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閑話 みっしょん・いん・くりすます

メリークリスマスイブ!

という事でクリスマスの閑話をば


……いや、分かってますよ?閑話書いてるくらいなら続き書いて本編進めろって思う人もいるってことくらい。

約半年ぶりに更新したかと思ったら閑話かよって思う人もいることくらい。

でもですね……アイディアが思い付いちゃったら、クリスマス閑話が書きたすぎてもう本編が手につかなくてですね。


ほ、ほら、活動報告読んでない人とかもいるかも知れませんし?生存報告とかスランプ脱却とか諸々の報告もかねてですね?

今回の閑話という運びになったのですよ。


本編の方は……ストックはちまちま書き進めているので、御容赦くだしあ

 


 これは、彼等が《EBO》を始める少し前のクリスマスのお話。


 しんしんと降り続ける雪が、住宅街を白く染め上げていく。

 本日は12月24日、どうやら今年のクリスマスイブはホワイトクリスマスになりそうだ。


 そんな住宅街のとある家の一室に、様々な料理が乗った白いテーブルを囲む3人の男女……護、瞬、明楽の姿があった。


「「「メリークリスマース!!!」」」


 3人が揃って声を上げ、手に持ったグラスを突き出すと、打ち付けたグラスがカツンッといい音を響かせる。


「イブだけどな」

「イブも立派なクリスマスだ!」


 早速チキンに手を伸ばした瞬が茶々を入れると、グラスのジュースを一気に飲み干した明楽が間髪入れずにそう返す。


「よくもまぁ、毎年毎年飽きずに同じやり取りが出来るもんだな」


 空になった明楽のグラスに、新しいジュースを注ぎながら護が呆れたように呟く。


 この護の反応まで含めて、毎年恒例のクリスマスパーティー最初のやり取りとして定着している。


 恒例のやり取りを終えた後が本当のパーティーの始まりだ。お互い小さい頃からずっと一緒にいる気心知れた仲の3人だけのクリスマスパーティーは、案の定飲めや歌えやの大騒ぎーー実際に大騒ぎしたら周辺の家に迷惑なので抑え気味だがーーで、3人はクリスマスパーティーを盛大に楽しんでいた。


「いやーなんだかんだでこの3人でのミニクリパも7回目かぁ」

「小4のクリスマスイブからだから……確かに7回目だな」


 少し疲れたのかジュースで一息付きながら漏らした護の独り言に、チキン頬張っていた瞬が指を折って数えながら反応を返す。


 小4から始まり高1になった今でも続いている3人だけの小さなクリスマスパーティーは、確かに今年で7回目になる。


 そんな話をしている2人に気付いた明楽が爪楊枝に突き刺した唐揚げを2人に向かってビシッ突き出した。


「そう!つまり今年でクリスマスパーティーは7周年!これはもう盛大に楽しむしかないぞ!」

「それならもっとキリよく5周年とかで……って2年前もこのテンションではしゃいでたな」


 護の記憶の中での2年前のクリスマスパーティーでは、今よりも少しだけ幼い顔付きの明楽が数字以外はポーズまで含めて全く同じ事を言っている。

 というか去年(6周年)の時も3年前(4周年)の時も数字以外は全く同じセリフを全く同じテンションで言っていた気がする。


「そうか……もう初回から7年も経ったのか。そう考えると時の流れって早いよな」

「護……お前考え方がジジくさいぞ」

「うるせ。それより、瞬はおとなしいな。いつもは明楽と同じテンションなのに」


 実際、去年以前のクリスマスパーティーで瞬は明楽側で一緒に護に向けてチキンを突き付けていた。

 だが、どうした事か今年の瞬は明楽側に回ることなく、おとなしく座ってクリスマス仕様の料理に舌鼓を打っている。普段の彼をよく知っている護からすると、違和感とまでは行かなくても少し変に思う所もあるのだろう。


 とはいえ、瞬がおとなしい理由は分かっている。

 むしろ瞬と同じ理由で護もパーティー開始前から疲れていたくらいだ。


「さすがの瞬も一日中アイツらの遊び相手は堪えたみたいだな」

「当たり前だろ……さすが小学校低学年、元気の塊だ。アイツらの体力無尽蔵すぎんだろ」


 護達の家がある住宅街では各家庭同士の結び付きが強く、この時期になると何世帯も集まって大規模なクリスマスパーティーを開催しているのだ。


 例年は20日前後に行われるのだが、今年は色々な都合が重なってクリスマスイブである今日の午後に合同大規模クリスマスパーティーが行われていた。


 中学生にもなるとそれぞれの友人との事もあるので、参加するのは大抵小学生以下の子供達とその保護者達で、護と瞬そして明楽の3人は子供達のまとめ役としてそのパーティーに参加していたのだ。


 大人達が大人達で盛り上がっている時に、小さい子供達の相手をするのが護達の役目なのだが、プレゼント交換の進行や安全確保に加えて子供達の有り余る元気の捌け先になるというのは結構な疲労が溜まるものだ。


 それは明楽も同じはずだが……


「お前はピンピンしてるっぽいな……って明楽!」


 苦笑しながら明楽の方に顔を向けると、そこには護のベッドに仰向けに倒れ込んでいた。よく見ればすぅすぅと寝息を立てている。

 どうやら明楽にも相応の疲労は溜まっていたらしい。それをテンションで誤魔化していたが、ついに限界が来て寝てしまったようだ。


「あーもう寝るなら事前に多少は眠そうな反応を見せてくれよ……」


 明楽は昔から急に寝るタイプだった。3人で遊んでいたと思ったら急に落ちるなんて事がよくあったし、直前まで「眠くなーい」って言ってたのに気が付いたら寝てた……なんて事がよくあったと明楽の母親からも聞いた事がある。


 とは言え急に落ちられると結構びっくりするから多少の兆候くらいはほしいものだが……


 そんな事を考えながら、ウェットティッシュで明楽の口の周りを拭いてベッドにちゃんと寝かせてやる。

 明楽の電池切れ(寝落ち)はよくある事だ。故にその対応も心得ている。少し寝れば以外とすんなり起きたりするのが明楽なのだ。


「また明楽は寝落ちか」

「あぁ。まぁ明楽も疲れてたんだろ」


 そろそろいい時間だ。料理はもとよりケーキやお菓子も無くなりかけていた。お開きにはちょうどいいタイミングだっただろう。


 瞬と2人でパーティーのあと片付けをしていると、暇つぶしの雑談のつもりか瞬が話しかけてきた。


「初めて3人でクリパした7年前っていったらさ……アレ覚えてるか?」

「7年前……って事はアレか。覚えてる覚えてる」


 思い出されるのは7年前……まだ小学校4年生だった頃のクリスマスイブ。そう言われて思い浮かべるのは、未だに忘れられないあの思い出。


 あの日は初めての子供だけのクリスマスパーティーと言うこともあり新鮮な気持ちでパーティーを楽しみ……そして今日と同じように明楽が寝落ちしてしまった。

 瞬と2人でお菓子の袋やジュースのペットボトルを片付け、寝てしまった明楽を護がおぶって明楽の家(お隣)まで運んだのだ。


 そして、瞬が言っている“アレ”とは……十中八九明楽を送り届けたその後の出来事だろう。



 ◆◆◆◆◆


「明楽〜寝る前にしっかり歯を磨きなさいよ。じゃないとサンタさん来てくれないからね」

「はぁ……い……」


 母親の言葉に半分寝ながら答えた明楽(9歳)は、フラフラとした足取りで洗面所へ向う。その後を明楽のお父さんがついて行ったので万が一という事も無いだろう。


 紗栄子さんは洗面所に向かった明楽を見送ると、玄関に立っている護(10歳)と瞬(9歳)に向き直る。


「護くんも瞬くんもありがとね。明楽急に寝ちゃうから大変だったでしょ」

「大丈夫ですよ。明楽が急に寝るのは今に始まった事じゃないので」

「そうそう、あいつの寝落ちは慣れたもんっすよ」

「2人とも明楽を運んできて疲れたでしょ、少し上がって行きなさいよ」


 現在時刻は午後9時。小学生が出歩くには遅い時間ではあるが、護も瞬も自宅はこの神崎家のすぐ隣、徒歩1分未満だ。なんならベランダを伝って帰ってもいい。その上、神崎家と護の鷹嶺家、瞬の米倉家は親同士も高校時代の友人であり、家同士の結び付きも深い。断る理由は無いだろう。


「それじゃあ……失礼します」

「失礼しまーす」

「あ、そうだ。ケーキが余ってるんだけど……食べる?」

「「食べます!」」

「はいはーい。取ってくるからリビングで待っててねー」


 明楽の母親はキッチンに向かい、護と瞬の2人は言われた通りにリビングに向う。正直言っておやつが貰えるかもしれないという打算が無かった訳では無いので、2人とも行動は迅速だ。


「はいどうぞ」


 リビングのテーブルで待機していた2人の前に差し出されたのは、ホイップクリームたっぷりのいちごのショートケーキだった。


「「ありがとうございます」」


 2人は早速お礼を言ってからケーキに手を付ける。

 ふわふわのスポンジに挟まれた、とろけるような甘いホイップクリームで口の中が甘さでいっぱいになった所にいちごの酸味が染み渡る。


「「美味いっ!」」

「ふふ、それはよかった」


 しばらくの間、心底美味しそうに差し出されたケーキを食べている護と瞬を微笑ましそうに眺めていた明楽の母親だったが、2人がケーキを食べ終わると、両肘をテーブルの上に乗せて両手を顔の前で組む、どっかの組織のボスのようなポーズを取る。


「さて……2人ともケーキを食べたわね?」

「「えっ……」」


 明楽の母親の突然の変化に2人は驚きの声を漏らすが……それ以上に2人の脳内にはマンガでよく見かけるあのシーンを思い浮かべていた。


 すなわち……


 施しを受けたのだから……分かってるよな(相応の働きはしろよ)


 というあのシーンである。


「えっ、あっ、えー」

「お金は無いです」


 どうしたものかと護が言葉をつまらせていると、瞬が口の端にホイップクリームをつけながらキリッとした顔で言い切る。


 その顔を見て、明楽の母親は軽く吹き出した。


「まさかお金なんて取らないわよ。ちょっとお手伝いして欲しいだけ」


 なんだ……と護がほっとしたのもつかの間、真剣な顔に戻った明楽の母親が再びのボスモードで2人に向き直る。


「ちょっと頼みたい事があるのよ。そう、2人はもう……クリスマス(サンタさん)の秘密を知ってしまっている。そんなあなた達にしか頼めない事が、ね」


 彼等がサンタさんの秘密を……クリスマスの真実を知ったのはいつの事だったか。


 護は見てしまった。

 4年前のあの夜に……ふと物音に目を覚ました護は、枕元にプレゼントを置こうとしている父親の姿を。

 小学校に上がる前の彼には酷な現実をバッチリと見てしまい、全てを悟った護は現実から目を逸らすように目をそっ閉じしたのだった。

 そこから数日の間、護と父親の間に気まずい空気が流れたのは言うまでもない。


 瞬は見つけてしまった。

 去年のクリスマスの少し前に……父親の部屋のクローゼットに隠されていたプレゼントを。

 まさかとは思いつつ包み紙のそこに小さくマークを入れて、クリスマスの朝に枕元に置いてあったプレゼントにも同じマークがあったことで彼は全てを悟ったのだ。

 そこから数日の間、瞬のテンションの下がりように親が困惑したのはは言うまでもない。


「秘密……ですか」

「アレは嫌な事件だった……」


 早々に知ってしまったせいで毎年この時期になるとなんとも言えない感じになっている護と瞬が遠い目をして呟く。

 そこは大人にとっても子供にとってもどうしていいのか分からない領域の話なので、あまり深く踏み込まない方がいいのだろう。


「うちの明楽はまだサンタさんを信じているんだけど……この前学校でサンタさんは実在するのかって議論になったらしくてね」

「あーそんな事もありましたね」

「あの時は微妙に教室に居づらかったわ……」


 クリスマスを目前としたこの時期に、教室で2つの派閥が出来ていた。明楽を筆頭にした『サンタさんはいる』派と『現実的に考えてサンタさんはありえない』派に分かれて日々討論が行われていた事は記憶に新しい。

 なお、このどちらにも属さない『知ってしまった』派も護や瞬を筆頭に数人いたのだが……彼等が議論に介入する事はついぞなかった。


「それで明楽が『サンタさんの存在を証明する』って張り切っててね」

「サンタさんの証明って……明楽はどうやるつもりなんですか?」

「トラップでもしかけて捕まえるのか?」

「トラップってお前」ペシっ

「あてっ。なんだよ?」

「いや、なんでもない」


 瞬のせいで三匹の子豚の狼が引っかかった罠に同じように引っかかるサンタさんを想像してしまった護が八つ当たり気味に瞬を小突いてしまったのは仕方ない事だろう。

 それだけ想像の中のサンタさんがシュールだったのだ。


「なんでもいない派の主張が『サンタさん=親』だったらしいのよ。それで明楽は『親が部屋に入れない状態にした上でクリスマスプレゼントが届けばサンタさんは実在すると言える』って考えたらしいのよ」

「はぁ……」

「それで私と夫が明楽の部屋に行けないようにするって意気込んでてね。今日は2階に上がっちゃダメって言われてるのよ」


 その方法にしたって色々と穴はあるが……まぁ理にかなってはいる。


「ダメって言われても明楽もずっと起きてる訳じゃないからこっそり明楽の部屋に入っちゃえばいいんだけどね……明楽って変なところで行動力を発揮する娘だから……」

「あぁ……確かに明楽はそういう所ありますもんね」


 小1の頃の運動会の玉入れでクラスを完璧にまとめ上げて運動会史上初めて全ての玉をネットに入れることに成功したり、遠足の時のオリエンテーリングを歴代最速でクリアしたりなど……例を上げれはキリがない。


「夫なんか『もし入ってきたら一生口聞かない!』って言われてビクビクしちゃって、その点護くんと瞬くんなら最悪見つかっても言い訳が効くでしょ?だから代わりに明楽の部屋にプレゼントを持って行って欲しくて」


 明楽のそう言って席を立つと、クリスマスをイメージした包み紙のプレゼントを持って戻ってきた。


「これがそのプレゼントなんだけれど……お願いしてもいいかしら?」

「任せてください!」

「やってやりますよ!」


 母親の依頼をノータイムで承諾する護と瞬。

 ケーキ云々を抜きにしても、明楽にはサンタさんを信じる純粋な心を失って欲しくなかったのだ。自分達はもう……失ってしまったから。


「みっしょん・いん・くりすます!だな!」


 瞬はなんだかんだでこの状況も楽しんでいるに違いない。護も少しワクワクしているのだから。


「ちなみにミッション・イン〇ッシブルって『ポッシブル』っていう場所があるんじゃなくて『インポッシブル』っていうひとつの単語らしいぞ」


 とりあえず護はノリよく拳を突き上げている瞬に、この前父親が教えてくれた事を補足しておく。瞬が驚いたように護を見てるが、自分も少し前まで勘違いしていたので無視して机の上に置かれたプレゼントを手に取り、明楽の部屋に向かう為リビングを後にした。


 

ミッション・インポッシブルをミッション・イン・ポッシブルだと思うのは人間誰しも1度は通る道だと思うの。


あ、読んでくれれば分かると思いますがこの閑話は前後編になっているので、明日に後編を投稿しまする。


おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします


ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!


そろそろ投稿再開出来そうな当作品を今後もよろしくお願いします!

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[良い点] 面白い [気になる点] 誤字っていうか何かがおかしい 初めて3人でクリパした7年前っていったらさ……アレ覚えてるか?」 「7年前……って事はアレか。覚えてる覚えてる  思い出されるのは7年…
[気になる点] 護の反応は分かるけど瞬の行動は賢過ぎない? 実は地頭めっちゃ良い?
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