効果を確認する。
それは、トーカにとって相性最悪と言っても過言では無い程の効果であった。
黒い靄によって与えられていたデバフ効果は2つ。
『ステータス値の固定』と『解呪妨害』……つまりは一切の強化を受け付けなくなり、かつデバフの解除をさせないというものだった。
『ステータス値の固定』は称号やアイテム、スキルの効果によって上昇するはずのステータス値を打ち消すというもので、プレイヤーは素のステータスでしか戦えなくなる。
特にトーカの場合はその火力の大部分は『撲殺神官』と『重鋼鉄棍』、そして『付与魔法』による強化で支えられていたため、火力面はガタ落ちである。
「ったく、厄介なデバフだな……」
物は試しと状態異常回復の【キュア】などを使ってみたが、この靄が消える事は無かった。
実はこのデバフは呪い扱いであり、呪いを治すには『回復魔法』と『呪術魔法』を一定レベル以上に上げ、かつ一定回数以上『呪術魔法』による呪い系デバフを解除することで習得出来る『解呪』というスキルが必要になる。
大抵のプレイヤーはまず『呪術魔法』を持っていない上、まだ呪い系のデバフを与えてくるモンスターがジャジャや呪蝕眷属などの一部の例外を除いて存在しないということで『解呪』の取得が難しく、万が一『解呪』を所持していたとしても『解呪妨害』によって『解呪』が妨害されている。
トーカも『呪術魔法』と『回復魔法』を一定レベル以上にするという条件は満たしているものの、呪い系のデバフを食らった経験が今回が初なのでその条件を満たせていない。
というかそもそも呪い系のデバフに『解呪』という特別なスキルが必要だということ自体を知らない。
一応『回復魔法』のLv.7に【カースキュアー】という低ランクの呪いを解除出来るスキルもあるのだが、このジャジャによる呪いは決して低ランクと呼べるようなものでは無いため効果は無い。
よって、現状トーカにこのデバフを解除する手段は存在しないのだ。
「ステータス固定に解除……いや、この場合は解呪か。解呪不可とか……このクエスト、滅茶苦茶エグイな……」
恐らくはこのクエストはもう少し後半になってから挑む事を前提にしているのではないだろうか。ジャジャのレベルも70と高く、与えてくるデバフも凶悪極まりない事からもその事は容易に想像がつく。
だが、どんな巡り合わせか俺はこのクエストを引き受けてしまった。
「なら最後までやり通すのが筋ってもんだろ」
勢いよく自らの両頬を張り、覚悟を決め直す。
気合を入れ直したトーカは武器を構え直し、まだ遠巻きにその姿を確認出来るジャジャのいる方向へ向かおうとして……自分が打ち付けられた岩壁のすぐ側に洞窟の入口らしき穴を見つけた。
「ここは……」
まさかとは思いながらも、トーカの足は洞窟に向かって進んでいた。
幸いな事にジャジャはトーカの姿を見失っているようなので、多少の寄り道は大丈夫だろう。
そう自分に言い訳しつつ、洞窟に足を踏み入れたトーカが目にしたのは……洞窟の隅でうずくまり、ブツブツと何かを呟いている1人の青年の姿だった。
とりあえず火力にものを言わせて殴って終わりじゃ味気ないなぁと思った結果、ジャジャとトーカの相性が最悪になりました。
後悔も反省もしていないが戦闘を上手く書けるかは不安である。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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