第73話『巣穴』
ストック作りが難航してーら
冬休みが終わって執筆時間が行き帰りの電車内と夜しかないからどうしてもペースが落ちる……
薄暗く、ジメジメした空間にコツコツと足音が微かに響き渡る。
『暗視』と『隠密』をフルに発動して最大限の注意を払って洞窟の中を進んで行く。
トーカが足を踏み入れた洞窟は入口付近に小さな空間があり、そこから伸びている一本道を少し奥に進むと道が2つに分かれていた。
「分かれ道か……迷ってる時間ももったいないし、右でいいか」
右を選んだことに理由など無い。強いて言うなら俺が右利きだからという程度だ。
右に進む事数分。開けた場所に出た。その場所は、思わずため息が出てしまうような、美しいという訳ではないのだが、神聖さをありありと感じ取れる空気が漂っていた。
「ここが……踊り子が踊りを奉納する場所だったんだろうな」
体育館程では無いがそこそこ広い空間の中央に少しせり上がった場所がある。それこそまさにステージの様に。
ただしその神聖さも今や過去の残滓でしか無かった。
半分程が崩れ去り、壮絶な破壊痕を残している奉納地を少し進めば見つかった白骨死体。
だいたい大人二人と子供一人分。
これが村長が言っていた、懇願しに行って帰ってこなかった踊り手とその両親の成れの果て……なのだろう。
よく見てみると、どちらの遺体も損傷が全く無く、守り神の元に懇願しに行ってからそこまで日が経ってない事も合わせて考えると、生きたまま丸呑みされたのだろうか……
「そうだとしたら……辛すぎるな」
結構ハードな背景だが……メンタルが弱い奴がこの現場に来てたらここで心折れてたかもしれないぞ?ちょっとクエストとして重すぎませんかね……
目の前に転がるあまりにも悼まれない3人の遺体を見ていると、正式な作法などは知らずとも彼女等の冥福を祈ら無い訳には行かなかった。
しばらくの間3人に黙祷を捧げていたトーカは、その後静かに破壊された儀式の間を後にした。
遺体を見つけるまでに結構この場所を調べはしたが、結局めぼしい物は3人分の遺体しか見つからなかった。
ここがジャジャ関連の場所である事はほぼ確定している。となると、先程の分かれ道、そのもう片方の道はどこへ繋がっているのだろうか。右が儀式の間だった事を考えると、ジャジャの寝床かはたまた別の場所か。
重鋼鉄棍を握り閉めたトーカは、『隠密』を最大限に発動させながら分かれ道まで引き返し、そのままゆっくりと左の道へ進んで行った。
曲がりくねった道を注意深く観察しながら10分程歩き続けると、先程の儀式の間よりも一回り狭い空間に出た。
辺りには食い荒らされた魔物の残骸や骨などが散乱しており、なにかしらの寝床であることは間違いない。
というかほぼ間違いなくジャジャの寝床だろう。逆にここをジャジャ以外が寝床にしていたらそれはそれで恐ろしい。
「ここが……」
その寝床はジメジメとはまた違う不快な湿気と共にうっすらとした黒い靄に満たされており、とても長居したいとは思えない様な場所だった。
特にこのまとわりつく様な不快な黒い靄が曲者で、ただでさえ暗い洞窟内の視界を更に悪くしている。探索しづらいったらありゃしない。
「カレットがいれば風魔法で吹き飛ばしたり出来るんかね……」
無い物ねだりをしつつ鬱陶しい靄と不快な湿気の中を半ば手探りのように探索していると、部屋の隅の方でとある物を見つけた。
それは、恐らく卵だったのだろう。いくつもあったツルツルとした白い殻の卵は、だが“だった”と過去形で表現したように今はもう卵とは呼べない姿に成り果てていた。
叩き付けられたかのように無残に砕け散った欠片の中には、いくつかの干からびた紐の様なものは卵から孵る前の小さな蛇達……次代の守り神達の死骸なのだろう。
トーカは先程と同じ様に黙祷を捧げると、地面に小さな穴を掘りそこに産まれる事のなかった小蛇達を埋葬する。
本音を言うならば先程の3人も同じ様にして弔ってあげたかったが、人間3人分の穴を掘れる様な道具は持ち合わせていなかったので断念せざるを得なかった。そんな経緯もあって、小蛇達を埋葬するトーカの手付きも自然と丁寧なものになる。
「せめて安らかに……」
そう呟いてから、ふと疑問が湧き上がってきた。そう言えばこのゲームの神官ってなんの神に仕えてる設定なんだろう?
回復魔法とか付与魔法とかを得意にしているからそういう癒しとか施しとかの神だろうか?
どう考えても俺のスキルや称号は破壊神とか死神とか邪神とかの類に仕えていそうなラインナップになってるけどな……
閑話休題。
とりあえずここがジャジャの巣穴で間違いないんだろうけど……当初の目的の『臆病者』は見つからなかったな……
いやね?さすがにここがジャジャ関連の洞窟(祠?)だって分かった時点でここに『臆病者』はいないって分かってたけどさ。
村を滅ぼした怪物の巣穴に隠れる度胸があるなら多分逃げたりしてないと思うし。
ここはジャジャの巣穴ではあったけれど、家主はいなかったし目的の『臆病者』も見つかっていない。
この場所は覚えたので、1度ログアウトして夕飯にしよう。
そんな事を考えながらジャジャの巣穴(マップで確認したところ正式名称は“守り神の祠”だった)から出たトーカの目の前に、ソレはいた。
見上げるほどの巨躯は全てを飲み込む様な深い漆黒の鱗に覆われ、その身に濃い闇色の靄を纏わせている。
全てが黒に塗り潰されたそのなかで、瞳だけが不気味な黄金に輝いていた。
偶然か必然か、目の前に現れた漆黒の大蛇はその夜闇に輝く月のような黄金の瞳でハッキリとトーカを見据え、瘴気が漏れ出す口からちろりと赤い舌を覗かせる。
「マジかよ……!」
どうする?とか、そんな事すら考える間もなく、半ば無意識に体は動き出していた。
「【グラビトンウェーブ】ッ!」
『縮地』で背面に回り、容赦なく頭部ないし弱点にぶち込まれた、『縮地』で勢い付した【グラビトンウェーブ】による必殺の一撃。
直後に響き渡る巨大な打撃音と吹き荒ぶ衝撃波。
だが、それがもたらした結果はいつも通りのものではなかった。
まず最初に内側から爆ぜるようにして黒い靄が弾け飛び、霧散していった。そして、その中から現れた無傷の黒大蛇。
『縮地』による空中踏み込みと『邪々堂々』によって強化された初手不意打ちによってえげつない倍率になった、『手加減』を使用しなければ辺り一帯がまとめて消し飛ぶ最凶の一撃。
だが、黒大蛇はそれを喰らってなお生きている。それどころか黒大蛇は漆黒の靄こそ無くなっているものの、なんのダメージも受けた様子は無かった。
一撃では倒れない事は予想出来ていたとはいえ、この一撃を喰らってノーダメージと言うのはさすがに予想外だ。
とはいえ、そこまでのダメージも出ないとは思っていた。
というのも、漆黒の大蛇を殴り付けた手応えが無かったのだ。
いや、正確に言えば攻撃を当てた感覚はあった。ただ、ダメージになった手応えが無かったのだ。これは感覚的な事なので言語化するのが難しいのだが……ともあれ攻撃を当てた瞬間に理解したのだ。
“あぁ、これは効いてないな”、と。
そして、現に黒大蛇……ジャジャはピンピンしている。
状況から察するにあの黒い靄がダメージを肩代わりしたのだろう。
1度だけあらゆる攻撃を無効化する、とかそんな感じの効果だったら盛大な無駄打ち感が拭えないが……『一撃粉砕』があり、初撃決着を得意とする俺はジャジャとは元々相性が悪かったのだろう。
どの道高火力のでる初撃は潰される運命だったのだ。過ぎた事を悔やんでもしょうがない。
それよりも考えなくてはいけないのは……
「既に最大火力を打ち切った状態でこの化物を相手に1人でどれだけ戦えるか……だな」
とりあえず勝てなかったらリクルスとカレットも呼ぼう。
そう心に決め、トーカは重鋼鉄棍を握りしめ直し、ジャジャに向き直った。
出鼻をくじかれたトーカはジャジャ相手にどう戦うのか!?
というところでやってまいりました、設定を考えたけどプレイヤーは知る由もない豆知識のコーナー!
今回お教えするのはトーカの出鼻をくじいた黒い靄についてです。
『呪靄障壁』
黒大蛇が纏っていた呪いの靄による障壁。
一定量までのダメージを肩代わりし、容量を超えると霧散する。
呪いが肩代わりしたダメージは全て呪蝕された眷属に与えられる。
実は眷属は2体いてトーカが倒した個体の他にもう一体いたが、呪靄障壁とトーカのば火力のせいで誰にも知られずひっそりと力尽きた。
呪いに侵蝕されて登場すらせずに死んだ眷属は泣いていい。吉野は泣いた。
以上、豆知識のコーナーでしたー(次回未定)
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




