第66話『村長の悔恨』
あけましておめでとうございます。
この作品もかれこれ1周年を迎えました(半年くらい更新してなかったけど)
1話を投稿してからかれこれ1年経つ今日こそ投稿を再開するべきだと思い、投稿しました。
ストックが続く限りは定期的(2〜3日に1回)に投稿しようと思います。
2019年も当作品をよろしくお願いします!
「……ひ、と?」
村長老の思わぬ言葉に、無意識に掠れた声を漏らす。
「そうじゃ、守り神様は……村民の命を求めてきたのじゃ」
「それは、なん……」
『で』と続けかけてギリギリで言葉を飲み込む。
なんで?そんなの……分かるわけない。
「ほっほっほ、儂の半分どころかその半分すら生きていない小僧がそんなに気を使うでない」
朗らかにヒゲを撫でていた村長老は、打って変わって真剣な表情になると、頭を下げた。
「じゃが……心遣い感謝する」
大人だ……年齢だけの大人じゃなくて中身がしっかりとした大人がいる……
村長老の大人な対応に思わずたじろぐトーカ。それに気が付かなかったのか見逃してくれたのか、村長老は特に反応を示す事はなかった。
「守り神様がヒトを要求してくるなんて前代未聞の大事じゃった。過去に最も多くの供物を求められた時でさえ鹿や熊等の中〜大型の獣数十体に酒を大樽10個ほどだったと言うのに……しかもその時は後になって、急遽旧友と会う事になって量が必要だったという事が神楽担当の娘を通して伝えられ、その年は大豊作に無病息災に恵まれたと記されておった。
しかし今回は求めらているモノがモノじゃ、どうにか撤回してもらおうと村一番の踊り手が懇願に行ったのじゃが……その娘は帰ってこんかった。更にはその娘を探しに行った両親も帰ってくる事はなかった」
村長老は悲しそうに目を伏せ、言葉を続ける。
「結局儂等は供物を捧げぬ道を選んだ。この要求は何かの間違いで、少ししたら撤回され、娘とその両親も帰って来る。そう信じて……儂等はその道を選んでしまった。今思えば村民の命を求められた時に皆で逃げればよかったのだろう……」
その言葉に込められた深い感情の底を推し量る事はトーカには出来ない。ただ村長老の言葉に耳を傾ける事しか出来なかった。
「そして……供物が捧げられぬ事に怒った守り神様は儂等の村を、儂等を滅ぼしに来たのじゃ。その時に現れたのは……お世辞にも神と言えるようなモノでは無かった。一部の者は『ジャジャ』と言っておったか……禍々しい闇を身に纏う正真正銘のバケモノじゃった」
『ジャジャ』……ね。それが村一つを滅ぼしたバケモノの名らしい。
「運のいい事に儂等はあの村から……ジャジャから逃げ延びることが出来た。しかしそれは……村の若い男衆があのバケモノを命懸けで足止めし、儂の様な老いぼれや女子供と言った抗う力の無い者を逃がしてくれたおかけじゃ……」
ぽつりぽつりと語る村長老のこぶしは血が出そうな程にきつく握り締められており、震えるこぶしが村長老の内心を雄弁に語っている。
「お主は……恐らく儂等の村の跡地に向かうつもりなのじゃろう?」
ふっとこぶしから力を抜いた村長老はトーカに尋ねる。村長老は、疑問形式の言葉とは裏腹に確信を持った瞳でトーカを見つめいてる。
「えぇ……まぁ」
「ほっほっほ、そんな顔をするでない。儂等は逃げ出した者。お主を止める権利などありはしない」
後で村を探して行ってみようと思っていたトーカは内心を見透かされ、少し気まずそうな顔になる。
「ただ……無理にとは言わないが、儂の、村長としての最後の依頼を聞いてはくれないか?」
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シークレットクエスト《村長の悔恨》
クエストを受けますか? yes/no
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内容もクリア条件も記されていないシンプルなウィンドウ。淡白なソレがむしろ村長老の心の内を雄弁に語っている様な気さえしてくる。
もしかしたらとんでもない条件が課せられた地雷クエストかもしれない。しかし、トーカは迷うこと無くその依頼を受ける。トーカには、村長老の強く悔やむその姿を見せられてなお断る事は彼には出来なかった。
「……話してください」
「そうか……本当に、感謝する。儂が頼みたいのは何もジャジャを倒してほしいと言う訳ではない。ただ帰ってこなかった踊り手の娘とその両親。そして儂等を逃がすために村に残った男衆の……遺品を回収してきてほしい。もはや彼等が生きている事は期待出来ないじゃろう。ただ生き残ってしまった者の役目としてせめて弔ってやらねばと思ってのぉ……こんな儂等の事情にお主を巻き込んでしまって申し訳ないが……」
「いえ、そんな事は……任せてください」
「そうか……ありがとう。本当にありがとう……」
村長老は心底ありがたそうな顔をすると、何度も何度も俺に向かって頭を下げ続けた。
◇◇◇◇
村長宅を後にした数十分後、現在トーカは廃村の子供たちを集めた託児所の様な場所を訪れていた。
村長老曰く、その家には村の子供たちが集められ、大人複数人で面倒を見ているらしい。男手が減ってしまったため、逃げる際に護衛に回った男衆など、稼げる者は稼ぐ事に専念しなければならない程の世知辛い状況になってしまっているのだ。
なので、村の者でも特に子育てが上手い者たちがまとめて子供たちの面倒を見て、それ以外は店を開くなどして稼ぐ事になっているという『村民皆家族』な生活を送っている。
ちなみに、村長老は村一番の高齢者であり、稼ぐ事はおろか子供のせわすら出来ず、穀潰しになってしまうと判断した彼は1人で残り少ない余生を過ごす事にしたらしい。
なぜここに訪れたのか……それにはいくつか理由があるのだが、そのうちの一つがコレだ。
「くらえー!しょーけん!」
それっ、ぽかっ
「いけぇー!ふぁいあーぼーる!」
ていっ、ぽむっ
「「はんげきされるぞー!にげろー!」」
すたたたたっ
「待てー!」
「いかせるかぁ!うぉーるがーど!」
ずるずる、とんっ
「かいふくしなきゃ!ひーる!」
ぴかっぴかっ
「眩しっ、ってヒールってデバフ攻撃じゃな……」
「いまだー!いっせいこうげきー!」
どどどどどど!
「うおっ、ちょ、まっ」
ぽかぽかっ、ぽむっぽむっ、「落ちつ……!」はむっ、あむあむ、「ちょっ!指咥えるな!」とんとんっ、「ん?なん……」ぺしっ、「ええっ!?」だきっ、ぬちょっ、「ぬひゃっ!?なにこ……」ぱちんっ、こつんっ、「ちょっ、今の地味に痛たっ」ぎゅー、「うおっ、抱きついて来た!?」よじよじ、「そこ捕まると危な……!」ぶらぶら〜ん。
「ゆらすな……!あっやべっ……!」
どさっ!
「「「「かったぁ〜!」」」」
そう。子供たちの遊び相手である。
キャイキャイと青空に響く元気な声。疲れを感じさせない高い声は木々の狭間へ吸い込まれて行く。
少し広い芝生の庭。安全面に配慮された事がよく分かる、細かな気使いが見て取れるその場所で、4人の小さき勇者達は勝鬨を上げる。
その声は、どこまでも明るい元気な声。そんな声の主達……4〜5歳程の子供たちに群がられ、芝生に押し倒されている白髪紅眼の人物。トーカは今、子供の体力の無尽蔵さを嫌という程実感していた。
「かったぞ〜!」
「わたしのひーるのおかげだね!」
「ぼくのうぉーるがーどもかつやくしたよ!」
「ふっふっふ、おれのふぁいあーぼーるもわすれちゃこまるぜ?」
「あたしのしょうけんもすごかったよ!」
「え〜ぼくのうぉーるがーどがいちばんだって!」
「ふぁいあーぼーるがなきゃかてなかったよ!」
「わたしのひーるがいちばんかつやくした!」
「しょーけん!しょーけんがいちばんすごいの!」
「「「「うぅ〜!」」」」
倒れ込むトーカの上で群がってキャイキャイとはしゃぐ子供たち。その雰囲気が少し険悪になりはじめ、トーカは慌てて止めようと体を起こそうとするが、上に子供たちが乗っている状態では起き上がることが出来ない。
結果、寝転がったまま仲裁するという手段に出るが……
「みんな、ケンカはや……」
「「「「じゃあみんないちばんだ(ね)!」」」」
「め……そっすか」
あぁ穢れを知らぬ純粋な子供たちよ……願わくばその心忘れぬように……
少し体を浮かしかけたトーカは、純粋な子供たちの優しい解決法に脱力し、再び体を芝生に沈みこませる。
ぐでぇ〜と脱力したトーカに気が付いた子供たちは、その姿を少し眺めると、楽しそうにトーカの周りでごろごろと転がり始めた。
しかしそれも数秒の事。すぐに子供たちは転がるのをやめ、トーカの周りで同じ様に脱力する。
「「「「はふぁ〜」」」」
暖かな陽光に目に優しい青い空、ふさふさの芝生は天然の布団となり、遊び疲れた子供たちの体を優しく受け止める。自然の腕に抱かれた子供たちの瞼が重くなるのに、そう時間はかからなかった。
そして、間も無く子供たちは「すぅ……すぅ……」と可愛らしい寝息の四重奏を奏で始める。
現在、トーカの右腕は身の丈と同じ程の発泡スチロールの様な素材の板を持った少年に、左腕は淡く優しい色合いの光を放つ黄色の石を握りしめた少女に、左足は赤いゴムボールを握りしめた少年に抱きつかれ、終いにはやわらか素材のグローブを両手に付けた少女に胴体の上にぐでぇと乗りかかられている。これでは、起き上がろうにも身動き一つ取れない。
無理やり起き上がろうものなら群がっている子供たち……特に上にのしかかっている少女を振り落とすしかなくなってしまう。
「はぁ……。少し、まったりしてるか……」
結局、トーカはその後園長(この施設は一応保育園という扱いらしい)がやって来るまで、寝ている子供たちに抱きつかれたまま寝落ち防止のため寝ることも出来ずに、ともすればゲーム中だという事を忘れてしまいそうな程に穏やかな心地よさを感じながら、10分近く空を眺める事になった。
とりあえずスランプ前に書いた2話とスランプの原因にもなった何とか書き上げた1話、そしてその後にちまちま書いた5話の計8話分は安定して投稿出来そうです。
あ、衝動的に書いた短編も投稿しているので、時間があったら読んでくれると嬉しいです。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




