第68話 『テメェかよ』
「結局分かったのは恐ろしいバケモノだって事だけか……」
夕焼けに染まりつつある街道を歩くトーカはそう独り言ちる。
あの後、園長から『ジャジャ』についての話を聞いてそのまま託児所を後にしたトーカであるが、その後ろ姿はどこかへ影があるようにも見える。
園長から聞いて判明した『ジャジャ』の特徴は以下の3つ。
恐ろしく巨大な怪物である。
禍々しい闇を纏っており、その姿は視認できない。
『ジャジャ』の前では何故か本来の力が出せない。
対面した園長は数発いなした所で武器を壊され、その後の一撃でやられてしまったが、なんとか男衆の一部の人達が連れ帰ってくれたため一命を取り留めたらしい。
そして『ジャジャ』を食い止めるために園長と入れ替わりになった者達は戻ってこなかった。
その事実が園長の心に深い傷跡を残しているのだろう。かつては村一番の槍の使い手で、男衆の狩りに付いていくどころか率いて魔物狩りに行っていた園長であったが、それ以来ロクに槍を持つ事すら出来なくなってしまったらしい。
そんな事を自虐的に弱々しい笑みを浮かべながら語る園長の表情は瞼に焼き付いている。
勝てるかは分からないし、そもそも『ジャジャ』がプレイヤーと戦えるエネミーとして存在しているのかも分からない。それどころか倒してどうこうという話ではないだろう。
だけど、俺は心に決めた。挑めるのなら挑もう。倒せるのなら倒そう。人によっては所詮はゲームと言うかもしれない。人の不幸で飯がうめぇ!とか言う人もいるかもしれない。それはそれで個人の自由だろう。だから俺は決めた。
トーカは拳を強く握りしめ、夕焼けに染まる空を見上げ、心に誓う。
絶対に、『ジャジャ』をぶったーー
「ついに見つけたぞ!我が同族よ!」
……空気読めよ。
◇◇◇◇
道端で突然『同族』などと声をかけてきた変じ……人物は黒いローブに身を包み、ねじ曲がった木製の杖を持っている、どこか怪しい老人だった。
杖を持っているところから魔道士に類する人物だとは思うが魔法と言うよりは黒魔術を使っていそうな雰囲気を纏っている。
そんな老人に訳も分からぬまま連れられてやって来たのは路地裏のさらに奥に位置する怪しげな建物の一室。現実だったらこんな怪しげな人物にはホイホイついて行ったりはしないが……クエストフラグが立っていたので仕方なしに付いて行く事にしたのだ。
ちなみにクエストフラグというのは……なんて言うんだろ、別に目に見えてどうこうという訳じゃないんだが……直感というかなんというか、そう言った感覚の事だ(無理やり)。
これがシステム的な物なのかタダの直感による物なのかは分からないが時たまそういう現象があるのだ。この感覚は過去に何度かあったが全てがクエストに繋がったのでクエストフラグと俺は勝手に命名している。
まぁそのクエスト類は全ての他愛ない物だったが。
「それで、こんな所に連れてきて何のようだ?そもそも同族ってなんなんだ?」
変な部屋に人を連れ込んで興奮している老人(ここだけ見ると限りなく変態)に胡乱気な眼差しを向けるトーカ。
そんな視線を向けられた老人はと言うと、未だに興奮冷めやらぬ様子で怪しげな小棚から取り出したナニカを片手にまくし立ててくる。
「お前さんも同族ならばこの部屋の素晴らしさが分かるであろう?この部屋は我が生涯の半分以上をかけて収集した秘蔵の物たちなのだ。ははは、感動のあまり声も出ないか!それも仕方のないことだろう!これを見て感動しない同族などおらんわ!」
いや、そんなキモイもん見せられても感動とかしないから……
トーカのそんな気持ちが顔に出ていたのか老人は相当驚いたようで、目を見開いてフリーズしていた。
「だから同族ってなんだよ……」
「お前さんは何を言っているんだ?そんなに呪の香りを漂わせておいて同族ではないと言うのか?」
「呪の香り?……まさか『呪術魔法』の事か?」
『呪の香り』という聞きなれない単語によって連想されたのは、おそらくプレイヤーではまだ俺だけしか習得していない魔法(イベント時までで)『呪術魔法』だった。
「呪術……魔法?何を言っておるんだ?呪術と魔法は確かに祖を同じくするモノだが、呪術と魔法は別物。間違っても『呪術魔法』とひとくくりにできるものでは無い」
「そうなのか?でも俺が使えるのは『呪術魔法』だぞ?」
「ふむ……」
いかにもな三角帽ともじゃっもじゃの髭によって目元くらいしか見えない顔を伏せ、髭をもしゃもしゃといじる老人。
「お前さんは異邦人じゃな?ならば呪術を魔法として扱うという特異性を持っていても不思議ではない……のか?いや、しかし呪術は魔法以上に複雑かつ長時間の儀式が必要なものだ。それを魔法などというモノで代用できるものでは無いはずだが……」
そしてブツブツと1人思考に没頭していく老人。
考え事をする時の癖なのか髭をもしゃもしゃのいじくりまわし、更には蹲る様にかがみ込んで丸まってしまう。そうすると、もはやその姿は着ているローブと三角帽で構成された黒い塊になってしまう。
そして聞こえてくる音の羅列。何かについてをひたすら考察し続けているため、もはやその声は単なる音としてしか聞き取れない。
そんな異音発する黒い塊を前に、心中で「ハズレか……」と呟くと、踵を返し部屋から出ていこうとする。
そして外へと繋がるドアへと手をかける。その時、ふと視界の隅に何かが写る。それに激しく興味を惹かれたトーカはふらふらと引き寄せられる様に戸棚の一角へと歩を進める。
「おぉ……」
そこにあったのは、直径4cm高さ10cm程のガラスの円柱状の容器に収められた、ほのかに発光する薄緑色の液体の中に浮かぶトカゲ(の様な生物)だった。イメージで言えばホルマリン漬けが1番近いだろうか。理科室の戸棚にあるアレである。
トーカ……護も男子である。ホルマリン漬けとかカエルの解剖とかそう言った物に興味はあるし、こんないかにもなモノを見せられてはテンションも上がろうというものである。
目を煌めかせながら戸棚に並ぶ様々なモノを保存した円柱状の容器を夢中になって眺めて行く。
(トカゲ、赤いトカゲ、コウモリ、ネズミ、……なんだこれ?双頭のヘビ……か?カエル、ネズミ……)
「ん?これは……」
いくつかのホルマリン漬け(仮定)を眺めていたトーカは、これまでの物とは違う、異質な物を見つける。
それは他の物が薄緑色である中、一つだけ濁った様に淀んだ青色をしており、更には他のモノは丸々一匹収められているにも関わらず、それはこの容器の中のものは、ソレ単体では何なのか、何の生物の一部なのかはは分からない。辛うじて鱗のように見えると言った程度だろう。
「なんか……気持ち悪いな」
その(暫定)鱗を見ていると(正確には鱗が入ってる青色の液体)どことなく不快感に襲われ、思わずその場を後にするトーカ。
そのまま外へ出ようと扉に手をかけたその時、背後からしわがれた老人の声が聞こえてきた。
「お前さんはなぜ帰ろうとしているのかね!?」
「えぇ……あんたが1人でぶつぶつと自分の世界に入っていったから帰ろうとしたんだけど」
「それについてはすまんかった!だがもう結論は出た。だから本題に移ろうと思う。だから話を聞いてくれ!」
「ちなみにその結論ってのは?」
「それは簡単。よく分からない事が分かった」
「そうかい……」
呆れた顔でため息をつくと、トーカは踵を返……そうとして老人に物理的に後ろ髪を引かれーー
「いでででででっ!でぁっ!」
「ぬおっ!わぐぁッ!」
突然の痛みにトーカは思わずその原因を放り投げる。投げつけられた老人は先にあったトーカが先程まで見ていたホルマリンの様なもの漬けが並べられた棚に激突する。
「ぐ、ぐぅ……酷いことを……ぬぁッ!」
打ち付けられた背を擦りながら文句をこぼす老人だが、突如目を見開き、少し先へと飛び込む。転がった老人の手にあったのは、トーカが不快感を覚えたあの青い液体漬けの鱗が入ったビンだった。
「ぬぁにをするか!」
「す、すまん……突然の事で思わず……」
老人は、あまりの剣幕に頬をひきつらせながら謝るトーカを見てフンッと鼻を鳴らすと、青い(ryビンを棚に戻し、真剣な眼差しでトーカを見つめる。
「な、なんだ……?」
「頼むっ!お前さんにしか頼めないのだ!どうか……どうかアレを始末してくれ!始末してくれた暁には我が秘術をさずけよう!」
百点満点の土下座。まさにそう評する他ない圧倒的な動きだった。
一切のぎこちなさの無い滑らかな動き、口元(見えない)以外一切動かぬ不動の精神、そして何より美しいそのフォーム。もはやそれは芸術的な価値すらあるだろう。だから博物館に行ってください。早く今すぐ早急に。
「なんだ……?いや、マジでなんなんだ!?」
「お前さんはワシと同じく『呪』を操る者。故にこそ頼みたい、我が過ちを……あの呪いの産物を討ち滅ぼしてくれ!」
目の前の現実が飲み込めず、ほうけているトーカにお構い無しに老人は続ける。
曰く、この老人が発動した呪術によって1匹の生物が汚染された。
曰く、その生物は元から強大な力を宿しており、呪いに蝕まれた事で力こそ弱っているものの、狂暴な性質に変わってしまった。
曰く、その生物はその生物が寝床にしている場所の近くにある村を滅ぼしてしまった。
曰く、ワシの名前はアルテフ
曰く、その生物に宿った呪いはやがて周囲をも侵食していってしまう。
それを聞いたトーカは思わず叫ぶ。
すなわちーー
「テメェかッ!!」
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
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今後も当作品をよろしくお願いします!




