第72話『いざ洞窟へ』
「邪々堂々……ね」
この手の称号は……『粘着質』を除けばイベントの最後の方の『詐欺師』以来だな。イベントではっちゃけ過ぎた分あれからは自重してたからな。
効果の程は……
『シャ、シャァァァッ!』
「あ、生きてる」
お得意の確殺コンボが決まり、完全に油断し切っていたトーカに向かって眷属の太い尾による一撃が襲いかかる。
『縮地』でのバックステップで尾の一撃を紙一重で回避すると、開きかけたウィンドウを閉じて眷属に向き直る。
頭部が激しく陥没し、HPバーも残り1割を切っているとはいえ、完全に殺し切るまで油断は禁物だ。
どうも最近一撃必殺が多過ぎて一撃決めたら終わりが普通になってしまっていた。気を引き締めないとだな。
「行くぞッ!」
『シャァァァァァァァッ!』
『威圧』を撒き散らしながら眷属に向かって突っ込んで行く。
眷属も迎え撃つ様に鋭い威圧の声を上げ、トーカに喰らいつこうと顎門を開く。
トーカを食い殺さんと迫り来る眷属の顎門を今度こそ眷属を殴り殺さんとトーカの重鋼鉄棍が迎え撃つ。
顎門と重鋼鉄棍がぶつかり合い、周囲の木々を震わせるような轟音がなりびく。
押し負けたのは……トーカだ。
眷属のその巨体を活かした、上から抑え込むようなただでさえ重いその一撃に、己の武器自身の重みが加わり、トーカは重鋼鉄棍を思いっきり振り抜く事が出来無かったのだ。
思わず膝を付いたトーカは、勢いそのままに後方に転がる事で、眷属に押し潰されるという事態を防ぐ。
《レベルが上昇しました》
《解放条件を満たしました》
《『??龍の短剣』の能力が解放されます》
しかし、眷属に出来たのはそこまでだった。
お互いの渾身の一撃がぶつかり合った衝撃に、残り僅かだった眷属のHPが耐えきれなかったのだ。
トーカはと言うと、倒れ込んだまま起き上がる様子のない眷属のHPとレベルアップを知らせるインフォメーションを見て、辛くも自身が勝利を収めた事を実感し、ふうっと息を吐く。
そんなトーカの前で、先程の巻き戻しの様に眷属の体から黒いモヤが抜けて行き、数秒の内に眷属の体は元の色に戻る。
そして、元の色に戻ったのもつかの間、今度は眷属の体その物が光となって溶け消えていく。
本来なら既に死んでいた眷属の体に、黒いモヤが入り込む事で無理やり動かされていたのだ。肉体の限界はとうに超えていた。
「………………」
目の前で溶け消えていく眷属に、トーカは無言で手を合わせる。
この眷属も、守り神と同じく呪いに汚染された被害者だったのだろう。
トーカは知りえぬ事だが、この眷属は最初にトーカが倒した黒いモヤ……この地に染み付いた呪いに侵蝕される前の段階で、トーカに襲いかかって来た時点で既に1度殺されており、変化が表面に出ない程度に呪いに蝕まれていたのだ。
故に、眷属が呪いに汚染された直接の原因はトーカでは無いのだが、そんな事を知る由もないトーカは死にゆく眷属に無言で黙祷を捧げていた。
黙祷を捧げ終わったトーカは、そろそろいい時間という事もあり、あと10分で何も見つからなかったらログアウトして夕食の準備に取り掛かろうと決めた。
そして、そんな事を決めたすぐ後に状況が変化するという事はもはやお約束と言ってもいいだろう。
あと10分と決めてから5分と経たない内に、トーカは雨風を凌げそうないい感じの洞穴を見つけてしまった。しかも、最近人が出入りしていると思しき痕跡まで見つけしまったのだ。
今夜の夕飯は少し遅くなるかもな……
そんな事を想いながら、トーカは洞穴に足を踏み入れ……る前にウィンドウを開く。
危ない危ない。あまりに呆気なく洞穴が見つかったもんだからSPの割り振りと称号、あとついでに『??龍の短剣』の強化された性能の確認を危うく忘れる所だった。
おわかりいただけただろうか。あの『???の短剣』の伏字がひとつ取れたのだ。
3文字目の伏字が『龍』に変わっているのだ。『龍』ってなんだよ。こちとら劣竜しか見た事ねぇよ。
そんな『??龍の短剣』の現在がこちら。
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『??龍の短剣』
??龍の牙を使った短剣
この武器は竜種の核を喰らい強化されていく
またこの武器は使用者の実力に応じて性能が解放されていく
【解放レベル3】
STR+60 DEX+30
物理攻撃強化 破壊不可
『竜族特攻Lv.3』
【強化】 1
VIT+5
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解放レベルが上がった事でSTR増加の値が上昇し、他にも『竜族特攻』のレベルも上昇している。
ちなみにイベントで手に入れた地竜核(小)をこの武器に使用出来る事に気付いて使用してみた所、伏字が取れたのだ。
また、【強化】の欄にもVIT+5と言う項目が増えていた。
もしかしなくても他の竜核を与えていけばさらに強化されて行くのだろう。
そしてお次が本命。久しぶりの名前がヤバいシリーズの称号である『邪々堂々』だ。名前からしてもう正々堂々をもじっている事が丸わかりである。正直言って嫌な予感しかしない。
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『邪々堂々』
正々堂々真正面から邪道な戦い方をする者に
与えられる称号
相手に自身の存在を知覚された後にその戦闘で
初の不意打ちを成功させると不意打ちの効果が2倍
また、相手が知覚した上で与える外道な攻撃でのダメージが増加する
せんせー、僕は正々堂々どんな手を使ってでも相手をぶちのめす事を誓います
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……宣誓って聞いただけだと先生に聞こえるよね。結構長い間勘違いしてたわ(現実逃避)。
なんでこうさぁ、名前がアレな称号とかスキルに限って効果がいいわけ?だってこれのおかげでさ、初手不意打ちのダメージが『不意打ち』とこの称号の効果で4倍になる訳でしょ?『一撃粉砕』の効果で更に2倍で計8倍。
そこに不意打ちならまず間違いなく『外道』の2倍が乗るから……初手不意打ちだけでもう16倍だぞ?もうそれだけで大抵は消し飛ぶんじゃね?
しかもフレーバーテキストの宣誓の所で『僕たち私たち』じゃなくて『僕』単体ってところがもうね。他全部引きずり下ろして自分だけ勝ち残る気満々じゃねぇか。
しかも『不意打ち』のサポートだけで終わらないんだよこの称号。
不意打ちかました後も外道な攻撃(判定は結構謎)のダメージを増やすというこの働き者ぶりね。
称号欄だけ見たらもう神官のそれじゃ無いよな……
パワーアップは嬉しいけど名前がなぁ……という複雑な感情を持て余したトーカはため息をつきながら洞穴の中へ足を踏み入れる。
考えたってもうどうしようも無いんだ。だったらせいぜい有効活用してやろうの心意気だ。
ちなみにトーカ はSP50をSTRとINTに半分ずつ割り振った。これでさらに火力が上がることになる。
もはや並のどころか特出した前衛以上の火力を誇る神官は一体どこへ向かっているのか……少なくとも一般的にイメージされる神官とはかけ離れていることは確実だろう。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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